10 / 170
第1章 リアル人狼ゲームへようこそ(1日目)
1ー7 警告1
しおりを挟む
夕食は散々だった。
まず女子の多くはパニックに陥っていて、それでも動き出した者たちは慣れない台所、各自違う食事の条件、普段とは違う大人数の調理にベジ・ノンベジ双方共失敗した。
ディーパックが聞いたのはベジのダルは煮崩れ過ぎているのに芯が残ったといい、ノンベジの方では煮具合は普通だったが煮詰め過ぎてグレービーがなく豆のカレーにならなかった。水を加えスパイスを加えを繰り返すごとに味が悪化ーノンベジのキッチンに男子でただひとり入ったルチアーノの証言である。
『修道会のイベントでよく手伝うから』
と力仕事のチャパティのタネ作りと焼きに参加し、焼き加減は女子が一切文句を言わない腕であったが寝かせもしないチャパティが美味しい訳もない。
チキンカレーはこれまたダル同様に調整を繰り返したそうでカルダモンだけが効き過ぎて他の味がわからなかった。
それでもノンベジ食堂はスティーブンやアッバースがとりなして「無事」だったが、ベジ食堂では文句を言う男子と女子の間でいさかいが起こり、喧嘩のうちはまだ良かったがそのうち女子が泣き出し始末が付けられなくなったと聞いた。
誰にとっても「母さんの味」が一番、この短い間に女子は良くやったと思う。
(自分が出来ないことで文句言うんじゃねえよ)
パソコン回りをチェックしながらディーパックは思う。
こうなるとジャイナ教徒故におそらく一番食事条件が厳しいバーラムが、
『僕の食べられるものは君たちには作れないと思う』
と最初から断り、食材庫を片っ端から漁った上でレトルトカレーと瓶詰めのアチャールを選びチャパティだけもらって済ませたのは賢かった。
学生寮のチャイ配りをしているという雑役夫は料理もと期待されたが、出来るのはチャイ作りだけだそうでベジ組は落胆していた。今頃彼は皿洗いをしているはずだ。
一方ノンベジ食堂では誰が皿を洗うかで多少もめたがディーパックは気にせず自分の分を洗うとさっさと自室へ向かった。
割当られた部屋は寮生曰く「寮の三人部屋の二倍以上」というほどに広かった。
木製のしっかりしたベッドの横にモニターが乗った机と椅子があり、古い映画で写真屋が被るような黒い幕で覆われている。めくれば黒布は左右に立てたアクリル板に乗せてモニターを隠している、とやたら仰々しい。モニター枠の上部には首輪と同じ数字8の大きなシールが貼ってある。
(なら、コレは持って行った方が良さそうだな)
隣の3号室に友人のラーフルがいて、向こうにはこっちの部屋のハルジートと馬が合うダウドがいる。部屋を交換しようと決め今準備している。もう少しすれば10時半、広間で例の説明がある時間だ。
床をたどってパソコン本体を見つけ、
ブチっ!
コンセントを引き抜く。PCの上にモニターを乗せて歩きだすと、
「落とすなよ」
ハルジートが声をかけた。
面倒と言えばゲームを知っていると手を挙げたことで食事中もその後も質問攻めに合ったのには参った。「汝は人狼なりや」はアメリカかヨーロッパかで人気のカードゲーム、とどこかの動画で聞いただけで自分はそれ以上何も知らない。
ベッドは頭を壁に付ける方向に並び隣にPC机、その横の幅広の白いクローゼットには服や下着がかなり豊富に揃っている。これが四方に配置され、窓側はここだけ妙に安っぽい黄色のカーテンで仕切られている。
広間の床より少し灰味がかった寝室の床石はカーテン向こう奥行き1メートルほどではセピア色の石に変わっている。中の中央には四角い簡易トイレが鎮座していた。年寄りが使う類のものだろう。
端の窓下には小さな手洗い用の洗面があり、お祈りの前にお浄めが出来るとムスリムのダウドが喜んでいた。窓はご丁寧にも並んだ鋼板で外から塞がれている。どこまで逃したくないのかとこれまた異常だ。
おかしいと言えばモニターだ!
四人部屋の廊下側、ここではハルジートのスペースとドアをはさんで向かいのラケーシュが寝るはずだった場所の壁にそれぞれ大き目のモニターが掛けられている。おまけに天井にまでだ!
アルミ枠のより大きなモニターが白い天井の中央近くに下を向いて付いている。
部屋に三つとは何のつもりだろう。
そもそも、どこかわからない場所に監禁されクラスメートが次々と殺される異常事態の下、女子なら料理をしたり自分が明日の着替えを考えたりと普通の日常が入ることに違和感がある。
(……)
廊下側のドア横、肩より少し下の高さに手のひらより小さい銀色のプレートがあり四方に小さな赤いランプが光っている。各自ポケットなどに勝手に押し付けられたカードキー(シルバーの金属製で片面に大きく首輪数字のシールが貼ってある)を近づけるとランプが緑に変わり、ドアが開く。
自分の部屋だけで人の部屋には当てても開かない。何人もが試してそう結論付けた。だから今は隣の部屋のドアを椅子で開けっ放しにしてもらっている。
3号室へ足を踏み入れ奥へ進むと、
『Warning! Warning! Out of rules!』
部屋のモニターが点灯し、黄色い画面の上で黒い文字がおどろおどろしく点滅し始めた。例のサイレンの上に重なる女の声も繰り返される。
ディーパックは天井のモニターを眺めた。
(何だ?)
『Warning! Warning! Out of rules!』
2回目のそれがディーパックには生涯最後に聞いた音となった。
〈注〉
・ダル 豆(ダル)のカレー
・チャパティ 全粒粉などをこねて伸ばしたタネを焼いて作る平たいパン
まず女子の多くはパニックに陥っていて、それでも動き出した者たちは慣れない台所、各自違う食事の条件、普段とは違う大人数の調理にベジ・ノンベジ双方共失敗した。
ディーパックが聞いたのはベジのダルは煮崩れ過ぎているのに芯が残ったといい、ノンベジの方では煮具合は普通だったが煮詰め過ぎてグレービーがなく豆のカレーにならなかった。水を加えスパイスを加えを繰り返すごとに味が悪化ーノンベジのキッチンに男子でただひとり入ったルチアーノの証言である。
『修道会のイベントでよく手伝うから』
と力仕事のチャパティのタネ作りと焼きに参加し、焼き加減は女子が一切文句を言わない腕であったが寝かせもしないチャパティが美味しい訳もない。
チキンカレーはこれまたダル同様に調整を繰り返したそうでカルダモンだけが効き過ぎて他の味がわからなかった。
それでもノンベジ食堂はスティーブンやアッバースがとりなして「無事」だったが、ベジ食堂では文句を言う男子と女子の間でいさかいが起こり、喧嘩のうちはまだ良かったがそのうち女子が泣き出し始末が付けられなくなったと聞いた。
誰にとっても「母さんの味」が一番、この短い間に女子は良くやったと思う。
(自分が出来ないことで文句言うんじゃねえよ)
パソコン回りをチェックしながらディーパックは思う。
こうなるとジャイナ教徒故におそらく一番食事条件が厳しいバーラムが、
『僕の食べられるものは君たちには作れないと思う』
と最初から断り、食材庫を片っ端から漁った上でレトルトカレーと瓶詰めのアチャールを選びチャパティだけもらって済ませたのは賢かった。
学生寮のチャイ配りをしているという雑役夫は料理もと期待されたが、出来るのはチャイ作りだけだそうでベジ組は落胆していた。今頃彼は皿洗いをしているはずだ。
一方ノンベジ食堂では誰が皿を洗うかで多少もめたがディーパックは気にせず自分の分を洗うとさっさと自室へ向かった。
割当られた部屋は寮生曰く「寮の三人部屋の二倍以上」というほどに広かった。
木製のしっかりしたベッドの横にモニターが乗った机と椅子があり、古い映画で写真屋が被るような黒い幕で覆われている。めくれば黒布は左右に立てたアクリル板に乗せてモニターを隠している、とやたら仰々しい。モニター枠の上部には首輪と同じ数字8の大きなシールが貼ってある。
(なら、コレは持って行った方が良さそうだな)
隣の3号室に友人のラーフルがいて、向こうにはこっちの部屋のハルジートと馬が合うダウドがいる。部屋を交換しようと決め今準備している。もう少しすれば10時半、広間で例の説明がある時間だ。
床をたどってパソコン本体を見つけ、
ブチっ!
コンセントを引き抜く。PCの上にモニターを乗せて歩きだすと、
「落とすなよ」
ハルジートが声をかけた。
面倒と言えばゲームを知っていると手を挙げたことで食事中もその後も質問攻めに合ったのには参った。「汝は人狼なりや」はアメリカかヨーロッパかで人気のカードゲーム、とどこかの動画で聞いただけで自分はそれ以上何も知らない。
ベッドは頭を壁に付ける方向に並び隣にPC机、その横の幅広の白いクローゼットには服や下着がかなり豊富に揃っている。これが四方に配置され、窓側はここだけ妙に安っぽい黄色のカーテンで仕切られている。
広間の床より少し灰味がかった寝室の床石はカーテン向こう奥行き1メートルほどではセピア色の石に変わっている。中の中央には四角い簡易トイレが鎮座していた。年寄りが使う類のものだろう。
端の窓下には小さな手洗い用の洗面があり、お祈りの前にお浄めが出来るとムスリムのダウドが喜んでいた。窓はご丁寧にも並んだ鋼板で外から塞がれている。どこまで逃したくないのかとこれまた異常だ。
おかしいと言えばモニターだ!
四人部屋の廊下側、ここではハルジートのスペースとドアをはさんで向かいのラケーシュが寝るはずだった場所の壁にそれぞれ大き目のモニターが掛けられている。おまけに天井にまでだ!
アルミ枠のより大きなモニターが白い天井の中央近くに下を向いて付いている。
部屋に三つとは何のつもりだろう。
そもそも、どこかわからない場所に監禁されクラスメートが次々と殺される異常事態の下、女子なら料理をしたり自分が明日の着替えを考えたりと普通の日常が入ることに違和感がある。
(……)
廊下側のドア横、肩より少し下の高さに手のひらより小さい銀色のプレートがあり四方に小さな赤いランプが光っている。各自ポケットなどに勝手に押し付けられたカードキー(シルバーの金属製で片面に大きく首輪数字のシールが貼ってある)を近づけるとランプが緑に変わり、ドアが開く。
自分の部屋だけで人の部屋には当てても開かない。何人もが試してそう結論付けた。だから今は隣の部屋のドアを椅子で開けっ放しにしてもらっている。
3号室へ足を踏み入れ奥へ進むと、
『Warning! Warning! Out of rules!』
部屋のモニターが点灯し、黄色い画面の上で黒い文字がおどろおどろしく点滅し始めた。例のサイレンの上に重なる女の声も繰り返される。
ディーパックは天井のモニターを眺めた。
(何だ?)
『Warning! Warning! Out of rules!』
2回目のそれがディーパックには生涯最後に聞いた音となった。
〈注〉
・ダル 豆(ダル)のカレー
・チャパティ 全粒粉などをこねて伸ばしたタネを焼いて作る平たいパン
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
眼異探偵
知人さん
ミステリー
両目で色が違うオッドアイの名探偵が
眼に備わっている特殊な能力を使って
親友を救うために難事件を
解決していく物語。
だが、1番の難事件である助手の謎を
解決しようとするが、助手の運命は...
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる