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かれこれ数十分は待機した。同じ場にいる二人とは当然ながら面識がないので体感時間は通常の倍と言っていいだろう。談笑に飽きたのか、千田(ちだ)と五山(ごやま)は携帯をポケットから取り出して、何やらいじっていた。双方とも真っ白な調理服を着ているのに携帯という便利ツールは肌身離さず持っているようである。…画面って案外汚いのよ?後できちんと手を洗ってね!
などど、人間観察をしているくらいには暇な時間が流れていた。おまけに男子部員が通りかかって「うわ、夜崎辰巳だ…」と言われる始末である。何故、フルネーム?
「あっ…」
不意に千田が声を漏らした。
彼女の視線の先には先程いた…あれ、誰だっけ。しょうがつちゃんだっけ?と、もう一人見覚えのない女子生徒がこちらに向かってきている。
「済みません。遅くなってしまって」
心地よく芯のある声音。声の主はこの見覚えのない女子生徒だ。恐らくこの子が例の五十嵐さんだろう。
背丈は他の三人に比べてやや高く、体つきはほっそりとしている。髪は茶黒のポニーテール。顔立ちは中々端正で親しみやすそうな印象を受ける。
比叡山の猿のような威圧ある人物が来ると思っていたが想像とだいぶ違う。俺は強張る身体を脱力させた。
「五十嵐さんすいません。態々、下準備中にお呼びしてしまって」
ショートカットヘアーの五山が申し訳なさそうに言う。続いて、千田も同じような表情をした。
ていうか、下準備って何?誰かシバいて調理しているとかじゃないよね?
「ううん。大丈夫。謝る必要なんてないよ」
女子三人に向かって五十嵐は首を横に振ると、優しい声音でそう言い添えた。女子生徒の面々はまるで象徴的なものを見るかのように、輝かしい視線を送っている。
「料理クラブ部長の五十嵐です。体験入部とお聞きしましたが」
真っすぐな視線で俺を捉えると、一礼して話しかけてきた。
なるほど。この中々に美人な五十嵐さんは部長であると同時に、尊敬する実績を幾つか持ち合わせているらしい。
「あ、はい。体験入部希望の夜崎です…」
かれこれ三回目の体験入部希望発言。
「夜崎くんだね。…夜崎。やざき…どっかで聞いたことあるような…」
五十嵐さんは顎に手をやって、訝しげな視線を送ってくる。
おいおい嘘だろ。”二度あることは三度ある”なんてことわざを体現するつもりか。
「あ」
虚を突いたような五十嵐の声が通った。すると、入り口付近に掲載されていた『新入部員募集!』という張り紙を外して、後ろ手で千田に渡した。受け取った千田はラブレターばりに頬を赤らめてあたふたしている。
五十嵐は俺の方に向き直ると忠義顔で言う。
「…勝手ごとではございますがポスターをはがし忘れていました。なので…大変申し訳ありませんが体験入部及び、新入部員の募集については締め切らせていただきます」
丁寧に。そしてはっきりと明言した。
これまでで一番…いや、錦織の方が上手かもしれんが…。まあ、とにかく、取り繕いの振る舞いに違和感がないのは確かだろう。相手に不利益を感じさせず、諦めさせる。何も、その効力を発揮させるのは言語だけではなく、礼儀や容姿といった様子も該当する。
要は断られた訳であるが俺の目はごまかせない。
などど、人間観察をしているくらいには暇な時間が流れていた。おまけに男子部員が通りかかって「うわ、夜崎辰巳だ…」と言われる始末である。何故、フルネーム?
「あっ…」
不意に千田が声を漏らした。
彼女の視線の先には先程いた…あれ、誰だっけ。しょうがつちゃんだっけ?と、もう一人見覚えのない女子生徒がこちらに向かってきている。
「済みません。遅くなってしまって」
心地よく芯のある声音。声の主はこの見覚えのない女子生徒だ。恐らくこの子が例の五十嵐さんだろう。
背丈は他の三人に比べてやや高く、体つきはほっそりとしている。髪は茶黒のポニーテール。顔立ちは中々端正で親しみやすそうな印象を受ける。
比叡山の猿のような威圧ある人物が来ると思っていたが想像とだいぶ違う。俺は強張る身体を脱力させた。
「五十嵐さんすいません。態々、下準備中にお呼びしてしまって」
ショートカットヘアーの五山が申し訳なさそうに言う。続いて、千田も同じような表情をした。
ていうか、下準備って何?誰かシバいて調理しているとかじゃないよね?
「ううん。大丈夫。謝る必要なんてないよ」
女子三人に向かって五十嵐は首を横に振ると、優しい声音でそう言い添えた。女子生徒の面々はまるで象徴的なものを見るかのように、輝かしい視線を送っている。
「料理クラブ部長の五十嵐です。体験入部とお聞きしましたが」
真っすぐな視線で俺を捉えると、一礼して話しかけてきた。
なるほど。この中々に美人な五十嵐さんは部長であると同時に、尊敬する実績を幾つか持ち合わせているらしい。
「あ、はい。体験入部希望の夜崎です…」
かれこれ三回目の体験入部希望発言。
「夜崎くんだね。…夜崎。やざき…どっかで聞いたことあるような…」
五十嵐さんは顎に手をやって、訝しげな視線を送ってくる。
おいおい嘘だろ。”二度あることは三度ある”なんてことわざを体現するつもりか。
「あ」
虚を突いたような五十嵐の声が通った。すると、入り口付近に掲載されていた『新入部員募集!』という張り紙を外して、後ろ手で千田に渡した。受け取った千田はラブレターばりに頬を赤らめてあたふたしている。
五十嵐は俺の方に向き直ると忠義顔で言う。
「…勝手ごとではございますがポスターをはがし忘れていました。なので…大変申し訳ありませんが体験入部及び、新入部員の募集については締め切らせていただきます」
丁寧に。そしてはっきりと明言した。
これまでで一番…いや、錦織の方が上手かもしれんが…。まあ、とにかく、取り繕いの振る舞いに違和感がないのは確かだろう。相手に不利益を感じさせず、諦めさせる。何も、その効力を発揮させるのは言語だけではなく、礼儀や容姿といった様子も該当する。
要は断られた訳であるが俺の目はごまかせない。
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