13 / 23
13
しおりを挟む
『とりあえず……自分のデスクでじっと座ってなさい』
自分ではどうにも考えられなくて。麗香さんに助けの電話を入れた。事情を説明したら、あとはこっちで処理するから気にせずに、定時で帰りなさい、とそう言われた。
僕が佐藤のもとにいっても同じように犯されておわるだけ。小林の足を引っ張るだけなんて……。考えるだけで胸が苦しくて、心臓が痛い。
「うわっ、道元坂じゃね?」
「ええ? 大企業社長の? 道元坂恵?」
「初めてホンモノ見た」
「ええ? 小林のオフィスに入って行ったよ……もしかして顧問弁護士、小林なの?」
大部屋の弁護士たちが口々にざわめき立った。道元坂恵……名前だけ知っている。たまに雑誌で見かけるから。大手企業の社長で、一代で築き上げた会社がすごいと言われている。
雲の上の人……だと思った。でも、小林にしたら同等の人間で……フェアに仕事をしているんだ。僕と違って、大金の動く仕事をして……。なのに、僕はなにもできなくて。
じわっと涙が出そうになって、慌てて鼻を押さえて上を向いた。僕には地位も権力もない。恋人にはそれがある。僕は……これからも邪魔ばかり、してしまう。
『時間よ。帰りなさい』
麗香さんからメールが届く。僕は出しているファイルを鍵付きの抽斗にしまってから、鞄を出した。パソコンを落として、立ち上がる。尻から響いてくる痛みを堪えながら歩き出した。
小林のオフィスの横を通りならがちらっと部屋の様子を窺う。ソファに向かい合って二人が座って、話し込んでいる。大部屋で聞いているだけでも小林は凄い人だと思ったけれど、こうやって目で見ても……やっぱりすごい人なんだと実感する。
談笑している小林と目が合って僕は慌てて視線を逸らした。速足でエレベータ前に行くとボタンを押した。
「先輩、なんで目を逸らすの?」
「……ひぃ!」
まさか追いかけていたなんて思わなくて、悲鳴をあげてしまう。後ろからお腹に手を回されて、耳朶に口を付けられる。
「そんなに驚かないでよ。今日は帰るの?」
「ああ、まあ。麗香さんに残業しないで帰るようにって言われてるから」
「やった。今夜は先輩と一緒に過ごせるんだ……ん? 先輩……ねえ、なんで……」
突然の低い不機嫌な声を僕は、ごくっと生唾を飲んでしまう。
なんで、急に怖い声を?
「佐藤の煙草の匂いがするの?」
「えっ?」
「佐藤と先輩って、仕事の絡みないでしょ?」
「あ……ああ、さっき自販機で。そのときじゃないかな? 煙草、吸い終わったばかりだったんじゃないか?」
どんな嗅覚をしてるんだ?
「ふぅん……で? どうしてスーツも乱れてるの?」
「え?」
「ワイシャツのボタン、ズレてるけど? さっき俺のオフィスにいたときはズレてなかった」
「いや……これは、お……お前がっ」
なんですぐにわかるんだよ。どうして……気づくんだ?
「ああ、俺のを咥えて興奮した? もしかしてトイレでシコったの?」
「そ……そうだよ。ほんとに、仕事中にもうやるなよなあ?」
「乳首弄って? じゃあ、今夜もたくさんしようね、先輩」
チュッと耳朶にキスをしてから、小林が離れていく。背中が怒っているように見えるのは僕に隠したいことがあるから、そう見えてしまうのかもしれない。
今夜は……たくさん、出来ないんだよ、小林――。
自分ではどうにも考えられなくて。麗香さんに助けの電話を入れた。事情を説明したら、あとはこっちで処理するから気にせずに、定時で帰りなさい、とそう言われた。
僕が佐藤のもとにいっても同じように犯されておわるだけ。小林の足を引っ張るだけなんて……。考えるだけで胸が苦しくて、心臓が痛い。
「うわっ、道元坂じゃね?」
「ええ? 大企業社長の? 道元坂恵?」
「初めてホンモノ見た」
「ええ? 小林のオフィスに入って行ったよ……もしかして顧問弁護士、小林なの?」
大部屋の弁護士たちが口々にざわめき立った。道元坂恵……名前だけ知っている。たまに雑誌で見かけるから。大手企業の社長で、一代で築き上げた会社がすごいと言われている。
雲の上の人……だと思った。でも、小林にしたら同等の人間で……フェアに仕事をしているんだ。僕と違って、大金の動く仕事をして……。なのに、僕はなにもできなくて。
じわっと涙が出そうになって、慌てて鼻を押さえて上を向いた。僕には地位も権力もない。恋人にはそれがある。僕は……これからも邪魔ばかり、してしまう。
『時間よ。帰りなさい』
麗香さんからメールが届く。僕は出しているファイルを鍵付きの抽斗にしまってから、鞄を出した。パソコンを落として、立ち上がる。尻から響いてくる痛みを堪えながら歩き出した。
小林のオフィスの横を通りならがちらっと部屋の様子を窺う。ソファに向かい合って二人が座って、話し込んでいる。大部屋で聞いているだけでも小林は凄い人だと思ったけれど、こうやって目で見ても……やっぱりすごい人なんだと実感する。
談笑している小林と目が合って僕は慌てて視線を逸らした。速足でエレベータ前に行くとボタンを押した。
「先輩、なんで目を逸らすの?」
「……ひぃ!」
まさか追いかけていたなんて思わなくて、悲鳴をあげてしまう。後ろからお腹に手を回されて、耳朶に口を付けられる。
「そんなに驚かないでよ。今日は帰るの?」
「ああ、まあ。麗香さんに残業しないで帰るようにって言われてるから」
「やった。今夜は先輩と一緒に過ごせるんだ……ん? 先輩……ねえ、なんで……」
突然の低い不機嫌な声を僕は、ごくっと生唾を飲んでしまう。
なんで、急に怖い声を?
「佐藤の煙草の匂いがするの?」
「えっ?」
「佐藤と先輩って、仕事の絡みないでしょ?」
「あ……ああ、さっき自販機で。そのときじゃないかな? 煙草、吸い終わったばかりだったんじゃないか?」
どんな嗅覚をしてるんだ?
「ふぅん……で? どうしてスーツも乱れてるの?」
「え?」
「ワイシャツのボタン、ズレてるけど? さっき俺のオフィスにいたときはズレてなかった」
「いや……これは、お……お前がっ」
なんですぐにわかるんだよ。どうして……気づくんだ?
「ああ、俺のを咥えて興奮した? もしかしてトイレでシコったの?」
「そ……そうだよ。ほんとに、仕事中にもうやるなよなあ?」
「乳首弄って? じゃあ、今夜もたくさんしようね、先輩」
チュッと耳朶にキスをしてから、小林が離れていく。背中が怒っているように見えるのは僕に隠したいことがあるから、そう見えてしまうのかもしれない。
今夜は……たくさん、出来ないんだよ、小林――。
0
お気に入りに追加
341
あなたにおすすめの小説
後輩の甘い支配
ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)
「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」
退職する直前に爪痕を残していった後輩に、再会後甘く支配される…
商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。
そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。
その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げる。
2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず…
後半甘々です。
すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる