11 / 31
エピソード2 萌
6
しおりを挟む
―陽太side―
「なんで俺が……」と思ったことが、そのまま口からダダ漏れする。
素直だからな、俺は。
心に留めておくのは苦手なんだ。
「暇だろ? 独身男子」
段ボールを持った朝陽が、ニヤッと嫌な笑みを見せた。
「ハイハイ、独身で悪かったな。お前だって独身だろうが」
「近々、入籍する」
「なんだかんだと言っておいて、夏木と元鞘かよ」
俺は朝陽の引っ越しの手伝いをしている。
地方のチームで、選手最後のプレーをするんだとか。
イタリアに行く前には、悩んでいる朝陽に何度か話を聞いていたが。
結局は、別れられなかった、ってところか。
同窓会で再会して、こいつらにもいろいろとあったんだろう。
「杏が、春川と一緒に手伝いにくるって言ってた」
「あ……そ」と俺は、口が緩んだ。
おもいがけないところで、萌に会えるとは。嬉しい。
バーベキューから、会ってないから。
旦那とうまくいっているのか。
俺的にうまくいってないといいんだが。毎日の生活をしているのは萌だからな。
息苦しい生活になってなければいい。
萌の旦那には何度か、会った。
五十嵐の上司と一緒に、バーベキューの件で菓子折りを持って謝りに来た。
酒の席でのこと。気にするなって言ったのに。
五十嵐は謝罪に納得してないようで、終始不満な顔をしてたなあ。
あの顔は、見ていて面白かったから、いいか。
なんで不倫相手の男に頭をさげなきゃいけないんだ、という感情がダダ漏れ過ぎて、笑いをこらえるのが大変だった。
そのあとは五十嵐の不倫相手のミスの件で、俺のところに来た。
俺が内密に処理をしたから。
さぞ、むかついていたことだろう。
妻を好きだ、と隠しもしない取引先の上司って扱いにくだろうなあ。
しかも自分の愛人のミスを、表ざたにせずに処理されて。秘密を握られてるんだから。
いい気はしないだろう。
俺的には優位にたてて、最高だ。
「お前、春川とどうなってんの?」
「どうにも」
「同窓会の帰りに追いかけていっただろ?」
「へんなとこ見てんな」
朝陽が、「目に入ったから」と笑った。
「俺が無理やり抱いたきり、だ」
「同窓会のあとに?」
「そゆこと」
「世間ではそれを不倫って言うんだぞ」
「知ってるっての」
俺は朝陽の脇腹に、肘を入れた。
朝陽は「いて」と言いながら、段ボールの中身を広げていた。
「春川もまんざらでないのかもな。同窓会のあとに杏のところに来てた。杏が、しきりにお前のことを聞き出そうとしていた」
「どうせ、話さなかったんだろ」
「まあ。杏から他の男の話はつい、イラっとして」
「ハイハイ、ごちそう様!」
今度は朝陽が、俺の脇腹に肘を入れてきた。
「好きなのか?」
「ああ。おかげで29になっても独身、彼女ナシだ」
「バカだな」
「うるせーよ。全てを捨ててイタリアに行っお前には言われたくねえ」
いいんだ。俺は別に。
独身だろうが。
彼女ナシだろうが。
不倫だろうが。浮気だろうが。
萌の笑顔が見られるなら、どんな立場だろうとどうでもいいんだ。
俺は、あいつの笑顔を見ていたいだけなんだ。
―陽太side終わり―
「なんで俺が……」と思ったことが、そのまま口からダダ漏れする。
素直だからな、俺は。
心に留めておくのは苦手なんだ。
「暇だろ? 独身男子」
段ボールを持った朝陽が、ニヤッと嫌な笑みを見せた。
「ハイハイ、独身で悪かったな。お前だって独身だろうが」
「近々、入籍する」
「なんだかんだと言っておいて、夏木と元鞘かよ」
俺は朝陽の引っ越しの手伝いをしている。
地方のチームで、選手最後のプレーをするんだとか。
イタリアに行く前には、悩んでいる朝陽に何度か話を聞いていたが。
結局は、別れられなかった、ってところか。
同窓会で再会して、こいつらにもいろいろとあったんだろう。
「杏が、春川と一緒に手伝いにくるって言ってた」
「あ……そ」と俺は、口が緩んだ。
おもいがけないところで、萌に会えるとは。嬉しい。
バーベキューから、会ってないから。
旦那とうまくいっているのか。
俺的にうまくいってないといいんだが。毎日の生活をしているのは萌だからな。
息苦しい生活になってなければいい。
萌の旦那には何度か、会った。
五十嵐の上司と一緒に、バーベキューの件で菓子折りを持って謝りに来た。
酒の席でのこと。気にするなって言ったのに。
五十嵐は謝罪に納得してないようで、終始不満な顔をしてたなあ。
あの顔は、見ていて面白かったから、いいか。
なんで不倫相手の男に頭をさげなきゃいけないんだ、という感情がダダ漏れ過ぎて、笑いをこらえるのが大変だった。
そのあとは五十嵐の不倫相手のミスの件で、俺のところに来た。
俺が内密に処理をしたから。
さぞ、むかついていたことだろう。
妻を好きだ、と隠しもしない取引先の上司って扱いにくだろうなあ。
しかも自分の愛人のミスを、表ざたにせずに処理されて。秘密を握られてるんだから。
いい気はしないだろう。
俺的には優位にたてて、最高だ。
「お前、春川とどうなってんの?」
「どうにも」
「同窓会の帰りに追いかけていっただろ?」
「へんなとこ見てんな」
朝陽が、「目に入ったから」と笑った。
「俺が無理やり抱いたきり、だ」
「同窓会のあとに?」
「そゆこと」
「世間ではそれを不倫って言うんだぞ」
「知ってるっての」
俺は朝陽の脇腹に、肘を入れた。
朝陽は「いて」と言いながら、段ボールの中身を広げていた。
「春川もまんざらでないのかもな。同窓会のあとに杏のところに来てた。杏が、しきりにお前のことを聞き出そうとしていた」
「どうせ、話さなかったんだろ」
「まあ。杏から他の男の話はつい、イラっとして」
「ハイハイ、ごちそう様!」
今度は朝陽が、俺の脇腹に肘を入れてきた。
「好きなのか?」
「ああ。おかげで29になっても独身、彼女ナシだ」
「バカだな」
「うるせーよ。全てを捨ててイタリアに行っお前には言われたくねえ」
いいんだ。俺は別に。
独身だろうが。
彼女ナシだろうが。
不倫だろうが。浮気だろうが。
萌の笑顔が見られるなら、どんな立場だろうとどうでもいいんだ。
俺は、あいつの笑顔を見ていたいだけなんだ。
―陽太side終わり―
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる