黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~

ひなた翠

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―豊side―
「意外と早かったな。まだ時間がかかると思って油断してた」
「……そのようだな。ガウン姿とは」
 玄関には道元坂以外にも、昔の友人が立っていた。

「智まで。駆り出されたのか?」
「違う。恵の秘書に見つかって、引っ張り出された。まあ……同じ獲物だからいいけど」

 杉本智
すぎもとさとる
が不満そうに頬を膨らませる。懐かしい顔ぶれに思わず、昔の自分にかえりそうになるが、喉を鳴らして気を引き締めた。

「二人ともどうぞ。椅子は一つしかねえけど」
「相変わらずなんもない家だな」
 さくさくと智が中に入っていく。

「お前も大して家にモノを置いてないだろ」
「まあ……そうだけど。豊のシャツ、一枚頂戴。汗びっしょで気持ち悪いんだよ。長時間の張り込みは疲れる。クローゼットここだろ?」

「あ……待て! そこは……」
 俺が引き留める間もなく、Tシャツを脱いだ智がドアを大きく開けた。ドアの前にはパジャマ姿のマヤの姿があった。

「……え?」
「あ……」
 マヤと、上半身裸の智が顔を見合わせる。マヤの視線が下に行き、腰のところで止まるとぴくっと眉が動いた。

「豊、だれ、こいつ」
「……刺青……同じの……」

 マヤが信じられないものを見るかのように、俺に目を向けた。

 これは……勘違いする、よな?

「マヤ、こいつは探偵の杉本智。俺の昔からの知り合い。智、この人は俺の恋人、小野寺真弥」
 俺は二人の間に入ると、慌てて紹介をした。『恋人』と言えば、マヤは安心するかと思ったが……いまだに俺を見る目が怖い。

「ちゃんと説明しておかなかったお前が悪い」
 俺たちの後ろで足を止めた道元坂がフッと笑うと、奥までさっさと入っていく。一つしかない椅子に腰を下ろすと、煙草を吸い始めた。

「あ……道元坂さんまで?」

 どういうこと、と言わんばかりの顔をするマヤに、「へえ」と智が肩を抱いた。

「豊に恋人……意外だわ。しかも小野寺議員の次男坊かよ」
「智、やめろ。触るな」

 智の腕の中に入ったマヤの腕を掴んで、俺の胸の中に閉じ込めた。いくら旧知の仲と言えども、俺以外の男の腕の中にマヤは入れたくない。

「あの……小林と同じ、刺青……」
 マヤが智の左腰についている刺青に視線を落とした。

「ああ? これ? 片翼の刺青。誓いの証。施設を出るときに、生きる道が違えども、それぞれの道で恵を守って行こうっていう徴だな」
 智が刺青に触りながら説明をする。

「施設?」
「ああ? あれ? 言ってないの、豊。……俺ら全員、同じ施設出身者。本来なら、俺も豊もこんな贅沢な暮らしなんて出来ない人間だったけど……恵のおかけでこうして生きてる」

「……そう、だな」
 ゴホンっと奥に座っている道元坂が喉を鳴らした。振り返ると、吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れてこっちを見ていた。
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