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俺はテーブル席に向かって左側に立ち、軽く会釈をする。
「一年A組の夜崎辰巳だ。…この前は不快な気分にさせて悪かった。なんせ底辺上がりなもんで知識とか色々欠如してて…」
敢えて丁寧な言葉は使わない。俺自身で向き合う必要がある。
彼はメニュー表を閉じると、目を伏せて言った。
「何度言われようと僕は関わらない。残念だけど、今日はここで失礼するよ」
言い終えて、壱琉は即座に席を立つ。
逃げられることは想定内。俺は間髪入れずに交渉材料を提示した。
「俺は…"綾崎壱琉"本人と話がしたい」
尚、彼の表情は変わらない。しかしながら、目の色が少し変わったように見えた。
「どこでその事を」
「…職員室でちょっとな」
壱琉はため息一つすると、席へと再び腰を下ろした。"姉"には叶わないらしい。
前から疑問に思っていた。何故、彼は苗字を口にしないのか。
それはあのキャピルンティーチャー綾崎智紗の実の弟であるからだ。
模擬食事会を終えたあの日、俺は職員室で一年D組の"正式な名簿"を発見した。壱琉の本名を知ったのだ。
何故、学校内で家族ぐるみそんな事になっているのかは知らんが、彼にとってかなりの厄介ごとらしい。
「先生から直接聞いたのか」
「いや、綾崎先生の口からは何も」
「そうか」
素っ気なく返事をする壱琉。そこから先は特に追及してこなかった。取り敢えず話は聞いてくれるという事なのだろうか。
「…メニュー表」
「は?」
「何か頼むのだろう。…こうなっては仕方がない。断りを入れれば、店側にも迷惑がかかる」
「そ、そうか…では失礼します」
不満と苛立ちが混じったような口調ではあったものの、やはり彼は律儀な性格のようだ。
グルメボーイたるもの食事作法だけではなく、店側への配慮と感謝を忘れないらしい。
「一年A組の夜崎辰巳だ。…この前は不快な気分にさせて悪かった。なんせ底辺上がりなもんで知識とか色々欠如してて…」
敢えて丁寧な言葉は使わない。俺自身で向き合う必要がある。
彼はメニュー表を閉じると、目を伏せて言った。
「何度言われようと僕は関わらない。残念だけど、今日はここで失礼するよ」
言い終えて、壱琉は即座に席を立つ。
逃げられることは想定内。俺は間髪入れずに交渉材料を提示した。
「俺は…"綾崎壱琉"本人と話がしたい」
尚、彼の表情は変わらない。しかしながら、目の色が少し変わったように見えた。
「どこでその事を」
「…職員室でちょっとな」
壱琉はため息一つすると、席へと再び腰を下ろした。"姉"には叶わないらしい。
前から疑問に思っていた。何故、彼は苗字を口にしないのか。
それはあのキャピルンティーチャー綾崎智紗の実の弟であるからだ。
模擬食事会を終えたあの日、俺は職員室で一年D組の"正式な名簿"を発見した。壱琉の本名を知ったのだ。
何故、学校内で家族ぐるみそんな事になっているのかは知らんが、彼にとってかなりの厄介ごとらしい。
「先生から直接聞いたのか」
「いや、綾崎先生の口からは何も」
「そうか」
素っ気なく返事をする壱琉。そこから先は特に追及してこなかった。取り敢えず話は聞いてくれるという事なのだろうか。
「…メニュー表」
「は?」
「何か頼むのだろう。…こうなっては仕方がない。断りを入れれば、店側にも迷惑がかかる」
「そ、そうか…では失礼します」
不満と苛立ちが混じったような口調ではあったものの、やはり彼は律儀な性格のようだ。
グルメボーイたるもの食事作法だけではなく、店側への配慮と感謝を忘れないらしい。
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