昔の恋を忘れましょう

ひなた翠

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エピソード3 凛

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 私は足を広げると、「愛して……ください」と言葉に詰まりながら口にした。

「よくできました」と満足げに蓮が笑うと、私は声を殺して涙を流した。

 無理やりこじ開けられた体から、痛みが走る。苦しくて、呼吸が乱れた。

 やめて。
 こんなの嫌だ。

 私は顔だけじゃない。
 体だけじゃない。

 愛してよ。大切にしてよ。

『そこが好きなんだ』
 陽葵の声が脳裏によみがえって、脳内で木霊した。

 涙がとめどなく溢れてくる。
 私は陽葵が好きなんだ。陽葵に愛されたいんだ。

 見返したいんじゃない。私は、陽葵に愛してもらいたかっただけなんだ。
 陽葵に「顔だけじゃない」って言ってもらいたかった。


 蓮の枕に私の涙の染みができた。蓮のベッドにぐったりと身体を放置させていた。
 体が動かない。動きたくない。

 さっきまでのウキウキしていた気持ちはどこへいってしまったのだろう?と言わんばかりに体を動かすのが嫌になった。

 部屋に呼び鈴が鳴った。
 誰だろう。

 蓮がフッと笑い、「時間通りだな」と言うとベッドから離れていく。
 ボクサーパンツ一枚に、ガウンを肩にかけて玄関へと向かう背中を無言で見送った。

『わざわざ貴方に来てもらって悪いな。代理の女じゃ話が進まなくて』と蓮の声が近づいてきた。

 代理の女? 嫌な予感がした。
 もしかして……陽葵が来てる?

 ベッドから出ようとして、裸であるのを思い出して、布団の中にもぐった。
 この姿で出られない。出たくない。

 やだ、どうしよう。

「こちらこそ、申し訳ありません」
 隣の部屋から聞こえてくる声を聞いて、私の心が重くなった。

 陽葵だ。
 間違えるはずない。
 あの声は、陽葵。私の好きな声だ。

 じゅわっとまた涙が溢れてきた。

 いやだ。こんなの。
 私の……せいだ。

 これから蓮は、陽葵にきっとひどいことをするに決まっている。
 私が、陽葵を選んだから……。

 私は涙で頬を濡らし、嗚咽を漏らした。
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