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第3章 仲間ではいられない(3日目)

3ー3 ランチタイム

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(女のくせに男が食ってるのに食べ始めるなよ!)
 ノンベジ食堂の長テーブルには白いプラスチック椅子が並ぶ。
 ヴィノードは奥の端に座り、同じテーブルの反対端で席に着き始めたアディティとシャキーラを睨んだ。
 女なら台所でチャパティを焼いているべきだ。
 満腹になってもいないのに台所から抜けたら誰が温かいチャパティやカレーのお代わりを配ると言うのだ。
(……)
 家のリビングにチャパティを盛った籠を持って来る母の姿を思い出した。
(母ちゃん)
 母の美味しい料理ももうしばらく食べていない。
 いや、もう食べられないのかもしれない。
「オイ、ルチ! いい加減飯食えよ!」
 涙をごまかすようにどなる。
 ルチアーノがまだ台所から出て来ていない。
 そもそも男がキッチンに入ること自体間違いだが、ルチアーノは育ちが育ちだから知らないのは仕方がない。「良家の」女どもが教えないのが悪い。
(あいつら結婚する気ねえのか!)

「キリのいいところまでチャパティ作っとく。あともう少し!」
 台所から声が返る。
「早くしねえとメシなくなっちまうぞ!」
「俺の分はキープしてあるから大丈夫」
 チッと舌打ちしてから敵のようにチャパティを引き裂き、マトンカレーに三回つける。シナモンが目立ち過ぎだが味は一昨日昨日よりかなりましになった。
 だがチャパティだけでパロータもなくては飽きるとまた心中文句を言う。

 そこまでメシにがっついて豚になる気かと女子に絡みたくなったがイスラム教徒のシャキーラもいるのに「豚」呼ばわりは洒落にならない。
 宗教で人をからかうことの誤りと重さはルクミニー先生から長々説明を受けた。
 もう誰にも嫌がらせをしないとも約束した。
(先生……)
 手が震えてしまうのを隠すようにヴィノードはチャパティでマトンのかたまりをすくった。肉がたいして美味くないのは冷凍肉のせいだと女どもは言い訳をするが調理が下手なだけだろう。まして焦がしたのは絶対お前らのせいだー焦げ臭い匂いに顔を歪めヴィノードは黙々とマトンカレーを平らげた。


 手前のテーブルから注意していたがヴィノードが女子にけんかを売ることはなさそうだ。
 スティーブンはほっと自分のダルに手を戻す。
「どうしておれが人狼でないと信じてくれるんだ?」
 ぽつんとひとりで食べていたヤトヴィックの正面にアッバースと座った。
「君の言動が人狼らしくない、って判断からかな」
 この状況下信じられるものをスティーブンはまだ見つけていない。
「それとさっき話してたんだけど『人狼部屋』があるんじゃないか、って」
 向こうからアディティがちらりとこちらを見る。これは彼女やカマリが言い出したものだ。
「夜中に部屋を抜け出すのは難しい」
 12時から3時の間に誰が部屋を出て行って戻ってきたなどの話はない。
 切り札の1日目脱出権のように人狼部屋が存在する説はスティーブンには頷けるものだった。1日目脱出権と同じように、
「ふたつの四人部屋と、そこに入らないひとりという組み合わせかもしれない」
 切り札にならうなら男子と女子1部屋ずつか。
 だが人に手をかけるのは体力的に女子には難しい。男子2部屋かもしれない。また、
「3・3・3ってのも考えられるけど、」
「そりゃ面倒臭い組み合わせだ」
 アッバースが肩をすくめる。

 四人部屋説の問題は、人狼は役なしの村人を騙る説にそえば女子は7号室、男子は自分たちの5号室が当たってしまうことだ。一方男子だけなら全員がいなくなった1・2号室を除いた3から5の四人部屋のうち二つとこちらも考えたくないほど恐ろしい。
(うちの部屋は違う。少なくとも僕は村人だ)
 ならばナラヤンのいる3号室とアッバースの5号室となるがこれもあり得ない。
 何も信じられなくても友人だけは信じられる。

 PCのチュートリアル動画では占星術師が二人出てひとり偽物だと処刑された後で本物だと証明されていた。
 このゲームでは多くの人が嘘をつくのがセオリーのようだが自分たちの中で役は重なっていない。人狼は無難な役なし村人に隠れている可能性が高い。
(動画と違ってタントラがいないのが痛いな。いや)
 動画でも後から出てきていた気がする。亡くなった中にいるのでなければ早く名乗り出てほしい。人狼を探す大きな手掛かりになる。

 四人部屋でなく3・3・3と人狼が分かれているとするなら、三人部屋の6号室と女子10号室が怪しくなりヤトヴィックの疑惑は増すが、
「そっちの組み合わせだと夜出られる人数が減る。それにアディティは村人だし」
 ナラヤンの占いで証明されている。
「君たちの部屋に人狼がいると切り札を明かした本人だ。10号室が人狼部屋なら自分で自分に疑いをかけるのは愚かだよね」
 彼女がこのような失敗をするとは思えない。
 昨日出たように6号室はアティフだけが人狼だった可能性が高いとスティーブンは見ていた。
「うちは人狼部屋じゃないよ。アディティは兄弟だし、シャキーラは聖者。ちゃんと役があるもの」
 向こうからマリアが口をはさんでくるのに手を振って頷いた。
 こうやって皆が人狼じゃない村人だと主張し始めると始末におえなくなる。筋道を立てて考える助けにはならない。
「とにかく君は今夜ナラヤンに占ってもらえば村人の証明は出来る」
「問題は会議だろ?」
 アッバースが低くささやきヤトヴィックは顔をこわばらせた。
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