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第5章 束の間の休息(5日目)
5ー11 行先
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「ルチアーノ。どういうつもりでおれに票を入れた?」
バーラムが怒りの形相で立ちはだかった。
「君があまりにも何も言わないからさ」
彼は同室のスディープ同様日頃から無口だがここまでしゃべらない男ではない。ラジューとマリアを避けて誰に投票するか考えた時その印象から彼が浮かんだ。
「命を奪う話の場にすらいたくない」
「だったらそう言わなきゃわからないよ」
軽くいなしてルチアーノは会議室を出た。
自分の中で優しさが擦り切れているのを感じる。
違う。隠す余裕が無くなっただけでそちらが本性だ。こういう自分がとても嫌だ。
自室に入り、パソコン前に座ってハンカチを開きクロスを手に取る。
(明日、礼拝室の聖書のそばに飾ろうか)
身に付けたままなら会議室カーペット下の地獄に落ちて悪人共の手に渡ってしまう。マリアはそれが嫌だったのだろう。
見ていると学校の敷地内教会の祭壇、施設の礼拝堂と次々に思い浮かんだ。
ステンドグラス。祈りの声、自分さえ入らなければ美しいハーモニー。
(俺が票を入れて、マリアを殺した)
票を投じた相手が最多票となり処刑されるのは初めてのことだ。
首を横に振る。
ルチアーノは手を組んで目を閉じ、天国へ昇るマリアの旅路を祈った。
ーーーーー
1階のバスルームで身支度を済ませラジューは急ぎ足で階段を昇った。
「!」
中央のロビーにあったテーブルが5号室横の壁に沿って置いてある。
「お前が最後だ。早くしろ」
後方にバーラムを控えさせてナラヤンが言った。
「ああ戻ったか」
部屋に入るとスレーシュがことを説明してくれた。こことアッバースたちの4号室が人狼のいるー可能性が高いー部屋だ。そのためナラヤンたちがテーブル等で外から部屋を封鎖することとなった。
向こうでヴィノードがつまらなそうにやりとりを眺めている。
「あと悪いけど、今夜は君を縛るよ」
スレーシュは言いにくそうに切りだした。
ーーーーー
中央窓の外は今夜も平穏で誰の遺体もなかった。
確かめた後、アッバースはラジューが動き出すのを待ち彼がバスルームを出て2階へ向かうまで見送った。そのため就寝前に礼拝室へ寄る時間がなくなった。
『人狼なんだから、時間までに部屋に戻らなくてもいいでしょう?』
床に打ちひしがれるラジューを待つと言えばナイナが反駁し、ナラヤンも同調した。彼らの主張は論理的に間違っていない。人狼を減らすことは殺されないための第一歩だ。
なのに何故彼がルール違反を犯さぬよう見守っているのか、自分は。
ベッド脇に置いたミニカーペットー廊下の共同クローゼットの中から見つけたーの上で夜の礼拝を行う。この時だけは今夜のことも「ゲーム」の行く末も頭から除け、アッラーと、その前に立つ自分だけを思った。
お陰で、礼拝を終えた時アッバースの胸の内にしっかり今後の行動方針が定まった。
ー生き残る人間を最大にするー
ああ、神様の望むままに。
ーーーーー
23時にパソコンの電源が入りいつものように配役の通知が流れる。
モニター下部に映るNEXTを選んで進んだ先はいつもの切り札の説明ではなかった。
『 予告 あなたの配役は
変成狼(1)
です
・同じ配役のプレイヤーはいません
・明朝5時、起床時刻の時点で村人から人狼に変わります
以降は毎日人狼の義務を果たす必要があります↓
・一晩につき他陣営プレイヤー1人の殺害が必要です…… 』
人狼がなすべき事項の説明の最後に、
『あなたが今夜人狼に殺害された場合、ルール違反での処刑または事故・病気で死亡した場合、この配役変更はキャンセルとなります』
「……」
バーラムが怒りの形相で立ちはだかった。
「君があまりにも何も言わないからさ」
彼は同室のスディープ同様日頃から無口だがここまでしゃべらない男ではない。ラジューとマリアを避けて誰に投票するか考えた時その印象から彼が浮かんだ。
「命を奪う話の場にすらいたくない」
「だったらそう言わなきゃわからないよ」
軽くいなしてルチアーノは会議室を出た。
自分の中で優しさが擦り切れているのを感じる。
違う。隠す余裕が無くなっただけでそちらが本性だ。こういう自分がとても嫌だ。
自室に入り、パソコン前に座ってハンカチを開きクロスを手に取る。
(明日、礼拝室の聖書のそばに飾ろうか)
身に付けたままなら会議室カーペット下の地獄に落ちて悪人共の手に渡ってしまう。マリアはそれが嫌だったのだろう。
見ていると学校の敷地内教会の祭壇、施設の礼拝堂と次々に思い浮かんだ。
ステンドグラス。祈りの声、自分さえ入らなければ美しいハーモニー。
(俺が票を入れて、マリアを殺した)
票を投じた相手が最多票となり処刑されるのは初めてのことだ。
首を横に振る。
ルチアーノは手を組んで目を閉じ、天国へ昇るマリアの旅路を祈った。
ーーーーー
1階のバスルームで身支度を済ませラジューは急ぎ足で階段を昇った。
「!」
中央のロビーにあったテーブルが5号室横の壁に沿って置いてある。
「お前が最後だ。早くしろ」
後方にバーラムを控えさせてナラヤンが言った。
「ああ戻ったか」
部屋に入るとスレーシュがことを説明してくれた。こことアッバースたちの4号室が人狼のいるー可能性が高いー部屋だ。そのためナラヤンたちがテーブル等で外から部屋を封鎖することとなった。
向こうでヴィノードがつまらなそうにやりとりを眺めている。
「あと悪いけど、今夜は君を縛るよ」
スレーシュは言いにくそうに切りだした。
ーーーーー
中央窓の外は今夜も平穏で誰の遺体もなかった。
確かめた後、アッバースはラジューが動き出すのを待ち彼がバスルームを出て2階へ向かうまで見送った。そのため就寝前に礼拝室へ寄る時間がなくなった。
『人狼なんだから、時間までに部屋に戻らなくてもいいでしょう?』
床に打ちひしがれるラジューを待つと言えばナイナが反駁し、ナラヤンも同調した。彼らの主張は論理的に間違っていない。人狼を減らすことは殺されないための第一歩だ。
なのに何故彼がルール違反を犯さぬよう見守っているのか、自分は。
ベッド脇に置いたミニカーペットー廊下の共同クローゼットの中から見つけたーの上で夜の礼拝を行う。この時だけは今夜のことも「ゲーム」の行く末も頭から除け、アッラーと、その前に立つ自分だけを思った。
お陰で、礼拝を終えた時アッバースの胸の内にしっかり今後の行動方針が定まった。
ー生き残る人間を最大にするー
ああ、神様の望むままに。
ーーーーー
23時にパソコンの電源が入りいつものように配役の通知が流れる。
モニター下部に映るNEXTを選んで進んだ先はいつもの切り札の説明ではなかった。
『 予告 あなたの配役は
変成狼(1)
です
・同じ配役のプレイヤーはいません
・明朝5時、起床時刻の時点で村人から人狼に変わります
以降は毎日人狼の義務を果たす必要があります↓
・一晩につき他陣営プレイヤー1人の殺害が必要です…… 』
人狼がなすべき事項の説明の最後に、
『あなたが今夜人狼に殺害された場合、ルール違反での処刑または事故・病気で死亡した場合、この配役変更はキャンセルとなります』
「……」
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