例えば、こんな学校生活。

ARuTo/あると

文字の大きさ
上 下
37 / 94

37.

しおりを挟む
 「先生にはこの現状を報告したか?」
 「勿論しました。だけど表面的にしか解決してないかなって…」
 「見た目だけ…か」
 教師…いや、学校側は一体何をしているのだろう。SNSなどの問題が表面化するこの時代に打つ手など無いというのだろうか。
 「この問題を先生に報告してから、何か動きがありましたか?」
 錦織が問う。
 「女子グループに注意はしたそうですが、それ以外は何も…」
 「学校側は何故こうものんびりしてられるんだ?生徒と向き合うどころか、やる気さえ感じられないじゃないか」
 不満げに俺が言うと、錦織がやや鋭い口調で突く。
 「恐らく、学校のブランドイメージを崩したくないのでしょう。一つの事件は学校全体の問題になりますから」
 私立という概念はそこらの会社となんら変わりない。
 資金が集まらず、経営難にでもなれば同じように潰れる。会社としての意識が強いので、なおさら問題などを隠蔽したがるのだろう。
 「…どいつもこいつもどうしようもねぇな」
 大きなため息とともに出る、社会に対しての失望。
 「ブーメラン。ご愁傷様です」
 目を伏せながら、腕組みする錦織。
 「…は?ブーメラン?」
 何を言っとるんだ錦織は…。今、体育の時間じゃないのよ?分かってる?
 すると、左斜め横にいる伊藤が、
 「ネットスラング…とでも言うのかな。意味合い的には『その言葉そっくりそのままお返しします』みたいな感じだよ」
 ご丁寧にありがとう伊藤さん。
 つまり、投げたら戻ってくるブーメランの性質に掛けてるのね。
 …巻き尺とかヨーヨーでも良くない?ほら、引いたら戻ってくるし。
 ともかく伊藤はクラスの事を考えて、如月さんを助けようと俺達、特別候補生の協力を必死で得ようと尽力しているのだ。
 自分の意思も相まって、是非とも問題解消に努めたい。だからこそ少し聞いてみたい事があった。
 「伊藤さん。貴方は何故、如月さんが冷やかされてるだとか、陰口に苛まれていると感じた?」
 突然の奥まった問いに困惑したのか、伊藤は膝に手を置きながら体を小さくした。
 数十秒考えたのち、直ぐに目線を上げて答えた。
 「自分も同じ立場に置かれたら、どんな気持ちなんだろうとか時々、考えるんです。やっぱり誰だって嫌ですよあんな事されたら…」
 伊藤は窓辺を見やって、どこか遠い目をしていた。
 「そうか…」
 これは正義を精査する最終フェイズ。
 今の世の中、何をとっても裏でどこがどう繋がっているか分からん。
 被害者以前に解決しようとする人の意思が重要となるからだ。
 いじめ事案ともなれば、それこそ細心の注意が必要。
 「クラス…伊藤さんの意思はよく分かりました。何処まで解決に持っていけるか分かりませんが、是非とも協力させて頂きます」
 錦織にも先程の伊藤の意思が伝わったようで、快く協力の意を示す。
 「同じく」
 正直、自身は無いがこれもまた経験の一つとポジティブに捉えるべきだ。
 「あ…ありがとうございます」
 伊藤はまるで、自分の事のように深々と会釈をする。
 次に「それと」を付け加えて更に言った。
 「…夜崎くんと錦織さんはいくら特別候補生といっても人が良すぎますよ…。逆に聞きます。どうしてお二人はそんなに意欲的なのですか?」
 「簡単だ。俺達みたいな異端者は、こういう事案に食って掛かるんだよ。何も功績を求めている訳じゃない。自信の正義が許さないんだ」
 決まった…!俺史に残る名言っ。決して迷言とは言わせない。
 「同じ存在として見られるのは少しばかり癪ですが、自身の正義を貫くという点では共通しています。普遍的な社会が嫌いなんですよ」
 錦織も自身の意思をきちんと表明したようだ。
 伊藤は憂いに似た視線を向けながら、
 「仲が良いんですね」
 「ああ!錦織と俺は凄く仲が良いぞ。なあ、相棒?」
 「そうですね。仲が良いというか、噛み合ってないという表現の方が適切だと思います」
 錦織にしてはややフラットな返しだと思う。…何で少し笑顔で言うんだよこの子は。
 冷めきってしまったキャラメルマキアートを一気に飲み下す。
 重い話にはブラックが最適だと思われるが、甘さというカロリーは脳を稼働させる為に、必要不可欠である。
 科学的にはこの理論、帰結しないけれども。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†
青春
私‭――田所が同級生の遠野と一緒に毎日ご飯を食べる話。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...