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第4章 いつまで耐えねばならないのか(4日目)

4ー15 夢

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『本日処刑されるのは34番と決まりました』
 ガシャガシャと足枷が開く音が響く中、
『34番。何か言い残すことはありますか』
 感情を感じさせないアナウンスが降りてくる。

「私、今ここで死ぬの?」
 シュルティは肘掛けをぎゅっと握った。
「そんなつもりじゃなかった……」
 左からアディティが早足で寄り肘掛けの上で強張る手を握る。右からはテーブルの端を回ってニルマラが走り寄り遠慮がちに右手を握った。
「ニルマラ、約束守ってくれたね」
「うん」
「ダンスしてるとこ、もっと見たかったな。アディティが薬剤師さんになるのも見たかった」
「……」
 アディティの腕が震え、目からは涙が落ち始めそのまま顔をシュルティの頬に寄せる。ニルマラはもっと大きく震えている。両腕をシュルティの右腕に重ね、膝立ちになってシュルティの顔を見上げる。
「先生は、私たちを教えて徳を積まれたから会えないだろうな。スティーブンも。……マヤには会えるかな。もし高いところへ生まれ変わるのでも少し私のこと待っててくれないかな……」
 ぼんやりと目を薄める。
「私、夢を見ているんだと思ってる。……今は校外学習のバスの中で、チャイを飲んで眠ってて目が覚めたら隣にマヤがいるの……遺跡はもうー」
 一瞬、何かに気づいたように目を開いてシュルティの体から力が抜けた。
「二人とも離れろ! 危ない!」
 アッバースが叫ぶ。アディティが目をシュルティに置いたまま二歩下がる。ニルマラは口をがくがくと動かし、シュルティを見上げて固まっている。
「失礼いたしますっ!」
 飛んできたラジューがニルマラの両腕を後ろから取って引き隣の空席ーキランの席だったーの後ろに立たせる。
「あっ!」
 アディティが声を上げた。
 椅子の背がぶわん! と回転し頭部分が床上二十センチほどにまで下がってシュルティの体は頭から椅子を滑り落ちた。力ない腕が床を叩く。
 小さく口を開いた夢見るようなシュルティの顔。
 バタン! タイルカーペットが開き彼女の体は床下に吸い込まれる。アディティは恐る恐る近づいて下を覗き、頬を手のひらで拭う。背後から見守るようにシャキーラも下を窺う。
 ラジューが手を離したニルマラはその場から動かず床に開いた穴をただ見つめた。
 ばねが跳ね上がるように勢いよくカーペットの扉は戻り何もなかったような平らな床となる。


 沈黙を破り会議室に叫びが響いた。
「揃っている間に言っておくぞ! オレは嘘を吐いていた。オレはただの村人じゃねえ。『漂泊者』だ!」
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