28 / 94
28.
しおりを挟む
♢ ♢ ♢
ピピッと目覚まし時計が今日最初の産声を上げた。
けれども彼は起きない。
音が次第に大きくなるにつれて、時計という機械動物が暴れだす。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ
…うるせー!と、心の中だけで呟く。そしてパシンッという軽い音がしたかと思えば、その部屋には静寂が訪れ始める…わけがなかった。
ジリリリリリリリッ…カチッ―――
「ごめん。俺が悪かったよタマ…」
重たそうな体を起こし、ベッドに腰掛けて一人小言を呟く男の姿があった。まるで愛猫のように目覚まし時計の頭部をカチッカチッ(よしよし)と撫でている。不審人物である。寝ぼけているのだろうか?
一人暮らしあるあるその一。
話相手がいなさ過ぎて、いつもイライラする目覚まし時計がペットに見えてくる現象。
ツインベルと呼ばれる旧式の物を使用していれば、それが耳に見えて更に可愛い…は?
男は正気に戻ったのか、素の声が漏れた。
暗く閉ざされたベッドルーム。カーテンを開ければ、心地よい日差しが浸透し、身体の骨髄に至るまで活性化されていく。
「おはよう豊洲。おはよう夜崎」
俺だ。夜崎だ。時刻は七時二分…我ながら丁度いい時間に起床。
眼下に広がるは直線上に伸びた河川。それを跨またぐ二つの橋。台場のレインボーブリッジ。
カーテンを毎朝開ける度に夢では?という錯覚を起こす完璧な景色。
現代社会においてタワーマンション(通称タワマン)は成功の証として君臨しており、現段階で高一ボウズの俺がこの景色を手の内に収めていることが自体が異常だった。
高所得者は日本の僅か数パーセントにも満たないという。
ここは学校に併設する三十二階建てのマンション。学校に一般企業が参入しているように、この建物も学生のみのマンションではなく、一般、すなわち高所得者向けに販売された分譲マンションでもある。
暖かな日差しに照らされたリビング。一人では勿体ない広さと、備え付けの家具。ソファ前のテーブルに置いておいた目覚まし時計を見やると、ちょこんとした足が二本生えていて、ひなたぼっこしている猫の様だった。
やっぱり可愛いじゃないかタマは…。
ピピッと目覚まし時計が今日最初の産声を上げた。
けれども彼は起きない。
音が次第に大きくなるにつれて、時計という機械動物が暴れだす。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ
…うるせー!と、心の中だけで呟く。そしてパシンッという軽い音がしたかと思えば、その部屋には静寂が訪れ始める…わけがなかった。
ジリリリリリリリッ…カチッ―――
「ごめん。俺が悪かったよタマ…」
重たそうな体を起こし、ベッドに腰掛けて一人小言を呟く男の姿があった。まるで愛猫のように目覚まし時計の頭部をカチッカチッ(よしよし)と撫でている。不審人物である。寝ぼけているのだろうか?
一人暮らしあるあるその一。
話相手がいなさ過ぎて、いつもイライラする目覚まし時計がペットに見えてくる現象。
ツインベルと呼ばれる旧式の物を使用していれば、それが耳に見えて更に可愛い…は?
男は正気に戻ったのか、素の声が漏れた。
暗く閉ざされたベッドルーム。カーテンを開ければ、心地よい日差しが浸透し、身体の骨髄に至るまで活性化されていく。
「おはよう豊洲。おはよう夜崎」
俺だ。夜崎だ。時刻は七時二分…我ながら丁度いい時間に起床。
眼下に広がるは直線上に伸びた河川。それを跨またぐ二つの橋。台場のレインボーブリッジ。
カーテンを毎朝開ける度に夢では?という錯覚を起こす完璧な景色。
現代社会においてタワーマンション(通称タワマン)は成功の証として君臨しており、現段階で高一ボウズの俺がこの景色を手の内に収めていることが自体が異常だった。
高所得者は日本の僅か数パーセントにも満たないという。
ここは学校に併設する三十二階建てのマンション。学校に一般企業が参入しているように、この建物も学生のみのマンションではなく、一般、すなわち高所得者向けに販売された分譲マンションでもある。
暖かな日差しに照らされたリビング。一人では勿体ない広さと、備え付けの家具。ソファ前のテーブルに置いておいた目覚まし時計を見やると、ちょこんとした足が二本生えていて、ひなたぼっこしている猫の様だった。
やっぱり可愛いじゃないかタマは…。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

足を踏み出して
示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。
一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。
そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。
それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる