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尚も、指導は続く。
「はい!そこ!左から座る」
「えぇ…そうなの…別にどっちでもよくない?」
五十嵐は熱の入った指導を続ける。俺はそれに対してやや苦言を漏らしながらも、必死に喰らいついた。
最初は個人を拒絶するような酷い振る舞いをみせた五十嵐ではあったが、こうも真面目に協力してくれるとは。
暫く様子見をしていた錦織が五十嵐に注意喚起をする。
「五十嵐さん。詳細な指導をして頂けるのは非常にありがたいのですが、何せ彼は素人同然なんです。せめて、手順を説明されてから指導に当たってみては如何でしょう?」
錦織が珍しくフォローしてくれた。物事を的確に判断したい性(さが)である彼女はこの一方的なやり取りに違和感を覚えていたのだろう。
やだ…錦織さんったら!お優しい!
「え…?ああ、ごめんごめん。つい熱が入っちゃってね~」
五十嵐は掌を額にペチッとやると、冗談交じりに手をひらひらさせた。身体は錦織の方へと向けられている。どうやら、俺に対しての謝罪は無いらしい。
やっぱりこの子Sなんじゃないの?冗談抜きでSはいじめっ子の意味合いを含むから、加害者予備軍になりそう。
♢ ♢ ♢
気付けば、窓辺から夕焼けの橙が差し込み始めていた。
「えーと、カトラリーは刃物の総称という意味で外側から順に使っていくと…」
不慣れながらも、説明された内容を頭に叩き込み、実践していく。
「飲み物が運ばれてきたタイミングでナプキンを膝に広げるとよいでしょう。二つ折りになっている事をきちんと確認する事」
錦織の落ち着いた声音が通る。
てっきり、膝に敷くナプキンが赤ちゃん用の涎掛けかなんかだと思っていた。大きな勘違いだったらしい。
人差し指をフォーク、ナイフにそれぞれ添えながら、切る動作をする。
「お~。中々、様になってきたじゃない~」
ふわりとフェミニンなザボンが香ったかと思えば、綾崎先生が入口付近で顔を覗かせていた。腕時計の秒針は午後六時を指そうとしている。
「はい!そこ!左から座る」
「えぇ…そうなの…別にどっちでもよくない?」
五十嵐は熱の入った指導を続ける。俺はそれに対してやや苦言を漏らしながらも、必死に喰らいついた。
最初は個人を拒絶するような酷い振る舞いをみせた五十嵐ではあったが、こうも真面目に協力してくれるとは。
暫く様子見をしていた錦織が五十嵐に注意喚起をする。
「五十嵐さん。詳細な指導をして頂けるのは非常にありがたいのですが、何せ彼は素人同然なんです。せめて、手順を説明されてから指導に当たってみては如何でしょう?」
錦織が珍しくフォローしてくれた。物事を的確に判断したい性(さが)である彼女はこの一方的なやり取りに違和感を覚えていたのだろう。
やだ…錦織さんったら!お優しい!
「え…?ああ、ごめんごめん。つい熱が入っちゃってね~」
五十嵐は掌を額にペチッとやると、冗談交じりに手をひらひらさせた。身体は錦織の方へと向けられている。どうやら、俺に対しての謝罪は無いらしい。
やっぱりこの子Sなんじゃないの?冗談抜きでSはいじめっ子の意味合いを含むから、加害者予備軍になりそう。
♢ ♢ ♢
気付けば、窓辺から夕焼けの橙が差し込み始めていた。
「えーと、カトラリーは刃物の総称という意味で外側から順に使っていくと…」
不慣れながらも、説明された内容を頭に叩き込み、実践していく。
「飲み物が運ばれてきたタイミングでナプキンを膝に広げるとよいでしょう。二つ折りになっている事をきちんと確認する事」
錦織の落ち着いた声音が通る。
てっきり、膝に敷くナプキンが赤ちゃん用の涎掛けかなんかだと思っていた。大きな勘違いだったらしい。
人差し指をフォーク、ナイフにそれぞれ添えながら、切る動作をする。
「お~。中々、様になってきたじゃない~」
ふわりとフェミニンなザボンが香ったかと思えば、綾崎先生が入口付近で顔を覗かせていた。腕時計の秒針は午後六時を指そうとしている。
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