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(わかってるけど……顔が熱い)
部屋に直行したのだから、セックスをするつもりでいるのは理解していた。病院に行ったからって理由で断る気もない。が、肌で感じるとドキドキしてしまうのだ。
「いいよ。冬夜の好きなように……抱いてほしい」
「え?」
「いつも受け身だったでしょ? ぼくのしたいようにエッチしてた。一緒にイこうって言うまでイカないし。だから今日は、冬夜の思うように抱いて?」
「明夏……その……『思うように』……が、わからない、んだ」
(感情に蓋をしたからーーってこと?)
明夏はベッドに腰かけると手を伸ばして、東雲の頬に触れた。
「もしかして……今まで、誰かを抱きたいっていう気持ちも、なかった……とか?」
「ああ、なかった。明夏が初めて、だ。毎週火曜日が待ち遠しくて。でも……どんどんと足りなくなっていくんだ。もっと……って。だからって授業をサボらせるわけにはいかないし、夜は塾があるだろうし……」
「困った?」
「困った……。泊まりにきてって言ったけど……断られたから」
東雲の視線が泳いだ。己の気持ちを伝えるのは苦手みたいだ。明夏も得意なほうではないが。東雲はさらに上をいっている。
「南野と冬夜が付き合ってると思ってたから。一緒に居たくなかった」
「でも俺が帰るまでは一緒に勉強を……」
「前に言っただろ? 感情が違うんだ」
「……よく、わからない」
「南野とぼくが一緒に勉強するのはいいんだ。勉強に集中できるし、たいした会話もしない。でも冬夜が帰ってくれば、嬉しそうにする南野の顔や、南野を愛おしそうにみる冬夜の顔が嫌でも目に入ってくるし。二人の親し気な会話が耳を支配して、心臓が痛かった。ああ、ここに割り込むスペースなんてぼくにはないんだって気にさせられて……苦しくて悔しくてイライラして……寂しくて、ムカムカするんだ。だから、冬夜が帰ってくる前に、ぼくが居なくなれば……少しは気持ちが楽かなって思って」
「……春実は……弟みたいな感じで。兄や俺とは違って……愛されて生まれてきたはずだったのに。気が付けば、実の母親から虐待を……。だから中学卒業とともに、家族から引き離したんだ」
悲し気な顔をした東雲がジャージの上着とシャツを脱いだ。上半身が裸になると背中を明夏に見せた。それは……酷い火傷の痕が残っていた。火傷だけじゃない……無数のミミズ腫れのような茶色くなった筋があった。
「古い傷跡は……実の母親から。火傷は春実の母親から。春実にも火傷の痕がある……」
明夏は立ち上がると、東雲の背中に触れた。すーっと古傷をなぞると、彼の鍛え上げられた背筋が上下する。
「ぼくより……もっと、ずっと……辛い想いを」
(ぼくはなんてちっぽけな人間だったのだろうか。母に会えないと文句を言い、義理の母からの無視にイライラして父親の浮気に軽蔑してただけ……)
全てが壊れればいいとかって言って……現実から目を背けて逃げていただけに過ぎない。今の現状を受け止めることもしないで、親のせいにしてた。
東雲はもっと辛い状況で生きてきた。感情を消すことでーー生きてきた。同じように苦しむ南野を守って……。明夏は己の浅はかさに恥ずかしさを感じた。
「……っなさい。ごめっ……さい」
(クソ真面目な教師をただ笑い者にしたいってだけで……ぼくは、声をかけて……なんて酷い人間だったのだろう)
「あすな……?」
「ごめっ……ぼくは、先生に……酷いことを」
「何を言って……この傷は母たちにつけられただけで、明夏は何もしてない」
振り返って明夏の肩を抱きしめた東雲が、困惑していた。彼の胸に顔を埋めて温もりを感じれば感じるほど、胸が痛くて苦しくなった。
今は好き……告白したときはそうでもなかった感情が、今は好きすぎてどうにかなりそうなくらいだ。でもきっかけは東雲を陰で笑うためだった。つまらない日々を壊してーー。
部屋に直行したのだから、セックスをするつもりでいるのは理解していた。病院に行ったからって理由で断る気もない。が、肌で感じるとドキドキしてしまうのだ。
「いいよ。冬夜の好きなように……抱いてほしい」
「え?」
「いつも受け身だったでしょ? ぼくのしたいようにエッチしてた。一緒にイこうって言うまでイカないし。だから今日は、冬夜の思うように抱いて?」
「明夏……その……『思うように』……が、わからない、んだ」
(感情に蓋をしたからーーってこと?)
明夏はベッドに腰かけると手を伸ばして、東雲の頬に触れた。
「もしかして……今まで、誰かを抱きたいっていう気持ちも、なかった……とか?」
「ああ、なかった。明夏が初めて、だ。毎週火曜日が待ち遠しくて。でも……どんどんと足りなくなっていくんだ。もっと……って。だからって授業をサボらせるわけにはいかないし、夜は塾があるだろうし……」
「困った?」
「困った……。泊まりにきてって言ったけど……断られたから」
東雲の視線が泳いだ。己の気持ちを伝えるのは苦手みたいだ。明夏も得意なほうではないが。東雲はさらに上をいっている。
「南野と冬夜が付き合ってると思ってたから。一緒に居たくなかった」
「でも俺が帰るまでは一緒に勉強を……」
「前に言っただろ? 感情が違うんだ」
「……よく、わからない」
「南野とぼくが一緒に勉強するのはいいんだ。勉強に集中できるし、たいした会話もしない。でも冬夜が帰ってくれば、嬉しそうにする南野の顔や、南野を愛おしそうにみる冬夜の顔が嫌でも目に入ってくるし。二人の親し気な会話が耳を支配して、心臓が痛かった。ああ、ここに割り込むスペースなんてぼくにはないんだって気にさせられて……苦しくて悔しくてイライラして……寂しくて、ムカムカするんだ。だから、冬夜が帰ってくる前に、ぼくが居なくなれば……少しは気持ちが楽かなって思って」
「……春実は……弟みたいな感じで。兄や俺とは違って……愛されて生まれてきたはずだったのに。気が付けば、実の母親から虐待を……。だから中学卒業とともに、家族から引き離したんだ」
悲し気な顔をした東雲がジャージの上着とシャツを脱いだ。上半身が裸になると背中を明夏に見せた。それは……酷い火傷の痕が残っていた。火傷だけじゃない……無数のミミズ腫れのような茶色くなった筋があった。
「古い傷跡は……実の母親から。火傷は春実の母親から。春実にも火傷の痕がある……」
明夏は立ち上がると、東雲の背中に触れた。すーっと古傷をなぞると、彼の鍛え上げられた背筋が上下する。
「ぼくより……もっと、ずっと……辛い想いを」
(ぼくはなんてちっぽけな人間だったのだろうか。母に会えないと文句を言い、義理の母からの無視にイライラして父親の浮気に軽蔑してただけ……)
全てが壊れればいいとかって言って……現実から目を背けて逃げていただけに過ぎない。今の現状を受け止めることもしないで、親のせいにしてた。
東雲はもっと辛い状況で生きてきた。感情を消すことでーー生きてきた。同じように苦しむ南野を守って……。明夏は己の浅はかさに恥ずかしさを感じた。
「……っなさい。ごめっ……さい」
(クソ真面目な教師をただ笑い者にしたいってだけで……ぼくは、声をかけて……なんて酷い人間だったのだろう)
「あすな……?」
「ごめっ……ぼくは、先生に……酷いことを」
「何を言って……この傷は母たちにつけられただけで、明夏は何もしてない」
振り返って明夏の肩を抱きしめた東雲が、困惑していた。彼の胸に顔を埋めて温もりを感じれば感じるほど、胸が痛くて苦しくなった。
今は好き……告白したときはそうでもなかった感情が、今は好きすぎてどうにかなりそうなくらいだ。でもきっかけは東雲を陰で笑うためだった。つまらない日々を壊してーー。
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