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「ちょ……っと、今までできなかったことをしていただけ」
「なに?」
「そこは……聞いちゃだめ」
「どうして?」
「変態って思われるから」
「何をしてたの?」
「……だから……聞いちゃダメなんだってば」
「明夏のこと知りたい」
(そのタイミングで……『知りたい』って言う?)
明夏は顔に熱をもった。知りたいって言われるのは嬉しいが、恥ずかしいことをしているときに言われるのは困る。
「……だから、その……匂いを……」
「匂い?」
「冬夜の匂いを嗅いで……幸せに浸っていたっていうか……恥ずかしいから! もうっ」
布団をかぶる明夏を東雲が強く抱きしめてきた。
「俺もいい?」
「……な、なにが?」
「明夏の匂いをクンクンするの」
「だから、それ……変態行為になるからぁ……」
「だめ?」
「だめじゃないけど」
「『けど』?」
「いいです。どうぞ……」
首筋に鼻を近づけると、深呼吸するの音がした。
(宣言されてからやられるって……恥ずかしすぎる)
大型犬に懐かれたような気がしながら「はい、はーい。お終いでーす」と言いながら、明夏はベッドから飛び出した。
気持ちを落ち着けようと小難しい本が並ぶ棚を眺めた。英語の単語ばかりがタイトルになっている。一体、何の本なのかさっぱりわからない。
スーッと棚になる本棚を見ていくと、青い小さな箱に目が留まった。
(これ……指輪を入れるやつ)
よくドラマで、プロポーズで使うようなケースだ。
明夏の後ろに立った東雲が、明夏の視線の先にある箱を手に取った。
「兄さんが用意したヤツ。返そうと思って」
「病室で冬夜が話してた人?」
「そう。冬月兄さん。奥さんと買った結婚指輪と同じのを柊木先生にもあげて……俺にも。そうすれば、浮気がバレないって思ってる」
「最低だな」
「病院が第一の人間からしたら……大したことじゃないのかも、しれない。俺にはわからない。経営のために結婚をして、愛人は抱きたい女だと前に話してた。兄さんのお気に入りは柊木先生で、離したくないと。彼女、妊娠したから余計に近くに置いておきたいみたい」
「で、冬夜と結婚をさせようとした、と」
「恋愛ってわからないし、人を好きになると思えなかったから。年齢的にそういう年だから、兄さんの提案を受け入れた。柊木先生も承諾して……やっぱり無理だと断った」
「ぼくが告白してきたから?」
フッと口元を緩めて東雲が笑うと、手の中にある箱をごみ箱に投げた。ガタンっと音を立てて空のごみ箱に入った。
「今まで担任をいくつか受け持ってきたが……正直、誰のことも覚えてないんだ。子供たちの名前だってその年限りで……記憶から消えていく。人間関係でも同じで、あまり深く関わらないし、記憶に残っている人間もいない。でもどうしてか……明夏だけは違って。教室にいると目で追ってしまうし、授業のときも見てしまう。告白される前からずっと。だから見ないように気をつけてる自分がいつの間にか居て……それをすっかり春実にはバレてて……もっと気を付けるべきだって言われてたところだったんだ。今思えば『好き』だったんだと思う。告白されたとき……試してみたいと思った。思わず見てしまう理由も知りたかったから。だから、柊木先生とは夫婦にはなれないと思って……断った」
「そうだったんだ」
「自分の気持ちが膨れ上がるにつれ、どんどんと明夏の体調が悪くなっていくから不安だった。春実に言われるまで、気づけなくて悪かった」
「ぼくも聞けば良かったんだ。怖くて聞けなくて……勝手に妄想して。だからお互い様だよ」
くるっと身体の向きを変えると、明夏は東雲と向き合った。優しく微笑む彼の表情が柔らかくて、心がホッとする。
「これからは……もっと、たくさん……話をしていこう?」
「うん。不安な気持ちもそうでないことも、冬夜に話す」
「ずっと一緒に……いよう、明夏――」
明夏は頷くと、東雲の胸の中に身体を埋めた。
(自分の世界を壊さなくて良かった)
ゆっくりでいい。東雲と二人で、恋をして愛を育んでいこう。
「なに?」
「そこは……聞いちゃだめ」
「どうして?」
「変態って思われるから」
「何をしてたの?」
「……だから……聞いちゃダメなんだってば」
「明夏のこと知りたい」
(そのタイミングで……『知りたい』って言う?)
明夏は顔に熱をもった。知りたいって言われるのは嬉しいが、恥ずかしいことをしているときに言われるのは困る。
「……だから、その……匂いを……」
「匂い?」
「冬夜の匂いを嗅いで……幸せに浸っていたっていうか……恥ずかしいから! もうっ」
布団をかぶる明夏を東雲が強く抱きしめてきた。
「俺もいい?」
「……な、なにが?」
「明夏の匂いをクンクンするの」
「だから、それ……変態行為になるからぁ……」
「だめ?」
「だめじゃないけど」
「『けど』?」
「いいです。どうぞ……」
首筋に鼻を近づけると、深呼吸するの音がした。
(宣言されてからやられるって……恥ずかしすぎる)
大型犬に懐かれたような気がしながら「はい、はーい。お終いでーす」と言いながら、明夏はベッドから飛び出した。
気持ちを落ち着けようと小難しい本が並ぶ棚を眺めた。英語の単語ばかりがタイトルになっている。一体、何の本なのかさっぱりわからない。
スーッと棚になる本棚を見ていくと、青い小さな箱に目が留まった。
(これ……指輪を入れるやつ)
よくドラマで、プロポーズで使うようなケースだ。
明夏の後ろに立った東雲が、明夏の視線の先にある箱を手に取った。
「兄さんが用意したヤツ。返そうと思って」
「病室で冬夜が話してた人?」
「そう。冬月兄さん。奥さんと買った結婚指輪と同じのを柊木先生にもあげて……俺にも。そうすれば、浮気がバレないって思ってる」
「最低だな」
「病院が第一の人間からしたら……大したことじゃないのかも、しれない。俺にはわからない。経営のために結婚をして、愛人は抱きたい女だと前に話してた。兄さんのお気に入りは柊木先生で、離したくないと。彼女、妊娠したから余計に近くに置いておきたいみたい」
「で、冬夜と結婚をさせようとした、と」
「恋愛ってわからないし、人を好きになると思えなかったから。年齢的にそういう年だから、兄さんの提案を受け入れた。柊木先生も承諾して……やっぱり無理だと断った」
「ぼくが告白してきたから?」
フッと口元を緩めて東雲が笑うと、手の中にある箱をごみ箱に投げた。ガタンっと音を立てて空のごみ箱に入った。
「今まで担任をいくつか受け持ってきたが……正直、誰のことも覚えてないんだ。子供たちの名前だってその年限りで……記憶から消えていく。人間関係でも同じで、あまり深く関わらないし、記憶に残っている人間もいない。でもどうしてか……明夏だけは違って。教室にいると目で追ってしまうし、授業のときも見てしまう。告白される前からずっと。だから見ないように気をつけてる自分がいつの間にか居て……それをすっかり春実にはバレてて……もっと気を付けるべきだって言われてたところだったんだ。今思えば『好き』だったんだと思う。告白されたとき……試してみたいと思った。思わず見てしまう理由も知りたかったから。だから、柊木先生とは夫婦にはなれないと思って……断った」
「そうだったんだ」
「自分の気持ちが膨れ上がるにつれ、どんどんと明夏の体調が悪くなっていくから不安だった。春実に言われるまで、気づけなくて悪かった」
「ぼくも聞けば良かったんだ。怖くて聞けなくて……勝手に妄想して。だからお互い様だよ」
くるっと身体の向きを変えると、明夏は東雲と向き合った。優しく微笑む彼の表情が柔らかくて、心がホッとする。
「これからは……もっと、たくさん……話をしていこう?」
「うん。不安な気持ちもそうでないことも、冬夜に話す」
「ずっと一緒に……いよう、明夏――」
明夏は頷くと、東雲の胸の中に身体を埋めた。
(自分の世界を壊さなくて良かった)
ゆっくりでいい。東雲と二人で、恋をして愛を育んでいこう。
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