黒の執愛~黒い弁護士に気を付けろ~

ひなた翠

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パソコンでメールチェックを終えた僕は、立ち上がる。鍵のかかる抽斗にしまっておいた多数の黄色いファイルを取り出すと、同じ室内にいる弁護士たちのデスクに置いてく。

「これで、よしっと」
「今日も早いな、小野寺は」
 背後から声をかけらえて、振り返ると大学が一緒だった岡田渉が立っていた。

「ああ、岡田! おはよう。みんなが出勤する前に、頼まれてた仕事を配っておきたくて」
「頼まれてたっていうより、押し付けらた、だろ? 新人扱いされて頭にこねえ?」

「別に。僕はここでは新人だから」
「パートナーレベルの弁護士なのに?」

「それは前の事務所で、だろ? 僕は麗香さんに拾ってもらっただけで感謝だよ。ああ、そうだ。岡田にも資料を……。この案件、前に似たような裁判があったんだ。参考になれば。それと書類な。お前の印鑑を押せば、もうすぐに発送できるようになってるから」

「サンキュ。仕事早いな。ちゃんと寝てるか?」
 岡田の言葉で、昨日のベットでのできごとを思い出す。絡みある熱い吐息が耳の蘇って、思わず頭を振った。

「ちゃんと寝てるよ。事務所に近いところに引っ越したし」
「なんだ、近いのか。今度、遊びに行かせろよ?」

 僕からの資料を受け取った岡田が肩を叩いて、歩き出した。岡田はパートナーで、個室をもっているから、自分の部屋に行ったのだろう。

 頼まれていた仕事を配り、最後のファイルは小林の部屋に持っていく。麗香さんには小林が抱えている仕事には手を出すなって言われてるけれど……、小林の下についている弁護士の一人が僕に仕事を頼んで帰ったから。仕方ないよね、と心の中で言い訳しつつ、ガラスの扉を開けた。

 ゆっくりと室内に入り、デスクにそっとファイルを置いた。美作麗香の次に広い部屋を堂々と使っている。ここから見える都心の景色はまた絶景だ。僕は、すごい奴と付き合ってるんだな、としみじみと思うと小林の部屋を出ていった。

 ファイルを配り終え、軽く事務所の掃除をし終えてる頃には事務所のほとんどの人間が出勤してきていた。

 ただーー、小林はまだ出勤していない。
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