上 下
89 / 94

89.

しおりを挟む
「ああ……?なんだこれ。随分と馬鹿でかいけど──」

 箱と箱の隙間からは黒光りした筐体が見て取れる。まさかとは思うがゲーム台?

「これは……」

 俺の様子が気がかりだったのか、錦織も覗き込んできた。黒髪がさらりと揺れて、モスクが香る。俺は思わず身じろぎして背中を仰け反らした。

 錦織は持ち場そっちのけで箱をどかし始め、中から出てきたのは──

「グランド…ピアノ……」

 錦織は細目で言い淀みながら呟く。

「ピアノか……俺はまるっきり弾けんがアンティークぐらいにはなりそうだな」

 世紀の発見だと俺は思うのだが彼女の表情は感嘆のそれではなく、曇り、ともすれば怯えているようだった。

「錦織ってピアノ弾けるか?」

「手解き程度なら……」

「うお……やっぱり弾けるのか。いや、全く違和感ないんだけどね?」

「……」

 錦織は居心地悪そうに顔を背けた。嫌な思い出でもあったのだろうか。

「夜崎。こちらではソファにテーブル、テレビ付きの家具が見つかったよ」

 埃を払いながら壱琉が言う。錦織の様子を気に掛けながらもその場を後にし、彼の元へと向かった。

「おお……これはもうリビングルームだな。流石のオサレ高校。設備だけは整っている」

 汚れた教室とはいっても精々半年そこらの話らしく、全てを片付けた頃には新築同然の様相になったのだった。
しおりを挟む

処理中です...