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一章 契約者とアグリメント
1話 契約者とアグリメント
しおりを挟む月明かりが照らす夜の事だった。
靴を鳴らし走る音が路地裏に響き渡る。
「ここまで来れば…」
「みーつけた」
突然目の前に現れた顔に悲鳴をあげてしまいそうになったが何者かによって口を塞がれる。
目だけを上にあげると顔は影で隠れていて分からないがすぐに誰かわかった。
「雪…」
私が雪と呼ぶ人物の名は雪實、私と契約した人外。高身長でスタイル抜群、綺麗な黒髪を持ち、やまとなでしこと言う言葉が似合いそうな超絶美女。性格を除けば…。
「我の主がここまで追い詰められようとは考えものよ」
「は?!私がどれだけ必死に逃げたと!」
「我が主であれば己の力で倒さぬか」
「私は普通の人間なんだけど?!」
「あの…仲間同士の喧嘩は…」
敵が口を挟むと雪の殺気に耐えきれなくなったのか一目散にその場を後にした。
「逃げられちゃったじゃん」
「貴様がのろのろとしておるからであろう」
「雪のその冷たい妖気で逃げたんでしょ?」
「我が悪いと?」
「そうでしょ」
「そうか、ならば貴様一人で相手をするが良い。どうやら我は足でまといのようだ」
「そんなこと言ってない…」
一人帰ろうとする雪にムスッとすると、人差し指にはめてあった契約の証である指輪を取り雪に投げ付けた。
「今度という今度は許さない!雪なんて知らない!」
などと子供のような言葉を吐き捨てるとその場を走り去った。こんな言葉を吐き捨てるのはどうかと思うが雪の前だと思わず子供のような態度をとってしまう。
雪のことだから私に死の危機が無い限り探しに来るどころか心配もしないだろうな。
ふと、落ちてくる白いものに気が付き空を見上げた。
雪だ...。
雪と出会った日もこんな雪が降る日だった...名前とピッタリだなって思ったりした。
「なっ...雪なんて知ら...」
愚痴を呟いていると、目の前を歩く者に気が付き物陰に隠れた。
あれは最近ここら辺で契約者を狩っている人だ。雪が警戒しろと言っていた気がする。
「あいつこんなところにいたのね」
「なっ…...びっくりした」
突然背後に現れた人物に驚き、思わず大きな声を出しそうになったが自分の口を覆い声を隠した。
「篠さん...…」
「驚いた?」
「そりゃ驚きますよ...」
篠原 富美。私の先輩で同じ契約者でもある。
契約しているのは鬼のアグリメントと言っていたが、一度もちゃんと姿を見た事が無い。長い付き合いだが詳しい話は未だに知らないのだ。
「ここら辺に出没するって聞いたけど、まさかこんな人気の無い道で待ち伏せして居たなんてね」
「ここって篠さんのテリトリーですよね?」
契約者の活動範囲の事をテリトリーと呼び、ここ近辺は全て篠さんのテリトリー。篠さんのテリトリー内での争いは御法度、バレれば即篠さんと契約をした鬼に殺される。
最初何も知らずに背後から刀を向けられ雪とものすごい戦闘を繰り広げたのを覚えてる。思い出すと背筋が…。
「えぇ、私のテリトリー内に出没するなんて思ってもみなかったわ」
「あいつら、契約者を見つけたら攻撃を仕掛けてくるって有名ですけど、どうします?」
「そうね。何か起こされる前に倒した方がいいかしら...でも、よりによって私のアグリメント不在なのよね」
そう言いつつ、その場で軽く運動をし走ったかと思うと綺麗な篠さんの足蹴りが後頭部にクリンヒット...。これは痛そうどころか脳震盪を起こしても不思議じゃない。
物陰から飛び出すと篠さんの元へ走った。周りに人が居なかったから良かったけれど、これは通報されかねない。
「ノックアウトですね。流石篠さん」
「このぐらい朝飯前よ。それよりも、こいつを縛るの手伝っ...」
「シャドー!」
突然男が大きな声で叫ぶもので私達は耳を塞いだ。
シャドー...確か陰に生き、陰を生み出す者。
警戒しようと篠さんを呼ぼうとしたが既に遅かった。私の周りを暗い空間が包み込む...周りは何も見えない。
「美優ちゃん?!」
「篠さん、居るんですか?!」
「えぇ、暗すぎるわね...雪實ちゃんは?」
「それが...」
「…また喧嘩ね。分かったわ、私が何とかす...」
ふと、突然篠さんの声が途切れるように消え静かな暗闇が訪れた。
誰かを呼ぼうにも誰も居ない。私の声は誰にも届かない。誰も私に気づいてくれない。
暗い...怖い......。
暗闇が私の頭を支配し恐怖と言う言葉だけが頭を埋める。
「み......美優!」
「...雪...?」
突然大きな声が聞こえゆっくりと目を開けると、私を抱き抱える雪が顔を覗き込んでいた。
私...寝てた...?
「なんで...」
なぜここに居るのかと聞こうとしたが雪の視線の先が気になり言葉を止めた。篠さんの前に立ち私達を守る男。綺麗な着物に身を包み白い髪の間からは黒い一本の角が生えていた。
篠先輩と契約した鬼だ。暗くて顔はよく見えないけれどこの人があの鬼なのか。
ここに居ても冷たい何かが伝わる。たまに雪からも似たようなものを感じる、これが妖気というやつだと思ってる。
「あの程度の敵、あやつならすぐ倒せるだろう。我らは先失礼する」
「えぇ、ここは私のテリトリーよ。巻き込んでしまって申し訳ないわ」
「でも...」
雪は抵抗しようとする私を横抱きすると、ビルの屋上まで飛び上がり軽々とビルからビルへと飛び移る。
既に夜が深まり辺りのビルの明かりが綺麗に見える。
「雪、戦わなくて大丈夫なの?」
「言ったであろ。大丈夫だと」
「でも...」
「相変わらず心配性よの」
「だって、もう大切な人を失いたくないから」
ふと、突然足を止めたかと思うと雪は私をちょうど良い段差に座らせ前で膝まづく。
せっかく綺麗な着物を着ているのに汚してしまうのではないかと心配していると雪と目が合い思わず逸らした。
「それは我も同じだ。お主は我の契約者であってこの世で一番大切な人間よ、お主が居なくなるのは耐えられぬ」
そう言って私の手を取った雪は人差し指に契約の証である指輪をはめる。
元はと言えば、誰かさんが契約者である私への暴言等が酷いというのが始まりだと言うのに。
私はため息を着くと雪の頬に触れた。
「だったら私を死ぬ気で守ってね」
「……ふっ…それでこそ我が主だ。我はこの身が朽ち果てようともお主を守ると誓おう」
そう言って私の手で輝く指輪に口付けをする。
ふと、雪が降り始めていた事を思い出し体を震わせた。そう言えば、出会った頃と同じシチュエーション...。
「その格好じゃ冷えるであろ」
そう言って雪は自分の羽織を私に掛けた。自分だって薄手の着物を来てる癖に寒くはないのだろうか、とは思ったもののきっと人間では無い雪にとってこの程度の寒さは普通なのだと思う。
「さぁ、帰るぞ。我のうどんが待っている」
「...うどん作って待っててくれたの?!」
「まさか、我がうどんを作る訳が無かろ。我の家臣であるお主が作る」
「は?!そこは作っておいてよ。それと、主従関係は私の方が上でしょ?!」
「何を戯けたことを抜かしておるのだ。我は王ぞ、王が家臣になる訳が無かろう。お主が家臣だ」
「そこ、一度ハッキリさせないと駄目ね。家に帰ったら勝負!」
「嗚呼、今のところ我が全勝だが望むところだ」
「そう言う余計な事は言わなくていいから!」
「さてさて、私らの王を探しに行かなければ行けません。そこで、この中の誰が先に王を見つけるか勝負しませんこと?」
一つの大きな部屋に集まる6人。その中の1人が扇子片手にそう告げる。
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「良いじゃねぇか。面白そうだな」
朱雀。護衛としてその身を焼き尽くしてでも王を守り続けた者。
「でも、それって喧嘩とかになりませんか?」
比丘尼。優れた頭脳を持ち、騎士隊長として王を守り続けた者。
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