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エピソード2 萌
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―陽太side―
「妻とはどういう関係で?」
「あ?」と俺は背後に立って声をかけてくる男に振り返った。
萌の旦那か。
めんどくせえな。
「妻の笑い声が聞こえてきたので」
「ただの同級生に見えない、と?」
「まあ、率直にいえば」
「ご想像にお任せします」
「どういう意味でしょう?」
五十嵐が睨み付けてくる。俺は真っ向から受け取ると、口を緩めた。
馬鹿らし。
俺に喧嘩売ってどうするんだか。
「あなたが粗相のないように、と忠告したからでしょ? 夫の取引先の上司のご機嫌をとってただけなんじゃないの?」
「そうは見えない」
「だろうな」と俺は、本音がこぼれる。
やべ。俺ってば、素直だから。
「なにか?」
「いえ。ただ、おかしいなと思って。あんたは部下と不倫してて、妻に我慢を虐げるのに。妻は自由にできないで監視しているのはどうか、と」
「はあ?」
五十嵐の目が吊り上がった。
正直に言いすぎたか?
ストレートすぎたか。
許せねえだろ。
萌だけが我慢してんの。
あんたのために悩んで苦しんで。
素直になれなくて。
オロオロしてんのを見ていたくねえんだけど。
「気づかれないとでも? バレバレ。2年前からそういう関係でしょ? カフェで見かけた部下と」
3年前に萌をバーベキューで見かけた。
結婚してたのは、朝陽から聞いてたから、そこまでショックはなかったが。
2年前に旦那が不倫してんのを見たときは、腹が立ったよ。
「取引先でなら、少しくらいイチャついてもバレないと思った? 馬鹿だろ」
俺がフッと笑うなり、五十嵐の拳が飛んできた。
ガツっと頬骨に響く感じがして、俺の身体がよろめいた。
芝生の上に俺を転がる。
短気すぎだろ。
馬鹿じゃねえの?
殴る前に、取引先の人間、殴ったらヤバいって気づけっつうの。
「いてぇ」と俺は呟きながら、顔をあげると怒りに満ちた五十嵐が睨み付けていた。
「ちょ……! 五十嵐君、何をしてるんだ!? 取引先の上司に」
殴られて現場を遠くで見ていたと思しき、会社の上役が駆けつけて五十嵐の肩を掴んでいた。
「武井課長、申し訳ありません。うちの五十嵐が……」
「いえいえ。大丈夫ですよ」と俺は作り笑いで立ち上がった。
五十嵐はまだ俺を睨んでいた。
「酒の席ですから。少し熱くなったみたいです。気にしないでください」と俺は、五十嵐の上司に微笑んだ。
「え? ちょ……何が!?」
少し離れていたところにいた萌が、小走りで近づいてきた。
『殴っちゃマズいだろ。いくら妻が寝取られそうだからって』
俺は五十嵐の肩に手を置いて、誰にも聞かれないように耳打ちした。
「お前……わざっ」
横並びに立つ俺に、五十嵐がハッとした表情になった。
『あんたから奪うのは簡単そうだな』と俺はニヤリと含み笑いを浮かべた。
「武井くん!? 大丈夫? 痛くない?」と萌が俺の殴られた頬に冷たい手をつけてきた。
萌の手はひんやりしてて気持ちいいな。
―陽太side終わり―
「妻とはどういう関係で?」
「あ?」と俺は背後に立って声をかけてくる男に振り返った。
萌の旦那か。
めんどくせえな。
「妻の笑い声が聞こえてきたので」
「ただの同級生に見えない、と?」
「まあ、率直にいえば」
「ご想像にお任せします」
「どういう意味でしょう?」
五十嵐が睨み付けてくる。俺は真っ向から受け取ると、口を緩めた。
馬鹿らし。
俺に喧嘩売ってどうするんだか。
「あなたが粗相のないように、と忠告したからでしょ? 夫の取引先の上司のご機嫌をとってただけなんじゃないの?」
「そうは見えない」
「だろうな」と俺は、本音がこぼれる。
やべ。俺ってば、素直だから。
「なにか?」
「いえ。ただ、おかしいなと思って。あんたは部下と不倫してて、妻に我慢を虐げるのに。妻は自由にできないで監視しているのはどうか、と」
「はあ?」
五十嵐の目が吊り上がった。
正直に言いすぎたか?
ストレートすぎたか。
許せねえだろ。
萌だけが我慢してんの。
あんたのために悩んで苦しんで。
素直になれなくて。
オロオロしてんのを見ていたくねえんだけど。
「気づかれないとでも? バレバレ。2年前からそういう関係でしょ? カフェで見かけた部下と」
3年前に萌をバーベキューで見かけた。
結婚してたのは、朝陽から聞いてたから、そこまでショックはなかったが。
2年前に旦那が不倫してんのを見たときは、腹が立ったよ。
「取引先でなら、少しくらいイチャついてもバレないと思った? 馬鹿だろ」
俺がフッと笑うなり、五十嵐の拳が飛んできた。
ガツっと頬骨に響く感じがして、俺の身体がよろめいた。
芝生の上に俺を転がる。
短気すぎだろ。
馬鹿じゃねえの?
殴る前に、取引先の人間、殴ったらヤバいって気づけっつうの。
「いてぇ」と俺は呟きながら、顔をあげると怒りに満ちた五十嵐が睨み付けていた。
「ちょ……! 五十嵐君、何をしてるんだ!? 取引先の上司に」
殴られて現場を遠くで見ていたと思しき、会社の上役が駆けつけて五十嵐の肩を掴んでいた。
「武井課長、申し訳ありません。うちの五十嵐が……」
「いえいえ。大丈夫ですよ」と俺は作り笑いで立ち上がった。
五十嵐はまだ俺を睨んでいた。
「酒の席ですから。少し熱くなったみたいです。気にしないでください」と俺は、五十嵐の上司に微笑んだ。
「え? ちょ……何が!?」
少し離れていたところにいた萌が、小走りで近づいてきた。
『殴っちゃマズいだろ。いくら妻が寝取られそうだからって』
俺は五十嵐の肩に手を置いて、誰にも聞かれないように耳打ちした。
「お前……わざっ」
横並びに立つ俺に、五十嵐がハッとした表情になった。
『あんたから奪うのは簡単そうだな』と俺はニヤリと含み笑いを浮かべた。
「武井くん!? 大丈夫? 痛くない?」と萌が俺の殴られた頬に冷たい手をつけてきた。
萌の手はひんやりしてて気持ちいいな。
―陽太side終わり―
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