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 彼は再び席を立つと、「尚更、僕は必要ない」と言い残してこの場を去ろうとする。それは何処か寂しげな雰囲気を孕んでいた。

 このままでは前と同じ結果になってしまう。

「待ってくれ!最後に一つだけ言わせてくれ」

 聞き得たのか、彼の動作が静止する。

「俺をこの場所、この高校に導いてくれた壱琉に改めて感謝したい」

「礼なら綾崎先生にしてくれ」

「いや、俺は壱琉本人に対して礼をしているんだ。スカウト…断ることだって出来た筈だ。でもそれをしなかった。何故か」

「姉の頼みを断れないだけさ」

 壱琉は素っ気なく言葉を捨てる。これは本心ではない。

「いや、違う。壱琉。お前も成し遂げたい、抗いたい目的があったんじゃないのか?」

「…」

「…少なくとも俺にはそう見えた」

 言い終えて、俺は深々とお辞儀をした。同年代に対してこれほど丁寧に礼をすることになるとは。

 壱琉は背を向けたまま何か考える仕草をした。しかし、あの端正な顔立ちが振り返ることはなく──

「…以前はそんな気持ちがあったのかもしれない。ただ…いや、多分、君とは上手くやれなかっただろうな…」

 彼が捨て台詞を吐いて店を出ていく――その時である。
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