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エピソード3 凛
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「確かに。薄っぺらいかもしれませんが。喜見堂さんなら、必ず気に入るかと思います」
僕の流し目に、喜見堂の目が揺らいだ。
「おま……これ」
「お気に召しませんか? さらに代替え案もご用意してありますが?」
僕は鞄からファイルを出そうとすると、喜見堂が僕の手首を掴んだ。
「いい! これで。この条件での企画は素晴らしい。進めてくれ」
「それは良かった。絶対に気に入ると思っていました。では、準備を進めさせていただきます」
僕は、一礼すると鞄を手にした。
喜見堂は顔面蒼白で、ソファにどさっと倒れるかのように座った。
喜見堂に背を向けて、僕は廊下に出る。凛が泣きはらした目で、隣の部屋からこっちを見ているのがわかった。
『ごめんなさい』と声にならずに、唇が動く。僕は笑うと、首を振った。
凛が謝ることじゃない。
僕はダイニングを見やってから、凛に近づいた。
「僕は大丈夫だから。凛は、自分を大事にして。同窓会で会えるのを楽しみにしてる」
僕は凛には触れずに、笑顔だけ見せると廊下を歩き出した。
あんな男に、抱かれる必要なんてない。
僕は、喜見堂に勝てるだけの秘密を持ってるから。
凛は、凛の身体を大事にしてほしいよ。
「来てやったぞ」
ガチャリとドアが大きく開くと、野太い声が事務所内に響いた。
「呼んでない」と僕は、デスクに向かったまま返事をする。
「そう、冷たく言うなってば。来てやったんだから」
「だから、僕は呼んでないって言ってる」
ガラガラとキャリアケースを引きながら、遠慮する様子もなく奥へと侵入してくる同級生の朝陽に、僕は小さく呆れた息を漏らした。
呼ばなくても来るんだよ、こいつは。
ホテル代を浮かすために、僕のところに。
サッカー選手として、名を馳せてるんだ。それなりに稼いでるだろうが。
好きな女には、ぼーんっとマンションを買ってプレゼントできるくらい懐は潤ってるのに。己のことになると、無頓着というか。気にしないというか。
贅沢しようって気持ちの欠片もない。
「暇してるだろ?」
朝陽が僕のデスクに片尻を乗せて、キラキラした目で問いかけてくる。
僕の流し目に、喜見堂の目が揺らいだ。
「おま……これ」
「お気に召しませんか? さらに代替え案もご用意してありますが?」
僕は鞄からファイルを出そうとすると、喜見堂が僕の手首を掴んだ。
「いい! これで。この条件での企画は素晴らしい。進めてくれ」
「それは良かった。絶対に気に入ると思っていました。では、準備を進めさせていただきます」
僕は、一礼すると鞄を手にした。
喜見堂は顔面蒼白で、ソファにどさっと倒れるかのように座った。
喜見堂に背を向けて、僕は廊下に出る。凛が泣きはらした目で、隣の部屋からこっちを見ているのがわかった。
『ごめんなさい』と声にならずに、唇が動く。僕は笑うと、首を振った。
凛が謝ることじゃない。
僕はダイニングを見やってから、凛に近づいた。
「僕は大丈夫だから。凛は、自分を大事にして。同窓会で会えるのを楽しみにしてる」
僕は凛には触れずに、笑顔だけ見せると廊下を歩き出した。
あんな男に、抱かれる必要なんてない。
僕は、喜見堂に勝てるだけの秘密を持ってるから。
凛は、凛の身体を大事にしてほしいよ。
「来てやったぞ」
ガチャリとドアが大きく開くと、野太い声が事務所内に響いた。
「呼んでない」と僕は、デスクに向かったまま返事をする。
「そう、冷たく言うなってば。来てやったんだから」
「だから、僕は呼んでないって言ってる」
ガラガラとキャリアケースを引きながら、遠慮する様子もなく奥へと侵入してくる同級生の朝陽に、僕は小さく呆れた息を漏らした。
呼ばなくても来るんだよ、こいつは。
ホテル代を浮かすために、僕のところに。
サッカー選手として、名を馳せてるんだ。それなりに稼いでるだろうが。
好きな女には、ぼーんっとマンションを買ってプレゼントできるくらい懐は潤ってるのに。己のことになると、無頓着というか。気にしないというか。
贅沢しようって気持ちの欠片もない。
「暇してるだろ?」
朝陽が僕のデスクに片尻を乗せて、キラキラした目で問いかけてくる。
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萌の話好きでした。
凜も期待してます。
感想ありがとうございます。
嬉しいです。
凛の話も楽しいので、ぜひ読んでくださいませ
更新楽しみにしています。
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感想ありがとうございます。
嬉しいです。
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武井くん、恰好いいよねえ~♪