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第1章 リアル人狼ゲームへようこそ(1日目)

1ー5 校外学習(2026年 ウッタル・プラデーシュ州 ラクナウ郊外)

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 校外学習は初っ端から波乱含みだった。
 まず休憩で止まったバスステーションで荷物室に学校雑役夫の少年が忍んでいたのが見つかった。
「何しているの?!」
 担任教師のルクミニーは叱ったが、
「コレならここだよ」
 運転手が周知用の大きな鈴を手元でかき鳴らし、彼のいたずらだと白状した。職務に必要な鈴を奥に隠したと伝え少年が荷物室に入ったところで閉じ込め、そのままバスを出発させたとにやにやする。一方少年は涙目だ。
 今さら少年を返すにも交通費がかかる。ルクミニーは学校に連絡し、少年は同行させその間教員の仕事を手伝わせると話を付けた。

 決まりが悪くなったのかバス運転手はお腹が下った、交代が十五分で来ると言い残しさっさと逃げた。
 予定より早い十分で交代は到着、同僚の不始末の詫びにとルクミニーと生徒全員にチャイをふるまった。間もなくこのクラスのバスも他のバスより三十分も遅れずバスステーションを出発した。

 
 一番寒い時期は過ぎた。
 昼間はもうセーターを着なくてもいい。今は過ごしやすく心地良い季節、絶好の校外学習日和だ。
 マヤはhotなのが苦手だ。酷暑の時期は動く気もしないし、皆がこの季節の楽しみにしているセーターももこっと熱い空気に包まれる感じが好きではない。
 食べ物も熱すぎるとすぐ舌が傷む。昨日も校門近くのパニプリ屋で友人たちと買い食いして夕食時から苦労する羽目になった。わかっていてもあのパニプリ屋は美味しいのだ。
 だからバス内に回ってきたチャイも冷めてから飲もうと手を付けず、チャイスタンドの男がガラスコップを回収しに来た時になって慌てて隣の友人に飲んでもらった。

 幹線道路を走っていたバスはいつの間にか森と石切場の間の砂利道を進んでいた。
(もう遺跡は近いのかな)
「ね、あの木ハート型してるみた……」
 言いかけて止めた。シュルティは隣で首をがくりと落として寝入っていた。
 とバスが森の小道に入って止まった。

「チャイは飲まなかったのか」
 通路に運転手が立っていた。
 雰囲気の異様さに、
「先生……」
 最前列にいるはずのルクミニー先生を呼ぶ声が震えた。
 変だ。先ほどまでおしゃべりで満ちていたバスの中が沈黙している。
 通路側の友人も、運転手の向こうのクラスメイトも眠っている。
「チャイは嫌いか」
 男の顔は逆光で見えない。眼鏡が光るのだけが見えた。
「口内炎で……今日は熱いもの駄目だったんで……」
(えっ?)
 パサっ。
 白い布が胸元に広がったかと思うと、
「!!」
 マヤの胸に深々とナイフが刺さった。
 彼女が最初の犠牲者だった。



〈注〉
・ウッタル・プラデーシュ州 インド北部、最も人口が多い州 ラクナウはその州都
  州内の観光地ではタージマハルのあるアグラーやヴァーラーナシーが有名
・パニプリ インドのスナック
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