例えば、こんな学校生活。

ARuTo/あると

文字の大きさ
上 下
18 / 94

18.

しおりを挟む
 放送室は広さ六畳程の狭い空間で、外面から見て分かる通り内部も円形だった。

 扉を入ったすぐ右手には音量調節などの機器が備わった個室があり、上級生らしき人物がちょこんと座っている。

「次の子はっと…夜崎辰巳君だね。申し訳ないけど後が閊えてるから、長くても五分程度で済ませてくれると有難いです。では、どうぞっ」

 テンション高めな女子生徒がマイクの音声を使って俺にそう伝えてきた。

 目の前にあるクッション性のなさそうな椅子に丁寧に腰掛ける。指をさすような生意気な形をしたマイクを少し手で引くと、短く息を吐き出して話し始めた。

「えー、全校生徒の皆さんこんにちは。一年A組の特別候補生、夜崎辰巳です。僕は偏差値はおろか、この学校に来る予定など微塵もありませんでした。ですが出会いという運命は実に不思議なもので今日僕は特別候補生という肩書を借りて、この地に招き入れられました。
 僕は学校という場所をある種、社会の縮図だと思っています。様々な境遇のもとで育てられた人間が平等に授業を受け、生活をする。しかしこの様な生活を誰もが手に入れられている訳ではありません。境遇とはつまり偶発的なもの。一人ひとり違いが出てくるのです。
 人間は醜い生き物でその違いを他人と比べたり、時には存在すら消しにかかるでしょう。親や周りの人に、教えられてきた「善」は果たして本当の正しさなのか?私達は考える必要があります。
 僕はこの様な偽善者あるいは人物を断罪しm」

 命題を言おうとした矢先、マイクの電源が強制的に切られた。何事かと周りを視越すと、個室の扉が勢いよく開けられた。

「君~話長過ぎ!時間が押してるから強制終了させてもらったよ。次の子入ってくるから早く退出して!」

「そんなっ、俺はまだ話の半分も…おわっ」

「いいから早く出てください!」

 早急に放送室から蹴り出されたかと思うと、最後にガチャッという音を残して扉は固く閉じられた。

 いや…鍵まで締めなくても…

 なんだよ。せっかく人が自分の考えを公に述べているのに、途中で切りやがって。本当だったら四十分ぐらい話そうかな…とか思ってたのに。悲しいかな。どうやら、世間一般は言論の自由に対して風当たりが強いらしい。

 あっけなく演説が終了してしまった俺は項垂れながら放送室の前で辺りを見回した。すると何処からか、詰まるような笑いが聞こえてきた。…なんだよそれ。

 見やれば壁面沿いに肩を小刻みに震わせながら、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で笑う女子生徒がいた。

 まさかその後ろ姿は…、

「えっと…錦織さんですよね?」

 表情は窺い知れないが、恐らく破顔一笑するくらい堪えて笑っていたのだろう。

「…ッ…っ…はい?二度と話しかけないようにと、言いませんでしたっけ?」

 肩の震えが静止したかと思うと、無表情で振り向いてきた。異常なくらい迅速な切り替えしをみせたものだ。この子の感情制御は一体どうなってるの…?

 それからというもの。

 会話など起きるはずも無く、来た道を引き返して教室へと戻った。クラスへ入ると朝の時間帯に比べてやけに周囲がザワついていた。

 さぞ、俺の素晴らしい演説に驚きを隠せなかったのだろうと思いきや、違った。

 単に談笑が繰り広げられているだけだった。これぞ青春。なんなら俺も混ぜてほしい。苦味が効いて丁度いいと思うぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†
青春
私‭――田所が同級生の遠野と一緒に毎日ご飯を食べる話。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】 ◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆ 風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。 願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。 表紙絵:香咲まりさん ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission 【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】

処理中です...