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第1章 リアル人狼ゲームへようこそ(1日目)
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「何で言わなかった?!」
ラーフルは凄まじい形相で女子たちに詰め寄った。
「何でって……」
キランが戸惑いがちに漏らせば、
「てめえら知ってたんだろ? どうして隠してた?!」
ヴィノードも掴みかからんばかりの勢いで顔を突き出す。マリアはシャキーラと共にびくりと身を引いた。
「あれだけパンパン鳴りまくってたのにどうして気づかなかったのよ」
カマリが男子に言い返す。
(うわあ、まずい)
彼女はいつも言い方がきつい。クラスでは珍しいかなり短めのショートカットはシャープな印象で、睨む目も蛇のようで恐い。
だが教室での口喧嘩ならともかく男子は三人も亡くなっているのだ。
「人のせいにするの止めなよ」
その隣でキランが体を揺らしながら返す。口調はそこまできつくないが男子の目つきは険しくなる。
「じゃあおれたちのせいだと!」
「そんなこと言ってないでしょ」
「そういうことじゃねえか!」
「わたしたちだって何もわかってない。部屋に入る度に警告が鳴って『もしかしたら』とは思ったけど、確証もないこと言いふらせないでしょう」
それこそ命がかかっているんだから、とセミロングの髪を結ばず後ろに垂らすーこれもクラスでは珍しいーサニタが割と冷静に話す。
「今さら言ったって遅えんだよ!」
ヴィノードは怒鳴りラーフルは、
「どうしてくれるんだよ! ディーパックはもう帰ってこないんだぞ!」
涙声で詰めてきた。
「放送が違うんじゃ……」
呟いたスディープはああ? とヴィノードに凄まれて首をすくめる。
「辛いのはわかる。けどこちらにぶつけないでもらえる?」
小首を傾げナイナが礫のように投げた。
びゅっ!
ラーフルの右ストレートはルチアーノが腕を握って止めたが勢いでふらつき拳は虚空に飛ぶ。男子らがしがみついてラーフルをとどめ、
「女の人に手を出すのだけは駄目だよ。……何があってもね」
ルチアーノが息を整えつつラーフルとヴィノードを見据える。と、
「見ろ!」
スティーブンとアッバースが割って入り中央窓を手のひらで示した。
ガラガラガラガラー
商店街でよく聞くシャッターの巻き上げ音が窓の外から聞こえている。
上部がアーチ型の大きな中央窓の向こうにぼんやりと赤みがかった灯りが見えた。
アッバースはポンとルチアーノの背中を叩き、スティーブンはナイナたちに大丈夫? と尋ねて何人かの頬を赤くさせている。
「女子は後ろにいた方がいい。何があるかわからねえぞ」
寄ろうとしたマリアたちをアッバースが制する。
『プレイヤーの遺体処理は火葬か土葬かが選べます』
いきなりアナウンスが始まった。
『この中央窓は土葬の方です。朝晩の三十分間のみ開きます。ここから排出された遺体は当方で責任を持って土葬します。ご安心ください』
(この女の人の「ご安心ください」ってずれてる気が)
よく見えない窓の向こうを眺めマリアが呟いた時、
「あ!」
数人が窓に向かい突進した。
『窓から外に出てはいけません! ルール違反で退場処理をします』
『体の一部を外に出してもなりません』
ラケーシュたちの遺体を安置してある手前でほとんどの人間が足を止める。
勢い余って壁にぶつかったシュルティがこちらを見、照れ笑いで舌を出す。
「自分が言ってああなんだからー」
マットレスの上少し高くなった所に眠るラケーシュとガーラブ、間に合わずシーツだけがかけられているディーパック。彼らを迂回してスティーブンとアッバースが窓の正面に入り込んだ。ぼやいたナラヤンを含め何人かも後に続く。
アッバースが掛け金を開け内開きの窓を開くと広間に少し冷えた空気が入り込み拡散した。この時期まだ夜は寒い。
「テント? みたいなので下まで覆われてて外は見えない。灯りは上四隅の電球だ」
軽く振り返ってスティーブンが説明する。
「ここに身を乗り出さず、体もはみ出さないでご遺体を外に出すのは難しいと思いますが。何か方法の指示はあるんですか」
普段の彼を知っている人間だけにわかる尖りを帯びた声でスティーブンが天井に問いかける。答えは返らなかった。
頬ににじり寄る冷んやりとした空気にマリアは改めて自分たちが監禁されていることを思い知る。
『もう一方の火葬については火葬室の用意があります』
殺された三人は皆ヒンドゥー教徒だったので火葬が選択された。ただしここでも問題があった。
中央窓の反対側、振り子時計のある壁に沿い会議室との間の細い通路をかなり進んだ突き当たりに、
cremation room
との銀色の室名札が付いた青いドアがあった。外開きの重いドアを引くと中に今度は横に開く赤い扉があり、中は金属で構成されたスペースだった。部屋の幅いっぱいにベッド大の皿のようなものがあり何とか2人の遺体は並べられる。
だが3人を同時に葬るとなると誰かは上に乗せなくてはならない。
そもそもふたり一緒ですら尊厳を損なっていると考える者もいた。
「こういうのはひとりずつだろう?」
「酷い死に方だ。せめてお弔いくらいー」
「時間は二十分だぞ」
火葬室の稼働時間は20分間。
その後新たな遺体を受け入れることが可能になるとアナウンスは言っていた。
中からは開かないので注意するように。ただし他者からの悪意で閉じ込められた場合などは解除し、入れた方の人間を暴力行為で処罰するー
今は22時35分を過ぎている。
「ギリギリになるぞ」
「一晩置くのもよくない」
「可哀想だよ」
「姿形が変わってしまわないうちに弔ってあげるのも尊厳を守ることだと思う」
結局先に死亡したラケーシュとガーラブを並べて火葬し、ディーパックについては今夜はここに安置、明朝葬ることになった。
数人がかりでふたりを寝かせドアを閉めると、室名札の下にある表示窓に緑色で20のデジタル数字が点灯した。
僧侶の唱えるマントラも花もない、クラスメートの人生の終わりを金属の扉の向こうに送るだけで済ませるやりきれなさや憤りは誰もが感じていた。扉前のあちらこちらでそれぞれに祈る。
(神様)
両手を組んで祈りを捧げ、胸元を握ろうとしてまたクロスがないことにマリアは気付く。
目を開けた時、ラーフルが項垂れて体を震わせているのを見て今夜何度目かの涙がにじむのを覚えた。
ラーフルは凄まじい形相で女子たちに詰め寄った。
「何でって……」
キランが戸惑いがちに漏らせば、
「てめえら知ってたんだろ? どうして隠してた?!」
ヴィノードも掴みかからんばかりの勢いで顔を突き出す。マリアはシャキーラと共にびくりと身を引いた。
「あれだけパンパン鳴りまくってたのにどうして気づかなかったのよ」
カマリが男子に言い返す。
(うわあ、まずい)
彼女はいつも言い方がきつい。クラスでは珍しいかなり短めのショートカットはシャープな印象で、睨む目も蛇のようで恐い。
だが教室での口喧嘩ならともかく男子は三人も亡くなっているのだ。
「人のせいにするの止めなよ」
その隣でキランが体を揺らしながら返す。口調はそこまできつくないが男子の目つきは険しくなる。
「じゃあおれたちのせいだと!」
「そんなこと言ってないでしょ」
「そういうことじゃねえか!」
「わたしたちだって何もわかってない。部屋に入る度に警告が鳴って『もしかしたら』とは思ったけど、確証もないこと言いふらせないでしょう」
それこそ命がかかっているんだから、とセミロングの髪を結ばず後ろに垂らすーこれもクラスでは珍しいーサニタが割と冷静に話す。
「今さら言ったって遅えんだよ!」
ヴィノードは怒鳴りラーフルは、
「どうしてくれるんだよ! ディーパックはもう帰ってこないんだぞ!」
涙声で詰めてきた。
「放送が違うんじゃ……」
呟いたスディープはああ? とヴィノードに凄まれて首をすくめる。
「辛いのはわかる。けどこちらにぶつけないでもらえる?」
小首を傾げナイナが礫のように投げた。
びゅっ!
ラーフルの右ストレートはルチアーノが腕を握って止めたが勢いでふらつき拳は虚空に飛ぶ。男子らがしがみついてラーフルをとどめ、
「女の人に手を出すのだけは駄目だよ。……何があってもね」
ルチアーノが息を整えつつラーフルとヴィノードを見据える。と、
「見ろ!」
スティーブンとアッバースが割って入り中央窓を手のひらで示した。
ガラガラガラガラー
商店街でよく聞くシャッターの巻き上げ音が窓の外から聞こえている。
上部がアーチ型の大きな中央窓の向こうにぼんやりと赤みがかった灯りが見えた。
アッバースはポンとルチアーノの背中を叩き、スティーブンはナイナたちに大丈夫? と尋ねて何人かの頬を赤くさせている。
「女子は後ろにいた方がいい。何があるかわからねえぞ」
寄ろうとしたマリアたちをアッバースが制する。
『プレイヤーの遺体処理は火葬か土葬かが選べます』
いきなりアナウンスが始まった。
『この中央窓は土葬の方です。朝晩の三十分間のみ開きます。ここから排出された遺体は当方で責任を持って土葬します。ご安心ください』
(この女の人の「ご安心ください」ってずれてる気が)
よく見えない窓の向こうを眺めマリアが呟いた時、
「あ!」
数人が窓に向かい突進した。
『窓から外に出てはいけません! ルール違反で退場処理をします』
『体の一部を外に出してもなりません』
ラケーシュたちの遺体を安置してある手前でほとんどの人間が足を止める。
勢い余って壁にぶつかったシュルティがこちらを見、照れ笑いで舌を出す。
「自分が言ってああなんだからー」
マットレスの上少し高くなった所に眠るラケーシュとガーラブ、間に合わずシーツだけがかけられているディーパック。彼らを迂回してスティーブンとアッバースが窓の正面に入り込んだ。ぼやいたナラヤンを含め何人かも後に続く。
アッバースが掛け金を開け内開きの窓を開くと広間に少し冷えた空気が入り込み拡散した。この時期まだ夜は寒い。
「テント? みたいなので下まで覆われてて外は見えない。灯りは上四隅の電球だ」
軽く振り返ってスティーブンが説明する。
「ここに身を乗り出さず、体もはみ出さないでご遺体を外に出すのは難しいと思いますが。何か方法の指示はあるんですか」
普段の彼を知っている人間だけにわかる尖りを帯びた声でスティーブンが天井に問いかける。答えは返らなかった。
頬ににじり寄る冷んやりとした空気にマリアは改めて自分たちが監禁されていることを思い知る。
『もう一方の火葬については火葬室の用意があります』
殺された三人は皆ヒンドゥー教徒だったので火葬が選択された。ただしここでも問題があった。
中央窓の反対側、振り子時計のある壁に沿い会議室との間の細い通路をかなり進んだ突き当たりに、
cremation room
との銀色の室名札が付いた青いドアがあった。外開きの重いドアを引くと中に今度は横に開く赤い扉があり、中は金属で構成されたスペースだった。部屋の幅いっぱいにベッド大の皿のようなものがあり何とか2人の遺体は並べられる。
だが3人を同時に葬るとなると誰かは上に乗せなくてはならない。
そもそもふたり一緒ですら尊厳を損なっていると考える者もいた。
「こういうのはひとりずつだろう?」
「酷い死に方だ。せめてお弔いくらいー」
「時間は二十分だぞ」
火葬室の稼働時間は20分間。
その後新たな遺体を受け入れることが可能になるとアナウンスは言っていた。
中からは開かないので注意するように。ただし他者からの悪意で閉じ込められた場合などは解除し、入れた方の人間を暴力行為で処罰するー
今は22時35分を過ぎている。
「ギリギリになるぞ」
「一晩置くのもよくない」
「可哀想だよ」
「姿形が変わってしまわないうちに弔ってあげるのも尊厳を守ることだと思う」
結局先に死亡したラケーシュとガーラブを並べて火葬し、ディーパックについては今夜はここに安置、明朝葬ることになった。
数人がかりでふたりを寝かせドアを閉めると、室名札の下にある表示窓に緑色で20のデジタル数字が点灯した。
僧侶の唱えるマントラも花もない、クラスメートの人生の終わりを金属の扉の向こうに送るだけで済ませるやりきれなさや憤りは誰もが感じていた。扉前のあちらこちらでそれぞれに祈る。
(神様)
両手を組んで祈りを捧げ、胸元を握ろうとしてまたクロスがないことにマリアは気付く。
目を開けた時、ラーフルが項垂れて体を震わせているのを見て今夜何度目かの涙がにじむのを覚えた。
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