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エピソード3 凛
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やっと蓮と婚約することで、見返せる立場になったって思った。
どうせ陽葵なら、会社員が関の山だって思ってたから。今の私を知ったら、悔しがるに決まってるって思ったのに。
私の目の前にいる陽葵は、会社を経営してる。蓮にも認められそうな仕事ぶりで。
陽葵の部下は、色っぽいキャリアウーマンで。一目で蓮のお気に入りになってた。
私は何度も、何度も蓮に取り入ってやっとここまできたのに。
陽葵と陽葵のまわりにいる人たちが、全然違いすぎて。
私の今までの努力なんて、馬鹿らしくなる。
寂しくても、空しくても。これで陽葵を見返せるなら……。『顔だけ女』って言葉を撤回させられるなら……。
「私、馬鹿だ」
「馬鹿だよ」
陽葵が私をぎゅうっと抱きしめてくれた。
馬鹿だと言われ、ムッとしたけど。すぐに怒りは静まった。陽葵が「そこが好きなんだ」と耳元で囁いたから。
「好き?」と私は陽葵の顔を見た。
「好きだよ」
「ウソツキ」
私は陽葵の頬に手をあてると、キスをした。
嘘でもいい。
今は、陽葵の「好き」に溺れていたい。
「背中、痛い」
硬い床で横になったせいか、背中に痛みが走って目が覚めた。
私の肩には毛布がかかっていた。
陽葵がかけてくれたのだろう。
ぼろぼろの使い古してある毛布に私は笑みがこぼれる。
毎日、これで寝ているの? 社長なのに。貧乏すぎるから。
「痛かったら、ソファ使って。ここよりはマシ」
素っ裸で横になっている陽葵が片眼を開けて、黒い革のソファを指でさした。
「自宅兼事務所なら、ベッドくらい買っておいてよ」
「独り身だから。ソファで充分だったんだ」
「信じらんない。それなりに儲けてるんでしょ?」
「ソファあるから」
陽葵が小首を傾げた。
「貧乏性」
「凛が通ってくれるなら、ベッドを買ってもいいかな」
「え……っと、あ……」
陽葵の手が伸びてきて、私の頬に触れた。
「通ってくれるんでしょ?」と陽葵が流し目してきた。
「わからないし、そんなこと。婚約している身だし」
私は視線をそらす。
蓮と別れる……婚約破棄する。そんな簡単にできるはずない。
どうせ陽葵なら、会社員が関の山だって思ってたから。今の私を知ったら、悔しがるに決まってるって思ったのに。
私の目の前にいる陽葵は、会社を経営してる。蓮にも認められそうな仕事ぶりで。
陽葵の部下は、色っぽいキャリアウーマンで。一目で蓮のお気に入りになってた。
私は何度も、何度も蓮に取り入ってやっとここまできたのに。
陽葵と陽葵のまわりにいる人たちが、全然違いすぎて。
私の今までの努力なんて、馬鹿らしくなる。
寂しくても、空しくても。これで陽葵を見返せるなら……。『顔だけ女』って言葉を撤回させられるなら……。
「私、馬鹿だ」
「馬鹿だよ」
陽葵が私をぎゅうっと抱きしめてくれた。
馬鹿だと言われ、ムッとしたけど。すぐに怒りは静まった。陽葵が「そこが好きなんだ」と耳元で囁いたから。
「好き?」と私は陽葵の顔を見た。
「好きだよ」
「ウソツキ」
私は陽葵の頬に手をあてると、キスをした。
嘘でもいい。
今は、陽葵の「好き」に溺れていたい。
「背中、痛い」
硬い床で横になったせいか、背中に痛みが走って目が覚めた。
私の肩には毛布がかかっていた。
陽葵がかけてくれたのだろう。
ぼろぼろの使い古してある毛布に私は笑みがこぼれる。
毎日、これで寝ているの? 社長なのに。貧乏すぎるから。
「痛かったら、ソファ使って。ここよりはマシ」
素っ裸で横になっている陽葵が片眼を開けて、黒い革のソファを指でさした。
「自宅兼事務所なら、ベッドくらい買っておいてよ」
「独り身だから。ソファで充分だったんだ」
「信じらんない。それなりに儲けてるんでしょ?」
「ソファあるから」
陽葵が小首を傾げた。
「貧乏性」
「凛が通ってくれるなら、ベッドを買ってもいいかな」
「え……っと、あ……」
陽葵の手が伸びてきて、私の頬に触れた。
「通ってくれるんでしょ?」と陽葵が流し目してきた。
「わからないし、そんなこと。婚約している身だし」
私は視線をそらす。
蓮と別れる……婚約破棄する。そんな簡単にできるはずない。
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