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エピソード3 凛
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「今回のイベントプランナー、どうだった?」と蓮がダイニングでパソコンを広げて質問してきた。
「予算と概要と、書類をここに置いていきました」
私は陽葵が置いていった企画書を、連に差し出した。
蓮は受け取ると、パラパラっと企画書に目を通した。
「イベントプランナーとしては、優秀だと思います」
一回目の打ち合わせで、話がかなり纏まった。前回のパーティに来ているというだけあって、連という人物をしっかりと把握していた。
どういったのを好み、嫌がるのかをすでに理解している。陽葵は人を見る目があるようだ。
「へえ、これは意外。急場しのぎに、小さい会社だが頼んだが。なかなかやるもんだ」
蓮が口元を緩めて、「名前、なんだっけ」と聞いた。
「冬城さんです」
「あ、そうだった。ネットの口コミは良かったんだよな。次の大手プランナーが見つかるまで、のつなぎだし……て思ったが。今回によっては続行も考えてやるか」
企画書をテーブルにポイッと投げると、パソコンに目を戻した。
「凛、もう帰っていいよ。おつかれ」
蓮はさっさと出て行け、と言わんばかりに手を振った。
私は蓮に一礼すると、蓮のマンションを後にした。
連のマンションの近くにある小さなアパートに私は帰る。ワンルームの部屋。
ここで一人暮らしをしている。結婚したら、連のマンションの一階下の部屋を買ってくれる、と話していた。
私は、会社の花なんだそうだ。隣でニコニコとわらい、蓮の取引先のおじさま方をご機嫌にしていればいい、と言われている。
『顔だけなのは今もなんだな』
陽葵に言われた言葉を思い出す。
「うるさい」と洗面所にうつる自分の顔を見て、荒々しく吐き出した。
「冬城さんいらっしゃいますか?」と私は、陽葵の事務所に足を踏み入れると、近くにいある女性に声をかえた。
金髪にちかい髪をふわっと纏めてお団子にしている女性が、「冬城さん?」と首を傾げて私を見やった。
チャラチャラしている女だ。
制服じゃないんだ。私服もダサい。だぼっとしたした大きめのシャツに、おしりが見えてしまいそうな短いショートパンツ。
嫌悪が私の心を支配した。
「ああっ。陽葵のこと? ひなたぁ~、えらい美人さんがきたよ。また女性問題、起こしたの?」
女性が衝立の向こうに向けて大声を出す。
きっと衝立の向こうには陽葵がいるのだろう。
「『また』とは何だ。美人イコール問題と決めつけるなって言ってるだろ、萌香」
「えー? だって基本、女性問題ばっかじゃん。私というものがありながら、隠し子がいるし、最低野郎じゃんか」
「……たく」
あ、否定しないんだ。
この金髪のダサい女が、陽葵の恋人?
すっかり女の見る目が落ちた?
衝立から姿を現した陽葵が、私を見て「どうぞ」と奥へと案内してくれた。
「萌香、お茶な」
「はーい。よろこんで」
「酒場じゃないって何度言えば……」
ぼそっと陽葵は呆れながら言いつつも、萌香っていう子の無礼な態度にはイライラしてる様子はなかった。
むしろ愛のあるまなざしで見ているようにさえ見える。
恋人だから?
カワイイって思うわけ?
イライラしないのがわからない。
あれのどこがカワイイのよ。
黒のスーツを着ている陽葵は、応接セットのソファに私をすすめた。
私が座ると、陽葵が向かい側のソファに腰かけた。
「事務所を見ておきたくて」
「ここが事務所兼自宅」
見たいだけどうぞ、と言わんばりに両手を広げて、陽葵が笑う。
「そのようね。あと、お料理の確認もしたい。どういったものを出すのか。実際に食べたい」
「なら、佳乃の店に行こう。時間があるから、これから案内するけど?」
「え? 急にいいの?」
「見たいんでしょ? 食べて納得したいんでしょ?」
「ええ、まあ」と私は頷いて、視線をそらした。
「萌香、お茶は無しな。外に出てくる」と陽葵が私から離れて、事務所の奥に入っていく。
『社長、出るの? 昼前には帰ってきて』
萌香って以外の女性の声が聞こえてきた。
「ああ、わかった」と陽葵が答えた。
「予算と概要と、書類をここに置いていきました」
私は陽葵が置いていった企画書を、連に差し出した。
蓮は受け取ると、パラパラっと企画書に目を通した。
「イベントプランナーとしては、優秀だと思います」
一回目の打ち合わせで、話がかなり纏まった。前回のパーティに来ているというだけあって、連という人物をしっかりと把握していた。
どういったのを好み、嫌がるのかをすでに理解している。陽葵は人を見る目があるようだ。
「へえ、これは意外。急場しのぎに、小さい会社だが頼んだが。なかなかやるもんだ」
蓮が口元を緩めて、「名前、なんだっけ」と聞いた。
「冬城さんです」
「あ、そうだった。ネットの口コミは良かったんだよな。次の大手プランナーが見つかるまで、のつなぎだし……て思ったが。今回によっては続行も考えてやるか」
企画書をテーブルにポイッと投げると、パソコンに目を戻した。
「凛、もう帰っていいよ。おつかれ」
蓮はさっさと出て行け、と言わんばかりに手を振った。
私は蓮に一礼すると、蓮のマンションを後にした。
連のマンションの近くにある小さなアパートに私は帰る。ワンルームの部屋。
ここで一人暮らしをしている。結婚したら、連のマンションの一階下の部屋を買ってくれる、と話していた。
私は、会社の花なんだそうだ。隣でニコニコとわらい、蓮の取引先のおじさま方をご機嫌にしていればいい、と言われている。
『顔だけなのは今もなんだな』
陽葵に言われた言葉を思い出す。
「うるさい」と洗面所にうつる自分の顔を見て、荒々しく吐き出した。
「冬城さんいらっしゃいますか?」と私は、陽葵の事務所に足を踏み入れると、近くにいある女性に声をかえた。
金髪にちかい髪をふわっと纏めてお団子にしている女性が、「冬城さん?」と首を傾げて私を見やった。
チャラチャラしている女だ。
制服じゃないんだ。私服もダサい。だぼっとしたした大きめのシャツに、おしりが見えてしまいそうな短いショートパンツ。
嫌悪が私の心を支配した。
「ああっ。陽葵のこと? ひなたぁ~、えらい美人さんがきたよ。また女性問題、起こしたの?」
女性が衝立の向こうに向けて大声を出す。
きっと衝立の向こうには陽葵がいるのだろう。
「『また』とは何だ。美人イコール問題と決めつけるなって言ってるだろ、萌香」
「えー? だって基本、女性問題ばっかじゃん。私というものがありながら、隠し子がいるし、最低野郎じゃんか」
「……たく」
あ、否定しないんだ。
この金髪のダサい女が、陽葵の恋人?
すっかり女の見る目が落ちた?
衝立から姿を現した陽葵が、私を見て「どうぞ」と奥へと案内してくれた。
「萌香、お茶な」
「はーい。よろこんで」
「酒場じゃないって何度言えば……」
ぼそっと陽葵は呆れながら言いつつも、萌香っていう子の無礼な態度にはイライラしてる様子はなかった。
むしろ愛のあるまなざしで見ているようにさえ見える。
恋人だから?
カワイイって思うわけ?
イライラしないのがわからない。
あれのどこがカワイイのよ。
黒のスーツを着ている陽葵は、応接セットのソファに私をすすめた。
私が座ると、陽葵が向かい側のソファに腰かけた。
「事務所を見ておきたくて」
「ここが事務所兼自宅」
見たいだけどうぞ、と言わんばりに両手を広げて、陽葵が笑う。
「そのようね。あと、お料理の確認もしたい。どういったものを出すのか。実際に食べたい」
「なら、佳乃の店に行こう。時間があるから、これから案内するけど?」
「え? 急にいいの?」
「見たいんでしょ? 食べて納得したいんでしょ?」
「ええ、まあ」と私は頷いて、視線をそらした。
「萌香、お茶は無しな。外に出てくる」と陽葵が私から離れて、事務所の奥に入っていく。
『社長、出るの? 昼前には帰ってきて』
萌香って以外の女性の声が聞こえてきた。
「ああ、わかった」と陽葵が答えた。
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