12 / 31
エピソード2 萌
7
しおりを挟む
「ちょっと! ナニこれ。遊んでるの? 散らかしてるの?」
杏が藤宮くんの新しい住居に足を踏み入れると、声をあげた。
藤宮くんと武井くんが、足でお互いを蹴り合ってた。段ボールの中身が床に散乱してて、部屋はひどい状態になってる。
「片づけだけど?」と藤宮くんが、真顔で答えた。
「もう! これのどこが片づけなの?」
杏がため息交じりで言うと、「ほらな、怒られた」と武井くんが笑う。
「おまっ!? 最初に手を出してきたのは陽太だろ」
「おぼえてねえ」
「な……ちゃっかりしやがって」
武井くんが舌を出してから、笑う。
藤宮くんが悔しそうに、武井くんに視線を送っていた。
まるで子どもみたい。
29歳になっても、男は子どものまんまだというけれど。
これが、そうなのかもしれない。
「朝陽、片づけて! これじゃあ、今夜中に整理できないでしょ」
「怒られてやんの」と武井くんが、藤宮くんを指でさして笑う。
「覚えてろよ、陽太!」
武井くんは喉の奥を鳴らしながら笑って、私の隣に並んだ。
「久しぶり」
「ん……」と私はうなずくと、下を向いた。
武井くんが傍にいる。
ドキドキが早くなる。
私は武井くんが好き。会うたびにどんどんと好きが大きくなるよ。
『春川、いいこと教えてやる。あいつ、春川のことが好きで、今のいままで独身で彼女ナシって言ってたぞ』
私は藤宮くんから聞いてから、ドキドキっしぱなしだ。
引っ越しのお手伝いを終えて、私と武井くんは藤宮くんの家を後にした。
杏は朝まで一緒に過ごすって、藤宮くんのところに残った。
私たちは二人で見慣れない街を歩いた。
「萌は電車できたの?」
「うん。杏と一緒に新幹線で。武井くんは?」
「車。朝陽が運んでほしい荷物があるって。引っ越し業者を頼めって言ったんだけどなあ。朝陽と俺の車があれば、運びきれるって言うから」
武井くんが私の手を握ってきた。
指と指とを絡めて、自然と恋人つなぎになる。
「萌、送ってくよ」
「う、ん」
「ん? 反応悪くないか? いつもなら、『大丈夫、新幹線で帰るから』って言いそうなのに」
「え? ああ、そうなんだけど」
一緒に居たい。
もう少し、一緒に……。
新幹線で帰ってたら、早く地元につくけど。
武井くんと過ごす時間が少なくなってしまう。
早く帰っても、きっと何もいいことなんてない。
「もしかして、朝陽になんか言われただろ? なんて言われた? 言うてみ?」
武井くんが片眉をあげて、耳を私にかたむけてきた。
「言ったら……武井くんがきっと藤宮くんに怒るよ?」
「言ってみなきゃ、わからねえっての。ほら、言えよ」
「武井くんが独身で彼女がいないのは、私を好きだからって……言ってた」
武井くんの肩がぴくっと反応して、「朝陽め」と悪態をついた。
「まあ……間違っては、ない」と武井くんが言ってから、咳払いしていた。
「高校のとき、いつも彼女がいた武井くんが? また冗談言ってる?」
「あれは……。萌を知る前の話だろ」
ぷいっと武井くんがそっぽを向いた。
もしかして焦ってる?
こんな武井くんを見たことがない。
いつも余裕で笑ってるのに。
私はフッと笑みを零して、武井くんの頬を指でつついた。
「萌?」
「バーベキューの仕返し」と私がにやっと笑う。
「ふざけっ……」
武井くんが私の手首を掴んで、突いているのを止められた。
武井くんと足を止めて、見つめ合う。
優しい表情の武井くん。
キス……したい。
私はつま先立ちになると、武井くんの首に手をかける。
武井くんも、私の腰に手を回してぐっと引き寄せてくれる。
「もえ」と武井くんが私の名前を呼んでから、唇を重ねた。
一回目は軽い触れるだけのキス。
二回目は互いの舌を絡めて、濃厚なキス。
「このまま萌を連れ去っていい? あいつの元に帰したくないんだけど」
「私も帰りたくない……けど、帰らないと。もっと武井くんと一緒にいたい」
「じゃあ、少し寄り道していくか」
私はうなずくと、武井くんと手を繋いで歩き出した。
杏が藤宮くんの新しい住居に足を踏み入れると、声をあげた。
藤宮くんと武井くんが、足でお互いを蹴り合ってた。段ボールの中身が床に散乱してて、部屋はひどい状態になってる。
「片づけだけど?」と藤宮くんが、真顔で答えた。
「もう! これのどこが片づけなの?」
杏がため息交じりで言うと、「ほらな、怒られた」と武井くんが笑う。
「おまっ!? 最初に手を出してきたのは陽太だろ」
「おぼえてねえ」
「な……ちゃっかりしやがって」
武井くんが舌を出してから、笑う。
藤宮くんが悔しそうに、武井くんに視線を送っていた。
まるで子どもみたい。
29歳になっても、男は子どものまんまだというけれど。
これが、そうなのかもしれない。
「朝陽、片づけて! これじゃあ、今夜中に整理できないでしょ」
「怒られてやんの」と武井くんが、藤宮くんを指でさして笑う。
「覚えてろよ、陽太!」
武井くんは喉の奥を鳴らしながら笑って、私の隣に並んだ。
「久しぶり」
「ん……」と私はうなずくと、下を向いた。
武井くんが傍にいる。
ドキドキが早くなる。
私は武井くんが好き。会うたびにどんどんと好きが大きくなるよ。
『春川、いいこと教えてやる。あいつ、春川のことが好きで、今のいままで独身で彼女ナシって言ってたぞ』
私は藤宮くんから聞いてから、ドキドキっしぱなしだ。
引っ越しのお手伝いを終えて、私と武井くんは藤宮くんの家を後にした。
杏は朝まで一緒に過ごすって、藤宮くんのところに残った。
私たちは二人で見慣れない街を歩いた。
「萌は電車できたの?」
「うん。杏と一緒に新幹線で。武井くんは?」
「車。朝陽が運んでほしい荷物があるって。引っ越し業者を頼めって言ったんだけどなあ。朝陽と俺の車があれば、運びきれるって言うから」
武井くんが私の手を握ってきた。
指と指とを絡めて、自然と恋人つなぎになる。
「萌、送ってくよ」
「う、ん」
「ん? 反応悪くないか? いつもなら、『大丈夫、新幹線で帰るから』って言いそうなのに」
「え? ああ、そうなんだけど」
一緒に居たい。
もう少し、一緒に……。
新幹線で帰ってたら、早く地元につくけど。
武井くんと過ごす時間が少なくなってしまう。
早く帰っても、きっと何もいいことなんてない。
「もしかして、朝陽になんか言われただろ? なんて言われた? 言うてみ?」
武井くんが片眉をあげて、耳を私にかたむけてきた。
「言ったら……武井くんがきっと藤宮くんに怒るよ?」
「言ってみなきゃ、わからねえっての。ほら、言えよ」
「武井くんが独身で彼女がいないのは、私を好きだからって……言ってた」
武井くんの肩がぴくっと反応して、「朝陽め」と悪態をついた。
「まあ……間違っては、ない」と武井くんが言ってから、咳払いしていた。
「高校のとき、いつも彼女がいた武井くんが? また冗談言ってる?」
「あれは……。萌を知る前の話だろ」
ぷいっと武井くんがそっぽを向いた。
もしかして焦ってる?
こんな武井くんを見たことがない。
いつも余裕で笑ってるのに。
私はフッと笑みを零して、武井くんの頬を指でつついた。
「萌?」
「バーベキューの仕返し」と私がにやっと笑う。
「ふざけっ……」
武井くんが私の手首を掴んで、突いているのを止められた。
武井くんと足を止めて、見つめ合う。
優しい表情の武井くん。
キス……したい。
私はつま先立ちになると、武井くんの首に手をかける。
武井くんも、私の腰に手を回してぐっと引き寄せてくれる。
「もえ」と武井くんが私の名前を呼んでから、唇を重ねた。
一回目は軽い触れるだけのキス。
二回目は互いの舌を絡めて、濃厚なキス。
「このまま萌を連れ去っていい? あいつの元に帰したくないんだけど」
「私も帰りたくない……けど、帰らないと。もっと武井くんと一緒にいたい」
「じゃあ、少し寄り道していくか」
私はうなずくと、武井くんと手を繋いで歩き出した。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~
風音
恋愛
高校三年生の菊池梓は教師の高梨と交際中。ある日、元彼 蓮に密会現場を目撃されてしまい、復縁宣言される。蓮は心の距離を縮めようと接近を試みるが言葉の履き違えから不治の病と勘違いされる。慎重に恋愛を進める高梨とは対照的に蓮は度重なる嫌がらせと戦う梓を支えていく。後夜祭の時に密会している梓達の前に現れた蓮は梓の手を取って高梨に堂々とライバル宣言をする。そして、後夜祭のステージ上で付き合って欲しいと言い…。
※ この物語はフィクションです。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
この作品は「魔法のiらんど、野いちご、ベリーズカフェ、エブリスタ、小説家になろう」にも掲載してます。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる