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第一話
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陽真SIDE
わかっているんだ。どんなに深く愛し、尽くしてもあなたが俺を見ないって――。
それでも俺はあなたを愛している。
――ごめん。
ベッドで眠っていた俺の耳元で、充(みちる)が囁いた。
眠っている俺を起こさないように、と充が静かに布団から足を出して部屋を後にする。
「起きてるよ」
寝てねーし。
出ていったベッドに残る残像に向かって、俺は呟いた。
レースのカーテンしかかかっていない窓に視線をやる。嵐のように窓に打ち付けていた雨はいつの間にか止み、都会の煌びやかな夜景が見えた。
「俺の役目は終わりか」
自嘲の笑みを浮かべて、俺は身体を起こした。冷たい床に両足をつけて、窓に近づく。
鍵のついていない窓を全開に開ける。湿気を含んだ冷たい風が部屋の中に入ってきた。
「……ばか、だよな……俺も」
俺を愛さない。俺を見ない男と一緒に暮らし、ただ傍にいるだけ。
目の端で、スマホがチカチカと点滅するのを捉えた。机に置きっぱなしのスマホに手を伸ばして電話に出た。
「毎度、気になって電話してくるんなら……抱いてやれよ、兄さん」
『運命の番じゃない。お前もいい加減に、きちんと血液検査をして、一族のためにマッチングを……』
「俺はベータだから」
『いつまでも隠し通せるわけが……』
俺は兄さんみたいにならない。
愛している人を、守り抜く。それだけだ。
「充は明日からちゃんと出社できる。妊娠させてない。首も噛んでない。他に質問はある?」
『……ない』
「一応、アフターピルも飲んでもらうから」
『お前も一度、検査を』
「する必要がない」
検査なんてしたくない。
『強い薬を常用してるって聞いたぞ。今回の充のヒートのときには、さらに強いのを出せって医師に噛みついたって』
「なに言ってるの? 俺はベータだから、薬なんて」
『死ぬぞ』
「要件は終わり? 俺、眠いから。じゃ」
知ってる。
強い薬を多用しすぎて、肝臓がいかれてきてるって。
身体を壊しても、守りたい奴がいる。助けたい奴がいる。
兄さんみたいに『運命』じゃないからって、切り捨てない。
『運命』じゃなくても俺は傍にいたい――。
わかっているんだ。どんなに深く愛し、尽くしてもあなたが俺を見ないって――。
それでも俺はあなたを愛している。
――ごめん。
ベッドで眠っていた俺の耳元で、充(みちる)が囁いた。
眠っている俺を起こさないように、と充が静かに布団から足を出して部屋を後にする。
「起きてるよ」
寝てねーし。
出ていったベッドに残る残像に向かって、俺は呟いた。
レースのカーテンしかかかっていない窓に視線をやる。嵐のように窓に打ち付けていた雨はいつの間にか止み、都会の煌びやかな夜景が見えた。
「俺の役目は終わりか」
自嘲の笑みを浮かべて、俺は身体を起こした。冷たい床に両足をつけて、窓に近づく。
鍵のついていない窓を全開に開ける。湿気を含んだ冷たい風が部屋の中に入ってきた。
「……ばか、だよな……俺も」
俺を愛さない。俺を見ない男と一緒に暮らし、ただ傍にいるだけ。
目の端で、スマホがチカチカと点滅するのを捉えた。机に置きっぱなしのスマホに手を伸ばして電話に出た。
「毎度、気になって電話してくるんなら……抱いてやれよ、兄さん」
『運命の番じゃない。お前もいい加減に、きちんと血液検査をして、一族のためにマッチングを……』
「俺はベータだから」
『いつまでも隠し通せるわけが……』
俺は兄さんみたいにならない。
愛している人を、守り抜く。それだけだ。
「充は明日からちゃんと出社できる。妊娠させてない。首も噛んでない。他に質問はある?」
『……ない』
「一応、アフターピルも飲んでもらうから」
『お前も一度、検査を』
「する必要がない」
検査なんてしたくない。
『強い薬を常用してるって聞いたぞ。今回の充のヒートのときには、さらに強いのを出せって医師に噛みついたって』
「なに言ってるの? 俺はベータだから、薬なんて」
『死ぬぞ』
「要件は終わり? 俺、眠いから。じゃ」
知ってる。
強い薬を多用しすぎて、肝臓がいかれてきてるって。
身体を壊しても、守りたい奴がいる。助けたい奴がいる。
兄さんみたいに『運命』じゃないからって、切り捨てない。
『運命』じゃなくても俺は傍にいたい――。
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