例えば、こんな学校生活。

ARuTo/あると

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 換気扇の音。食器が擦れる音。店内に流れるBGMの音。
 店内のカウンター席だけは異様な静寂に満ちていた。席一つ開けて右手に座る壱琉は俺の事を気に掛ける様子もなく、グラスに入った冷水を時折、口にしていた。
 ここまで存在を無視されるとは。諦めを超えて一層、清々しいまである。店内にあるメニュー表を見ながらそわそわしていると店員がやってきて、同じく冷水が届けられた。慎重にほんの少し口に含むと、ガラス特有の高質な音が響かないようにゆっくりとテーブルに置いた。
 要はそれくらい丁寧に彼と接する必要があると察したのだ。彼は表情一つ変えず、冷淡な目つきをしていて、初手で彼の逆鱗に触れてしまうような事があれば、二度と会えない可能性だってあり得る話なのだ。
 重力が肩に負荷をかけるような、そんな緊張感が身体を強張らせる。
「…」
「…」
 互いに沈黙。
 にしても、彼のメンタルときたら空恐ろしいものがある。周囲の視線を気にする事なく、颯爽と店内へ入ったのだろうか。孤独なグルメボーイ。幾らなんでも格好良すぎやしないか?なんなら、お洒落男子の理想まである。
 俺は手早く注文を終えると、程なくして双方に出来立ての料理が届けられた。自身よりも早く注文していた筈の壱琉の料理。同じタイミングで来るのは少し疑問に感じたがそれ程、気にはしなかった。
 問題はここからである。
 どうやって声を掛けたものかと、彼の動向を一瞥しながらタイミングを見計らっていると、思わず彼の乾いた声音が俺の存在を認識した。
「冷めるよ。食べなくていいのか」
 言葉こそ優しいが口調はまだ他人行儀。
「え…ああ。い…頂きます」
 俺は驚愕しながらも、しどろもどろに答えた。
 しかしながら、壱琉の方から声をかけてきたのは意外であった。てっきり無視を通されて終わるものばかり勝手に思っていたが、食事の場くらいは大切に扱うらしい。寧ろ食事というある種の儀式行為こそが彼のルーティンであり、本望なのかもしれんが。
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