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11 終章:死と希望

11ー2 青い箱2

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 パタリ。
 ノートを閉じる音がいやに大きく聞こえた。

「これからどうする?」
 小太りの若者が聞く。
「どうもこうもないだろ」
 投げ返した若者は対称的に少し痩せ気味だ。
「僕たちがこのノートを引き継ぐ」
「本気か! 洒落にならないぞ」
「なあ。何故あいつは僕たちにノートを託したんだ?」
「……自分がやってきたことを知ってもらいたかった」
 ぽつりと答える。
「それもあるだろう。でもだったら奥さんでも、心酔していたその親父さんでも良かったんじゃないか?」
 自分が倒れた後友人たちにノートが渡るよう言い置いていたのは、
「奥さんや義理のご家族は危ないことに巻き込みたくなかったらだ」
「俺たちなら死んでもいいと思ってるっていうのか!」
「そんな訳ないって! だけど僕らなら、万難を排してこのノートの旅を続けてくれるって思ったんじゃないだろうか」
「州知事や警察のお偉いさんにだって手を回せるんだぞ。俺たちに何が出来る?」
「あいつはやった」
「で、やられたんだろ。その前にも人死には出ている。半端なことじゃないぞ」
 結婚もせずに死ぬのは嫌だ。朝起きてすぐに寝顔を眺めて鼻の下を伸ばすのが夢なんだと小太りの男は言い募る。
「ならばこのまま見て見ぬ振りをするか? あいつの村の女の子みたいにまた殺されちまう子が出るかもしれない。あいつとは違ってヒンディーの出来ない子は近くにいないかもしれないけど」
 彼らはヒンディー語圏の出身だ。
「僕らの妹たちがいつ街で誘拐されて、面白半分の金持ち共のために殺し合いの現場に投げ込まれて悲惨な死を遂げてもいいと? 何も出来ないってあきらめるか!?」
「オイ、お前らしくないぞ。出来ることならあいつの仕事の跡を継ぎたい。だけど手がないって言ってるんだ」

「……このノートの記述は詳しすぎる」
 痩せ気味の男は白いテーブルの上パラパラと灰色のノートをめくった。
 「リアル人狼ゲーム」。ふざけた監禁事件。
「あいつは当事者から話を聞いている。『プレイヤー』か、村の子のような『監視人』のどちらかだ」
 紙を透かすようにページを凝視する。
「接触出来るのは州知事オフィスか、WSSOのお役人さんか、××通りの絨毯店だと思ったんけど」
 ノート巻末の連絡先リストをたどる。
 政治家、ジャーナリストに警察関係。労働組合に法律事務所ー
 その手が止まった。
 今時古めかしい薄くつやのある紙での文書。
 貼り付けてあったのは病院の面会票で、面会対象の名は生還したプレイヤーのひとりと同じだ。
「入院してるってこの人も襲われたんじゃ……」

 ふたりは携帯を操り、しばらくして同時に顔を上げた。
「ここ……!」
「……精神病院だ」
「あいつは頭がイっちまった奴の妄想に踊らされたってこと?」
「だったら撃たれなかった」
「…………」
「無理にとは言わない。僕がこのノートを貰う」
「待てよ! お前には監視役が必要だ。危ない橋を渡りすぎないようにー」
 ノートを引ったくり元の青い箱に収めた男の背をもうひとりが小走りに追った。


                       

<注>
・WSSO Water Supply & Sanitation Dept., Govt. of Maharashtra
 マハーラーシュトラ州給水及び衛生管理局


                        <終>

 
「リアル人狼ゲーム in India 〈リターン&リベンジ!〉」
 に続きます。

 高校生たちによるリアル人狼ゲームの合間に今作サバイバーや関係者の人生が絡みます。

 この後はネタバレの配役表と各日の行動一覧(占い先など)です。
 参考文献は上記続編巻末にまとめました。
(直接の引用は文中の注に載せてあります)
 今作のインド映画ネタまとめは今後載せる予定ですが2024年9月現在まだ作業中です。すみません。


 デスゲームとインドーインド料理にインド映画と自分の好きなものを詰め込んだ話ですがお楽しみいただけましたら幸いです。
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