上 下
37 / 54
第一幕 ハイランドとローランドの締結

手厚い接待4

しおりを挟む
カイトSIDE

 牢獄の中で、ジェイミーが大事そうにセシルを抱きしめている姿を目にして、私の機嫌が降下していった。

「何をしている」
 鉄格子の中にいるジェイミーに向かって、口を開いた。

 頭からつま先までぼろぼろになっているジェイミーなのに、セシルを守るかのように抱きしめ続けている。

 それが気に入らない。

「セシル様はお話になられたのですか?」

 ジェイミーが質問をしてきた。内出血の酷い顔が、気味悪い。

「ああ、話してくれた。こちらもイザベラの捜査に参加しよう…と言っても、心当たりがあるからそこを突くだけだがな。すぐに見つかるだろう。私を恨んでいるなら、居場所の検討はついている」
「そう…ですか」とジェイミーが呟いた。

「で、お前は何をしている」

「布団がないから…セシル様をお温めしているのです。身体が冷えています。このままでは、 高熱になるでしょう。もともとセシル様はお身体が弱いお方なのです。ハイランドに居た時だって、あまり外に出るお方ではない人ですから」

 ジェイミーの腫れた瞼の下にある眼球が、私を睨んだ。

「この牢獄では俺が一人で過ごします。全責任は俺が…セシル様にはご慈悲を」
 冷たい炎をジェイミーから、私は感じた。強い愛情と、強い意思がひしひしと伝わってくる。

「わかった。責任はお前に取ってもらおう」
 私は格子の鍵を開けると、中に入った。ジェイミーからセシルを受け取った。

 ジェイミーの言うとおり、セシルの皮膚が冷たかった。顔も青白い。だらりと落ちた腕が細くて、身体が軽かった。

「セシルの好物を知っているか?」
「じゃがいものポタージュスープです」

「そうか。作らせよう」

「それと…セシル様は一度にたいした量を食べません。その代わり…回数を多くしております。1日5~6回です」

「そうか。メイドに伝えておく」
「ありがとうございます」
 ジェイミーが小さな声で礼を述べた。

 自分は獄中生活になるというのに、なぜ私に礼を言う? ただ妻の代役を引き取っただけだろう。

 部屋に妻がいないとなれば、ウィッカム伯爵夫人に怪しまれる。へんな噂を流されたくないから、セシルを牢獄から出しに来ただけのことだ。

 私はジェイミーに背を向けると、セシルを抱いたまま、牢獄を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話

四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。 ※R18はタイトルに※がつきます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

婚約破棄と言われても・・・

相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」 と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。 しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・ よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。 *********************************************** 誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。

処理中です...