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エピソード2 萌
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―陽太side―
ガツンと鈍い音がして、ガタガタンと盛大な音がした。
デスクに背中を打ち付けて、書類がハラハラと床に散らばっていくのを俺は、呆然と眺めた。
自分の身に起きていることなのに、なぜか他人ごとに感じてしまうのはなぜだろう。
「……ってぇ」と俺は、痛みを訴え始めた頬に手をあてた。
また殴られたし。
しかもいきなりだし。
俺の鞄がすこし遠くで、倒れているのが見えた。
殴られた際に、手から離れて飛んでいったのだろう。
ああ、頭がクラクラスする。
視線をあげれば、怒りに震えている五十嵐が仁王立ちしていた。
肩が大きく揺れているのは、俺を力任せで殴りつけたからだろう。
すっかり油断していた俺は、背中をデスクに打ち付けるし、尻は床に強打するし、散々だ。
あんたの愛人の後始末に、五十嵐の会社に来れば……思い切り殴られるって。
最悪だ。
五十嵐の愛人と話をしていた。差し替えが必要な書類もあったから、説明をしていたら肩を掴まれて思い切り殴られた。
キャーという女子社員の叫び声と、「なんだ」という男たちの声が遠くで聞こえる。
「おい、五十嵐。何してんだ」と同僚と思しき男が、さらに殴りかかろうとするのを止めていた。
「よくここに顔が出せたな」とドスのきいた声をだしてきた。
「仕事なんでね」
あんたとあんたの愛人のミスだろうが!
外回りの前に書類を届けただけっての。
俺は立ち上がると、ズボンのすそを払った。
ああ、掴まれた肩も痛ぇし。
馬鹿力だな、こいつ。
「五十嵐君、君はまた……武井課長に!?」とバーベキューのときに謝ってきた上司が室内に駆け込んできた。
誰かが呼んできたのだろう。
今回は、「酒の席ですから」という理由はきかないな。
さて、どうしたものか。
俺はジッと五十嵐に視線を送った。
荒々しく鼻息を噴射した五十嵐が、「こいつのせいだ。こいつのせいで……」と睨み付けてきた。
「武井課長は何もしてないだろ」と同僚の男が口を開く。
「武井課長は、契約書類の差し替えを持ってきてくださっただけです」
五十嵐の愛人が、床に散らばった書類をかき集めて、上司の男に書類を手渡した。
「これは?」と上司が問う。
「私が書類の数字を間違えてしまって。そのまま発注をかけてしまったのを、武井課長がすぐに気が付いてくださって。大事にならないように、と処理してくださっていたんです」
愛人が、腰を折って頭をさげる。
「こちらが迷惑をかけているのに、いきなり殴ったと?」
上司がじろっと、五十嵐に視線を送る。
「これは……別の問題で」
五十嵐が言いにくそうに口ごもった。
だんだんと冷静になってきたのか。それとも周りに味方がいないと焦っているのか。
どっちにしろ。
いきなり殴りかかったのは、まわりが見ている。
ガツンと鈍い音がして、ガタガタンと盛大な音がした。
デスクに背中を打ち付けて、書類がハラハラと床に散らばっていくのを俺は、呆然と眺めた。
自分の身に起きていることなのに、なぜか他人ごとに感じてしまうのはなぜだろう。
「……ってぇ」と俺は、痛みを訴え始めた頬に手をあてた。
また殴られたし。
しかもいきなりだし。
俺の鞄がすこし遠くで、倒れているのが見えた。
殴られた際に、手から離れて飛んでいったのだろう。
ああ、頭がクラクラスする。
視線をあげれば、怒りに震えている五十嵐が仁王立ちしていた。
肩が大きく揺れているのは、俺を力任せで殴りつけたからだろう。
すっかり油断していた俺は、背中をデスクに打ち付けるし、尻は床に強打するし、散々だ。
あんたの愛人の後始末に、五十嵐の会社に来れば……思い切り殴られるって。
最悪だ。
五十嵐の愛人と話をしていた。差し替えが必要な書類もあったから、説明をしていたら肩を掴まれて思い切り殴られた。
キャーという女子社員の叫び声と、「なんだ」という男たちの声が遠くで聞こえる。
「おい、五十嵐。何してんだ」と同僚と思しき男が、さらに殴りかかろうとするのを止めていた。
「よくここに顔が出せたな」とドスのきいた声をだしてきた。
「仕事なんでね」
あんたとあんたの愛人のミスだろうが!
外回りの前に書類を届けただけっての。
俺は立ち上がると、ズボンのすそを払った。
ああ、掴まれた肩も痛ぇし。
馬鹿力だな、こいつ。
「五十嵐君、君はまた……武井課長に!?」とバーベキューのときに謝ってきた上司が室内に駆け込んできた。
誰かが呼んできたのだろう。
今回は、「酒の席ですから」という理由はきかないな。
さて、どうしたものか。
俺はジッと五十嵐に視線を送った。
荒々しく鼻息を噴射した五十嵐が、「こいつのせいだ。こいつのせいで……」と睨み付けてきた。
「武井課長は何もしてないだろ」と同僚の男が口を開く。
「武井課長は、契約書類の差し替えを持ってきてくださっただけです」
五十嵐の愛人が、床に散らばった書類をかき集めて、上司の男に書類を手渡した。
「これは?」と上司が問う。
「私が書類の数字を間違えてしまって。そのまま発注をかけてしまったのを、武井課長がすぐに気が付いてくださって。大事にならないように、と処理してくださっていたんです」
愛人が、腰を折って頭をさげる。
「こちらが迷惑をかけているのに、いきなり殴ったと?」
上司がじろっと、五十嵐に視線を送る。
「これは……別の問題で」
五十嵐が言いにくそうに口ごもった。
だんだんと冷静になってきたのか。それとも周りに味方がいないと焦っているのか。
どっちにしろ。
いきなり殴りかかったのは、まわりが見ている。
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