上 下
73 / 94

73.

しおりを挟む
 尚も、指導は続く。
「はい!そこ!左から座る」
「えぇ…そうなの…別にどっちでもよくない?」
 五十嵐は熱の入った指導を続ける。俺はそれに対してやや苦言を漏らしながらも、必死に喰らいついた。
 最初は個人を拒絶するような酷い振る舞いをみせた五十嵐ではあったが、こうも真面目に協力してくれるとは。
 暫く様子見をしていた錦織が五十嵐に注意喚起をする。
「五十嵐さん。詳細な指導をして頂けるのは非常にありがたいのですが、何せ彼は素人同然なんです。せめて、手順を説明されてから指導に当たってみては如何でしょう?」
 錦織が珍しくフォローしてくれた。物事を的確に判断したい性(さが)である彼女はこの一方的なやり取りに違和感を覚えていたのだろう。
 やだ…錦織さんったら!お優しい!
「え…?ああ、ごめんごめん。つい熱が入っちゃってね~」
 五十嵐は掌を額にペチッとやると、冗談交じりに手をひらひらさせた。身体は錦織の方へと向けられている。どうやら、俺に対しての謝罪は無いらしい。
 やっぱりこの子Sなんじゃないの?冗談抜きでSはいじめっ子の意味合いを含むから、加害者予備軍になりそう。

 ♢ ♢ ♢

 気付けば、窓辺から夕焼けの橙が差し込み始めていた。
「えーと、カトラリーは刃物の総称という意味で外側から順に使っていくと…」
 不慣れながらも、説明された内容を頭に叩き込み、実践していく。
「飲み物が運ばれてきたタイミングでナプキンを膝に広げるとよいでしょう。二つ折りになっている事をきちんと確認する事」
 錦織の落ち着いた声音が通る。
 てっきり、膝に敷くナプキンが赤ちゃん用の涎掛けかなんかだと思っていた。大きな勘違いだったらしい。
 人差し指をフォーク、ナイフにそれぞれ添えながら、切る動作をする。
「お~。中々、様になってきたじゃない~」
 ふわりとフェミニンなザボンが香ったかと思えば、綾崎先生が入口付近で顔を覗かせていた。腕時計の秒針は午後六時を指そうとしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/1/17:『ねえ』の章を追加。2025/1/24の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/16:『よみち』の章を追加。2025/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/15:『えがお』の章を追加。2025/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/14:『にかい』の章を追加。2025/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/13:『かしや』の章を追加。2025/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/1/12:『すなば』の章を追加。2025/1/19の朝8時頃より公開開始予定。 2025/1/11:『よなかのきせい』の章を追加。2025/1/18の朝8時頃より公開開始予定。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

私の守護者

安東門々
青春
 大小併せると二十を超える企業を運営する三春グループ。  そこの高校生で一人娘の 五色 愛(ごしき めぐ)は常に災難に見舞われている。  ついに命を狙う犯行予告まで届いてしまった。  困り果てた両親は、青年 蒲生 盛矢(がもう もりや) に娘の命を護るように命じた。  二人が織りなすドタバタ・ハッピーで同居な日常。  「私がいつも安心して暮らせているのは、あなたがいるからです」    今日も彼女たちに災難が降りかかる!    ※表紙絵 もみじこ様  ※本編完結しております。エタりません!  ※ドリーム大賞応募作品!   

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

王子の苦悩

忍野木しか
青春
学園ホラー&ミステリー

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

「青春」という名の宝物

やまとゆう
青春
 幼い頃からバレーボールに触れ、チームメイトや指導者に恵まれ、学生生活の全てをバレーに費やしひたすら努力を続けていた主人公。その努力で培った圧倒的な実力を他校に見せつけて、中学や高校では全国大会に出場するほどの経験をした。その世界では次期日本代表と呼ばれることも当時は少なくなかった。  しかし、彼はそこで燃え尽きた。将来を期待されていた周りからのプレッシャーや、全国大会で実感したレベルの高さとショックに打ちのめされて、まるで生きる力を奪われたような状態になってしまった。それから高校を卒業したもののプロにはならず、大学にも進学せず抜け殻になったように活力を無くした主人公は、姉の友人であるアスカが経営する喫茶店で働いてみないかという話を姉に持ちかけられる。促されるままそこで働くことが決まり、そこでの生活が彼の命を救うように彼の気持ちを回復させていった。  高校を卒業してしばらく経ち、バレーのショックから立ち直ることが出来つつあったある日、ひょんな事から幼なじみで親友であるヒロキからメッセージが届く。内容は『今度同窓会でもしない?』というものだった。それに乗り気でない主人公だったが、招待されているメンバーの中に当時の初恋相手の名前を見つける。興味本位半分、初恋相手を見たい気持ち半分で同窓会に参加することを決めた主人公は十年ぶりにその初恋相手と再会し、このことがきっかけで主人公も思いもよらない方へ色んな出来事が起こっていくようになる。  ひとつの行動がひとつの奇跡を起こし、ひとつの出来事によってひとつの隠し事が明かされていく。人と人が関わることによって明日が変わっていく。未来が変わっていく。本人たちも予想だにしない「青春」が始まろうとしていく。これはそんな物語。

処理中です...