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第10章 ムンバイへの道(新7日目)
10ー3 温もり(新7日目)
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目隠しが不安を煽る。
ムンバイ警察本部に到着して間もなく安全な場所へ護送すると窓に金網の付いた車に乗せられた。やたらと曲がる経路もこれから行く場所を自分たちに知られたくないためかとアンビカは不穏さに脅える。
隣に座る女性警官は気配はあるものの無言のままだ。
犯罪者扱いめいてこれまた先行きが心配だ。
(でも……仕方ないよね)
ライフルを主に何丁もの銃器、荷台には少年の遺体。怪しまれるのも当然だ。
細長い車の長辺部分に沿って向かい合いで白いカバーの椅子があり、斜め前にスンダルが座ったのを出発前に見た。
彼は警察官のひとりとずっとネット関係の話をしている。首輪とネットの接続をどのように処理したのか、ウルヴァシと名乗っていた犯人側の人間と司令塔との連絡状態など専門的な内容だ。アンビカにはほとんど理解出来ないが結構盛り上がっているように聞こえる。
「君、学校終えたら警察に来ない?」
「俺は正義の味方って柄じゃないんで」
(スンダル、よくそんなこと言える)
犯罪者扱いされているかもしれないのにまずくないか?
アンビカの懸念とはうらはらに向こうからは小さな笑い声が漏れた。
「ますます向いてるよ。僕たちが自称『正義の味方』を何人捕まえてきたと思う?」
ここはムンバイ。だが、
(私、家に帰れるかな)
ひとつの希望は、車にへ案内した警察官のひとりが三日前まで地元署に勤めていたとのことで、
『アンビカさん? ですよね。××通りの絨毯屋の若奥様ではないですか』
と声をかけられたことだ。
『身元確認出来るのか』
上官に聞かれ、地元署に捜索願が出ていると伝える。
彼はスマホとアンビカの顔を何度か見比べた。
『何で最優先捜索リストに入っているんだ?』
『警部が家のインテリアに凝ってまして。噂されてましたよ、あんまり見つからなかったら絨毯で家が飛んじまうんじゃないかって……済みませんっ!』
上官に睨まれ若い警官は口を噤んだ。
車に乗り込む前に彼はこう慰めた。
『恐い思いなさったでしょう。もう大丈夫ですよ。ご主人とお舅さんかな、毎日署に来ていました。ご家族皆さんがマダムの帰りを待ち望んでいらっしゃいます』
聞いて涙が滲んだのを覚えている。
婚家に拒否されたら実家に戻るしかないが、その前にせめて陰からでいいから一目息子を見せてくれとお願いするつもりだった。
忙しい中警察に日参するくらいなら、誘拐された女でも迎え入れてくれると思っていいのだろうか。
膝の上で丁寧に重ねた両手。
その中で確かにぬくもりを失っていったはずのイムラーンの手が温かく自分を握ってくれているような気がする。
『アンビカさんは大丈夫ですか?』
(イムラーン、私頑張るね。大人だしお母さんだもの)
また目尻に涙がたまりだした。
「ここから後は許可を出すまでしゃべらないでください」
車が止まり前方から男の声が厳しく言い置いた。
ムンバイ警察本部に到着して間もなく安全な場所へ護送すると窓に金網の付いた車に乗せられた。やたらと曲がる経路もこれから行く場所を自分たちに知られたくないためかとアンビカは不穏さに脅える。
隣に座る女性警官は気配はあるものの無言のままだ。
犯罪者扱いめいてこれまた先行きが心配だ。
(でも……仕方ないよね)
ライフルを主に何丁もの銃器、荷台には少年の遺体。怪しまれるのも当然だ。
細長い車の長辺部分に沿って向かい合いで白いカバーの椅子があり、斜め前にスンダルが座ったのを出発前に見た。
彼は警察官のひとりとずっとネット関係の話をしている。首輪とネットの接続をどのように処理したのか、ウルヴァシと名乗っていた犯人側の人間と司令塔との連絡状態など専門的な内容だ。アンビカにはほとんど理解出来ないが結構盛り上がっているように聞こえる。
「君、学校終えたら警察に来ない?」
「俺は正義の味方って柄じゃないんで」
(スンダル、よくそんなこと言える)
犯罪者扱いされているかもしれないのにまずくないか?
アンビカの懸念とはうらはらに向こうからは小さな笑い声が漏れた。
「ますます向いてるよ。僕たちが自称『正義の味方』を何人捕まえてきたと思う?」
ここはムンバイ。だが、
(私、家に帰れるかな)
ひとつの希望は、車にへ案内した警察官のひとりが三日前まで地元署に勤めていたとのことで、
『アンビカさん? ですよね。××通りの絨毯屋の若奥様ではないですか』
と声をかけられたことだ。
『身元確認出来るのか』
上官に聞かれ、地元署に捜索願が出ていると伝える。
彼はスマホとアンビカの顔を何度か見比べた。
『何で最優先捜索リストに入っているんだ?』
『警部が家のインテリアに凝ってまして。噂されてましたよ、あんまり見つからなかったら絨毯で家が飛んじまうんじゃないかって……済みませんっ!』
上官に睨まれ若い警官は口を噤んだ。
車に乗り込む前に彼はこう慰めた。
『恐い思いなさったでしょう。もう大丈夫ですよ。ご主人とお舅さんかな、毎日署に来ていました。ご家族皆さんがマダムの帰りを待ち望んでいらっしゃいます』
聞いて涙が滲んだのを覚えている。
婚家に拒否されたら実家に戻るしかないが、その前にせめて陰からでいいから一目息子を見せてくれとお願いするつもりだった。
忙しい中警察に日参するくらいなら、誘拐された女でも迎え入れてくれると思っていいのだろうか。
膝の上で丁寧に重ねた両手。
その中で確かにぬくもりを失っていったはずのイムラーンの手が温かく自分を握ってくれているような気がする。
『アンビカさんは大丈夫ですか?』
(イムラーン、私頑張るね。大人だしお母さんだもの)
また目尻に涙がたまりだした。
「ここから後は許可を出すまでしゃべらないでください」
車が止まり前方から男の声が厳しく言い置いた。
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