上 下
58 / 94

58.

しおりを挟む
♢ ♢ ♢
 
 春風が心地いい昼の平日だった。丁寧に整えられた新緑の木々の間を歩きながら、俺は目的地へ。壱琉が食事をするであろう場所は幸いにも近く、学校から交差点を二つ越えた所にある。
 何故、現役高校生ボウズの俺が平日の昼時に学外をのこのこ歩いているのか。それは休み時間の外出が学校で許可されているからだ。一般的な高等学校でも自販機の買い出しぐらいは許可されているんだろうが、ウチの高校のように完全にオープンというのは珍しいを超えて不可解である。学食(言えたものではなかったが)と購買、自動販売機は例の如く完備してあり、これも通常であれば私立高校の貴重な収入源の一部になる筈だ。学外という広い選択肢がある事によって、金が多方面に流れ出てしまうのは自明の理ではないのだろうか。
 そんな事を悶々と考えていると、ウッディなテラスとガラス張りの店内が見えてくる。ハチのような名前をしたイタリアンカフェで外から見る限りで人はまばらであった。立て看板を参照すると、価格帯は千円~二千円そこらでランチタイムにしては少々豪勢ではあるが払えない額ではない。壱琉の食事は高級志向だと聞いていたが正直、身構える程ではないようだ。
 迷わず、ガラス戸を引いた。すると店内を見渡す必要も無く、カウンター席に座る彼の姿が眼中に飛び込んできた。さらさらとした銀髪に青みがかった瞳、おまけに佳容な顔立ち。その非日常じみた王子様は自然と周囲の視線(主に女性)を集めていて、近寄りがたい雰囲気を形成していた。
「…。ご来店ありがとうございます。何名様でしょうか?」
 若い女性店員が一瞬言葉を詰まらせながらも、丁寧に声をかけてきた。
 …君の気持ち分かるよ。なんで昼時から制服着た高校生ボウズが優雅にランチタイムしようとしてるの?って不思議に思ってるんだよね。それも男一人でさ。
 俺は苦笑いしながら人差し指を真上に突き立てると同時に、女性店員に一声話しかけた。
「あ、あの実は知人が先に店内に入っていて…。あそこの青年なんですけど…」
 勿論、噓八百だ。知人か友人か。今となってはそのどちらもハッタリの関係性。そこに俺は近づこうとしているのである。
 店員は俺が見ている視線の先に顔を向けると、再び言葉を詰まらせた。
「…わ、分かりました…ご案内致します…」
 俺は困惑した店員を尻目に、したり顔をする。ナイス店員!正直ここが一番の鬼門であった。店員が壱琉に向かって俺が知人かを聞いていたものなら、間違いなく拒否されていた事だろう。
 壱琉がいるカウンター席の席一つ開けた隣に通された。背後からは女性客や店員の視線が中々痛い。なんせ、制服を着た男子高校生二人が昼時のお洒落なカウンター席で腰を下ろしているのだ。異様な光景とみられても致し方ない。
 メニューを見るが否や、俺の冷や汗は止まらなくなった。料理の値段が原因ではない。この圧倒的場違い感が生み出す雰囲気に絶望していたのだ。店内に入る前の余裕はどこへやら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...