例えば、こんな学校生活。

ARuTo/あると

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 ♢ ♢ ♢

 春愁を感じる日だ。

 天気予報では雨のち晴れ、時より曇りとあった。いや、雨なのか晴れなのか曇りなのかはっきりしろよ…。

 ともかくハンカチ、マスク、折り畳み傘を常時装備している俺にとっては敵無しみたいなもんだ。三種の神器マジ大切。

 電車に揺られながらそんなたわいもない事を思う。

 最近の電車には車両ごとにテレビモニターが取り付けられており、CMの他にも簡易的なニュースや天気予報を流してくれる優れものだ。常時字幕表示である為、イヤホンを聞きながらでも情報を仕入れることが出来る。

 特に天気予報に出てくるぷよぷよした男の子が可愛い。あれなんていう名前なんだろ本当。

 自身の自宅がある南船橋から数十分。新木場で乗り換えて有楽町線へ。

 プシュッーと鳴るドアの音が聞こえたと思うと「とよす~とよす~」と心地よいアナウンスが流れ、いよいよこの地に降り立ったことを深く自覚する。まあ、昨日来たわけだけど。こんな透き通った声をいつの時だか聞いたっけ…。なんだったかな…。

 ---そうだ壱琉だ。

 今日はメールで合格祝いが届いた豊洲総合高等学校の入学初日である。底辺高校から脱出出来るあまりの嬉しさに、高校生活初めてできた友人をすっかり忘れていたのである。

 持論テストには参加したものの、先生に回収される事なく回答用紙を懐に仕舞った壱琉。

 突然、テストの話を持ち出してきた事もそうだが、彼の真意には理解出来ないものがある。

 今、考えても仕方のない事でもあるし、一旦忘れるとしよう。いちるんには申し訳ないけど、俺が代わりに頑張るから☆

 浮かれていた。

 そんな心持ちの自分をつくづく酷いやつだと思った。

 ほんとごめん…。

 地下鉄の出口を抜けると、円形状のオフィス下へと躍り出た。

 春にしては肌寒く、けれども今までの邪気を取り払ってくれるような爽やかな風。都心は俺を快く迎え入れてくれたようだ。

 本来であれば降り立つ筈のなかった新天地。これは確かな現実なのだと自身に言い聞かせ、胸を張った。

 絶望に満ちた高校生活は今や過去のものとなったのだ。思い出す必要なんてない。俺は風の便りを感じながら、高校へ向かう通学路を歩みだした。
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