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第2章 バトルフィールドへようこそ(2日目)

2ー1 賽は投げられた(2日目朝)

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 コケコッコー!
 鶏が三回鳴いた。あれはうちの鶏じゃない、録音だ、今朝の仕事はーと目を擦ってクリスティーナははっとした。
「生きてる!」
 両手で自分の両腕を抱き締める。感謝の祈りを述べるとざっとベッドを降りドア前の仕掛けを元に戻した。まず今朝の「結果」を知りたい。犠牲が出ていないといいがー
『ナマスカール。朝になりました。これより部屋への出入りは自由になります。今日も一日『リアル人狼ゲーム』をお楽しみください』
 鶏の声から繰り返しアナウンスは終わる。ぎろりと上を睨むとシャワールームに突進した。


 結論から言うと、姿が見えない人間を皆が確認するまでに三時間以上かかった。
 沐浴を済ませ速やかに階下に降りたつもりだったがやろうとしていた掃除には既に手が着けられていた。加えてもらいモップで血を拭き清める。
 鼻に汗が滲んできた頃、
「Good morning クリスティーナ!」
 アビマニュが声を掛けてきた。良かった、彼は無事だ。
「何を手伝えばいいですか?」
「Good morning アビマニュ。乾拭きに回ってくれると助かる。掃除道具は玄関横の青いドアの中、水場は庭園のを使っている。右手奥からお願い」
 付け加えて、
「ね、シドを見た?」
「僕はまだです。それからあなたの隣に居た店員の人、多分死んでます」
「サミル!? あの、率先してザハールを捕まえに行った彼?」
「そうです」
「!!」
 他の人間も掃除の手を止める。
「マーダヴァンさんがベランダに出て見つけました」
 二階ベランダと壁との付け根すぐの下、土の上にうつ伏せで倒れていた。男性たちで声をかけ、置き時計をそばに落としても反応はない。
 服にはかなり砂がかかり指先は埋もれかけている。時間が経っていそうで、
「昨夜のうちに落ちたのではないでしょうか」
 声に悔しさが籠もった。
 二十三時には室内へという「ルール」を破りベランダに潜み「警告」の薬物注入で倒れて墜落したのか、樋を伝って降りてからの一撃か。
 乱暴者のサミルらしいが命を粗末にするのはいただけない。「奴ら」は細かい監視の目を敷いている。
(わからなかったの?)
 悲しみのまま床を強く擦る。
「狼」の「噛み」ではないが犠牲はひとり出てしまっていた。

 掃除が終わり再度シャワーと着替えをする。クローゼットから衿の大きい水色のシャツとジーンズを選んだ。食材庫から食堂内のアンビカに声を掛ける。
「沐浴してきた。今日は手伝いどうする?」
 アンビカは自然な笑顔で言った。
「体の調子を整える必要がある人は休んでいて」
 今朝の彼女はサリーでなくサルワール・カミーズ姿だ。
(ちゃんとシャワー浴びたって言ったんだけどな。月のもの扱いか)
 血は洗い流したが、血を流している女とみなされた訳だ。
「七時頃出来上がると思うから、食堂に来て!」
「時計に近い席で待ってる」
 こちらもにっこり微笑む。壁の時計側、つまり遠慮がちに一番端だが絶対座って食べてやるぞと伝えたのだ。
 同じく掃除に参加したアビマニュも台所入りを断られた。
 とっくに掃除が終わってから下りてきたスンダルは昨夜同様調理に参加したが本人曰く男ひとりだと落ち着かず、チャパティのタネをたんまりこねてさっさと退散したという。


 お湯が出るのは朝の五時から七時、夕の五時から七時そして夜二十三時から翌三時とあった。普段はともかく昨日からずっと冷房の部屋に居ると水シャワーは少々辛い。一日の始まりやお祈り前に身を清めたい人間はその間室外に出て来ない。
 次に、クリスティーナのように早朝からがっつり食べたい人間もいるが起き抜けはチャイとスナック程度で済ませ九時や十時過ぎにしっかり食べたい人間も居る。
 部屋には金属の受け皿付きのガラスコップを乗せてお湯が作れる簡単な温熱器と、イギリスブランドのティーバッグにドリップパックのコーヒーまで備えられていた。原始的な温熱器と、日本のある程度以上のホテルにありそうな紅茶とコーヒーの品揃えがミスマッチだと思ったのを覚えている。
 ミルクがないのでチャイは出来ないがブラックティーかコーヒーで我慢出来るなら部屋で済ませられる。食材庫にたくさんあったHaldiramの袋入りスナックを予め持ち込んでおけば軽食も可能だ。そうした面々は遅くならないと階下に降りてこないだろう。
 出入りが多い割に安否確認が進まない。焦るクリスティーナだったが、人々がなかなか降りて来ない原因は他にもあった。

 庭園側の奥に並べられた遺体からは臭いがし始めていた。
(夜の間は空調切ってたんだろうな)
 考えれば当然だ。朝一で部屋から出た時の廊下は格段に暑かったが徐々に心地良くなってきた。冷房が効いてきたのだろう。それでも遺体をこのままにしておく訳にはいかない。
(ガラス、直ってる)
 昨夜男たちがひびを入れたガラスは傷一つないものに変わっていた。夜中のうちに「奴ら」はここに出入りしているのかと得体の知れなさに寒気と怒りの双方がくすぶる。
 ガラス戸を開けて人数分用意されていたサンダルから金色のビーズのものを突っかけて庭に出る。右手の大きな瓶の上に手入れされずぼうぼうと伸びているトゥラシー(ホーリーバジル)に顔を近づけふうっと匂いを嗅ぐ。清涼感ある緑の香りにほっとする。しゃがみ込んでから建物を振り仰いだ。
 白く塗られた邸宅、二階・三階の窓のうちカーテンが開いているのは既に起きだした人間の部屋だろう。
「ねえ、花摘んでいい?」
 設備破壊とみなされてはかなわないと「上」に向かって聞いてやったが返事はない。ならばと白と黄色の花、それよりずっと多い枚数の細く長い葉を握って大広間に戻る。

「安否確認がしたいの。降りてきたら自分で自分の席の番号札にこれを結んで。『私は生きてるぞー!』って」
 テーブル回りの何人かにいいながら14番の番号札が揺れる白く弾力のある棒に葉を結びつける。ぱらぱらと後に続いた。
「『生きてる人手を挙げてーっ! てかよ』」
 プラサットを隣に従えロハンがあざ笑う。
「『死んでる人は手を挙げて』ってよりはマシなジョークだと思うけど」
 降って来た声に廊下を仰ぐ。二階の手摺りにラクシュミが両腕を持たれさせてこちらを見ていた。昨日と同じ白地に小花の私服なのはやはりクローゼット内の衣服が気に入らなかったのだろう。
(冗談でも何でもないんだけどね)
「Good morning ラクシュミ!」
 クリスティーナを見て頷くとすぐロハンに顔を向ける。
「でどうだったの?」
「昨日例の奴が刺されたのは手前のここです」
 大テーブルのすぐ横を腕で指す。
「モニターとの間に汚れの問題はありません」
(えっ?)
 思わずプラサットを見ると脅えたように目を大きくしてこちらに合図する。呆れてのため息を大きく吐き、目立たないようわざと顔を背けて頷いた。
(わかったって。黙っているから)

 ラクシュミは掃除されたとしても血で汚れた所は通りたくないのだ。
 昨日サミルらがザハールを引きずり床上に血の道を描いたルートは庭園奥から斜めに館の短辺を横切った。モニターまで届いていたら斜めだが完全に大広間を分断する。すると階段を降りてからモニター奥庭園側にあるベジタリアン食堂へ行く道が「血で」塞がれてしまうのだ。その手のことにうるさい人間は菜食組に多いから大変な騒ぎになるだろう。
 クリスティーナが胸の刀を抜いた時残っていた人数は少なかった。ロハンも席を立った後だったろう。だから自分がシーツで押さえて刀を抜き血が吹き飛び今朝きれいに拭き取ったのがテーブルからモニター方向だとは知らないのだ。
「わかるように布でも敷いておいて!」
 言うとタッとラクシュミは背を向け三階へ上がっていく。
(「知らぬが仏」って日本のことわざにあったよね)
 という訳で、血の汚れを著しく気にする人々は出来る限り階下に降りないように努めていた。

(イドゥリ食べたいなあ……)
 番号札の支持棒に葉が結ばれていくスピードが遅い。いらついて見ているうちすぐ七時となった。
 普段は時間があれば自転車を走らせタミル食堂の朝食に通うクリスティーナだが、昨日台所を見てもイドゥリやドーサの材料は揃わずサンバルパウダーも無かった。タミルではないから仕方がない。ところが、
「ファルハに教わってサンバル作ってみたの。材料足りないから代用したのもあるんだけど、食べてもらえればうれしい」
 距離を置いて、少し恥ずかしげな笑顔でアンビカが言う。
 皿に注いでもらって一口、
「おいしい!」
「タミルの人なら味が薄いって思うんじゃない?」
 少し離れた斜め前の席からファルハが軽く言う。
「そりゃもう少し辛い方が好みだけどチリ掛ければいいし」
 卓上のスパイスボックスを示す。
 確かに辛さ含めパンチ不足だとは思うが、豆のおいしさがよく出ているスパイス使いに酸味のバランス、舌触りも良く青菜の煮え具合もいい感じだ。
「アンビカは本当に料理が上手なんだ」
 食材の活かし方を知っている手だと思った。
 彼女は一旦きょとんとすると、
「お義母さんとかに比べるとまだまだだから」
 目を細め他の人にカレーをよそい始める。
「昨日来てて今日まだ顔見せてない人わかる?」
 話を変えた。彼女はしっかりしているから事実確認に信頼出来る。
「……パキスタンの男の子を最後に刺した人と、投票で間違えちゃったメイドの子がまだ」
「ジョージとアイシャか」
 23番と20番、とここまで持って来たノートを見て確かめる。アンビカが気付いたのはそれくらいだとのことだが、
「マートゥリーがまだ」
 ファルハが顔を曇らせれば、
「パンジャーブの畑やってる兄ちゃんも見てねえぞ」
 窓側のテーブルからラジェーシュが振り向いた。13番エクジョットは農業法案関係で政治家陳情と座り込みのためパンジャーブの村から出て来て難に遭った、シーク教の男だ。
「エクジョットなら広間では見た。遠目でターバンだけだけど」
 濃いエンジ色のターバンを巻いた背の高い男は彼だと思うが、顔まで見ていないので明言は出来ない。
「彼、食事のこととかわかるかな」
 ザハールは昨夜殺された。他にパンジャーブ語が出来る人間はここにいないようだ。
「ルールブックの説明は聞いているし、夕飯も食べているからわかるとは思うけど……」
 前でダルを食べていたアビマニュが口ごもる。
「あまり来ないようだったら声掛けてもらえる? 遅い時間に食べるつもりならいいけど」
 アビマニュは請け合う。
「あと、あの子見てない気がします。織物工場で働きながら学生やっている、クリスティーナさんの席近くの女の子です」
「セファか」
 彼女は16番。アイシャは出て来辛いのもわかるし、ジョージもそうかもしれない。遅く食べる組というだけならいいが気にかかる。

 ベジとノンベジ食堂それぞれで第一陣の食事が終わったのが八時過ぎ。その時点で大テーブルの番号札に葉が結びつけられていないのは六人だった。(昨日のうちに既に死亡した人間を除いてだ)
 犠牲者たちの埋葬の話も起こり、ヒンドゥー教徒については火葬室の絡みでこの後議論することになったがザハールと、昨夜玄関を襲撃して死んだ男が掛けていたお守りからイスラム教徒だとわかるので先に埋葬することとなった。
 本来ならどの宗派でも時間をかけて葬礼を準備するものだろうが、ここは最低限の仮埋葬のみ。ムスリムたちがふたりを庭園に埋葬する間、残った人間で男女に分かれ出て来ていない人間の部屋をノックして回った。


「きゃっ!」
 反応が無かったセファの部屋のドアを開けると転がり出した彼女とぶつかった。
「熱いっ!」
 勢いで転んで尻を付いたクリスティーナはセファの体の熱さにぞっとした。部屋からも熱過ぎる空気が廊下に流れ出る。抱える形になった彼女の髪からツンと響くハーブ様の香りに続き控えめな甘さの花の匂いが広がる。この館備え付けのアーユルヴェーダシャンプーだ。何度もそれで洗った自分の頭も同じ匂いがしているはず。
「セファ……?」
 どう考えても生きている人間の体にしては熱過ぎる。そっと頬に触れてこちらを向かせたが、焦ったような顔のまま空虚になった目にその死を悟る。
(!)
 脈も息も無い。個室の天井を見上げると扇風機も止まっていた。
「駄目だ。亡くなってる」
 横に首を振って見せる。
 朝になって鋼板が上がり外が見渡せるようになった窓の向こうに赤茶けた大地が見える。その窓も開いていて日に照らされ刻々と熱さを増す外の空気が流れこんでいた。閉める時窓枠に叩いたような傷が見えた。
 セファの遺体がもたれかかっていたドアにも何カ所が凹みと傷があり、そばには椅子が落ちていた。おそらく椅子の脚でドアを叩いて壊そうとしたのだろう。
「あの、わたし昨日、窓から助けを呼べないかなと思いました。板を動かせないか、って考えて、椅子の脚を隙間に入れようとしたらー」
 レイチェルが首からの薬の注入と部屋のモニターでの警告を受けたことを告白した。
「その時、空調が止まった気がしました。もしかしたら、この人も何かそういうことをやってしまったんじゃないでしょうか」
「私もヘアピンをドア下に仕掛けておこうとしたら警告を受けた」
 簡単に昨夜のことを説明する。確かにその後カチリと電子音で何か切り替わった気がしたが「占星術師」表示への切り替えだと思い込んでいた。だが空調を再開する音だったとすればー
「『奴ら』は薬とモニター表示の警告だけでなく、空調を止めていたかもしれないのか」
 レイチェルがうんうんと頷く。左右に分けた髪は編めるほど伸びておらず少し高い頬骨と広い額が目立つ。十年生、十五歳くらいにしてもあどけない顔だちだ。
「お姉さん、この人ヒンディー結構苦手みたいじゃなかったですか?」
 真っ青な顔で後ろから話しかけてきたのが4番のプージャ、カレッジ在学中。面長の顔にさらりと左右に垂らした長い髪、よく動く瞳は落ち着かない印象だが愛らしくもある。
「そうだね。ファルハがテルグ語通訳を入れてたー」
 思い起こす。手から転がっていたノートを拾い開くとセファの箇所には「ヒンディーは少し」との自己申告だったと記録がある。
「だったら、モニターを読み切れなかった可能性もあるのか」
 気が重く沈んだ。
 ここではクリスティーナが一番年上なようで、それより下の世代ならほとんどが小学校には入っている。あとはどこで通うのを止めたかだ。ヒンディー語が出来ないと言ってもナーガリー文字の読みを全く知らないとか、基本的な単語すらわからない人間は少ない。(少数存在する学校に通ったことのない人間はこの限りではない。例えば物乞いの子は観光客に絡んで上手な英語を話してもヒンディー語のアの文字ひとつ書けない)
 母語がヒンディーではない人間の「苦手」には、昨夜の会議のように普通のスピードで会話しルールブックのような長い文章を読み通すのは難しい、というレベルもある。日本の多くの人たちの英語力程度だろうか。
 通信で学び続けていたというセファならある程度のヒンディー語能力はあったはずだ。だがあの薬が入り動揺していたなら、最初は点滅もしたモニターの文章を落ち着いて読めただろうか。
『警告! 警告! ルール違反です』
 は理解出来ても、その後の具体的な文章は読めただろうか。

 結局順番がわからなかった。ドアや窓回りを壊そうとして警告を受け、故意か理解出来なかったかで無視して殺されたのか、故障で空調が止まり耐えかねて密室からの解放を求め窓やドアを壊そうとしたのか。薬の注入での殺害か熱中症かも不明だ。
(施設メンテくらいちゃんとしてよ。故障で殺されたら本当合わない)
 暑さに苦しんで死ぬのは想像するだけでたまらない。 
 座り込んだまま硬直した彼女の体は仰向けの安置が出来ず、膝を曲げたまま横向きの上にシーツが掛けられた。


 マートゥリーの部屋のドアを開けると机の手前に崩れ落ちている姿が見えた。そばの床にタブレットが落ちている。セファの時ほどではないがやはり室内が暑い。天井扇風機も動いていない。まさか。
「マートゥリー!」
 繰り返し叫んだが反応はない。入って大丈夫かと「警告」に躊躇した時、
「私が入ります」
 ダルシカが名乗りを挙げた。腰より長い黒髪は日本でなら「さらさら髪」と評価される美しい櫛目で、後ろひとつの三つ編みに垂らしている。丸く広い額に強く伸びた眉の下、アーモンド型の深みのある目は伏せがちだ。昨夜はサルワール・カミーズだったが今日は黄色いシャツとジーンズを選んでいる。
 ダルシカはクリスティーナの横を通り一歩、足を踏み入れる。警告はない。ダルシカのためにはいいことだが、人の部屋に足を踏み入れて問題ないのはールールブックに寄ればー住人が死んだ時、案の定彼女はマートゥリーに身をかがめるとびくっと後ろに下がり、それでも手首と首元で脈を測り鼻先に手をかざして、
「亡くなっています」
 呆然と言った。 
 マートゥリーの死の理由の方がセファよりもっとわからなかった。
 外傷はなく部屋に破壊の跡もなかった。念の為横に落ちたタブレットを電源に繋げたが起動しない。
 驚きに見開いていた目を閉じさせながらクリスティーナは涙を止めることが出来なかった。ショートカットが似合う魅力的な女性、将来有望なインド工科大の学生がなぜこんな死に方を強いられなくてはならないのか。
 彼女もまた横向きに庭園前に寝かされて荼毘を待つこととなった。ここでベランダ下のサミルと合わせ死者が三人。


 そして男性たちは眠るようにベッドで死んでいたシドを見つけた。
 上掛けをめくると白いパジャマの肩と胸と腹、計三カ所に血痕があった。銃創だろう、致命傷になったのは胸ではなく腹の方ではとマーダヴァンは語った。
(シド。あなたの掛けは成功しなかったんだ)
 殺されてしまったー
 「人狼」はゲームの筋立てに乗った。または自分の命のため乗らざるを得なかった。誘拐犯の連中の思惑通りこのバトルフィールドは被害者同士の殺し合いのフェーズに足を踏み入れた。
 聡明な面影に言葉にならないやりきれなさが身を切る。庭園前に下ろされたシドの遺骸を前に女たちは身を寄せた。左からレイチェルが腕に縋り付き右ではアイシャが震えながら肩に顔を寄せる。クリスティーナは両腕でふたりを抱き締め、男たちがシドにシーツを掛け、ロハンが何かマントラを唱えるのを見守った。

 1番から27番の番号札。昨夜生存していたのは22名。朝を迎えられたのは18名。
 「リアル人狼ゲーム」の始まりから半日で処刑と「狼」に「噛まれた」だろう各1名を含め9人の命が失われた。
(死に過ぎる。こんなのは日本の映画や漫画でもなかった)
 このままでは「ゲーム」すら成り立たなくなる。
 自分も、頼ってくれる女の子たちも捻るように殺されかねない。どうすればいい?!



<注>
・Haldiram インドの食品メーカー。袋や箱入りのインドスナックは有名。
・イドゥリ・ドーサ・サンバル どれも南部でのメニュー
 イドゥリは白く丸い米と豆の粉の発酵パンで酸味がある。朝食に食べる。
 ドーサは米と豆の粉で作るクレープ状のもの。
 サンバルは豆と季節の野菜のカレー(スープと表現されることも)で少し酸味がある。
  イドゥリやドーサと一緒に食べる。南インド人にとっての味噌汁という人も。
  スパイスや豆の粉などを合わせた市販のサンバルパウダーを使う人も、自宅で配合する人もいる。


 
 
 
 
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