上 下
45 / 94

45.

しおりを挟む
 あれから数日が過ぎた。
 結果として如月を虐めていた女三人は残念ながら退学にならなかったが、停学三ヶ月という重い処分が下された。
 一方、俺と錦織は注意こそ受けたものの、決まり込んだ処分を受ける事は無かった。あの日、連れて行かれた職員室の別室で綾崎先生と少しばかり話をしたのだが言い草といい、何とも引っ掛かりを覚えたものである。

「では、失礼しました」
 丁寧にドアから出て行く錦織。
 その様子を一瞥した綾崎先生は完全に扉が閉じられたのを確認すると、端に置いてある紅茶ポットを持ってきては二つある乳白色のティーカップにそれぞれ注ぎ入れた。
 俺は猫背になっていた体を起こして、一言。
「その紅茶ポットお高いんですか?」
 綾崎先生はほんの一瞬驚いたような仕草を見せたが、作業しながらもすぐに答えてくれた。
「この学校の事だから…と言いたい所だけど、これ、私の私物」
「そ、そうですか」
 錦織がいた時は"事の一件"について真面目に注意してくれたが、今は幾ばくか柔らかい印象を受ける。
 今いる別室は中央に赤茶のソファがテーブルを挟んで向かい合わせに置かれており、一つ一つの動作が目立って響く程、静寂に満ちていた。外に音が漏れる事は無いのだろう。
 綾崎先生が「どうぞ」と紅茶が注がれたティーカップを手のひらで指した。俺はいそいそと会釈しながら紅茶を口に運ぶと、一息ついてからテーブルに置いた。
 先生はため息を一つすると口火を切った。
「まさか、夜崎くんがこんなに早く行動を起こすなんて、思いもしなかったよ」
しおりを挟む

処理中です...