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一章 契約者とアグリメント
3話 王-2
しおりを挟む「うぅ...疲れた...」
私は湯船に入ると底に沈む大きめな石の上に腰を掛けた。
元々旅館経営していたおじさんの家の風呂場は凄く広い。お金だけは持っていた人だったからな...。
ふと、誰かが入って来た事に気が付いた。あれは...雪だ。
「雪もお風呂ですか」
「ここに居たのだな」
「私は長風呂ですから...それより、よく尚吾ちゃんを認めたね」
私がお風呂に入る前に一波乱があった。
契約がどうのこうの、指輪がどうのこうの、途中で色々な情報が飛び交い過ぎて頭がパンクして逃げたけど。
「お主がそれで良いのであればそれで良い」
「なら良かった。でも、まさか雪が王様だったなんて、確かに上からな口調はそうだけど...」
「失礼なやつよの。どこからどう見ても王であろ」
「うーん...分かんないや」
「考えることを辞めおって...」
雪が体を洗っている姿をジッと見つめていると、雪と目が合う。
「そう、見つめるでない。我とて体を見られるのは少しばかり恥ずかしいぞ」
「へぇ、そういうの恥ずかしがるんだ。考えてみれば、雪とお風呂が被るのって初めてだよね?!」
「...そうよの」
私はお風呂から出るとお湯を流し濡れた雪の髪に触れた。本当に綺麗な黒髪なんだよな。凄く長いし...重たそう。
「ねぇねぇ、今度から一緒に入ろうよ」
「は?我がお主と風呂を共に?」
「いいじゃん...にしても、やっぱり雪って顔面は綺麗だし声も綺麗だし胸も大き...」
「それ以上言えば主とて命はないと思うが良い」
冷たい冷気...これはガチだ。
私は体を震わせるとムスッとしながら隣のシャワーを手に取った。
「お主は何故そうも我を気に入っておるのだ」
「それ今聞く?」
「答えたくなければ良い」
「じゃあ言わない」
「...やはり言え」
「どっちなの...でも、言わないよ」
すると、突然腕を引っ張られ倒れた私は雪の膝の上に乗ってしまう。
雪の大きな胸が体に当たり、少し顔を赤らめた。
「申せと言っておろう」
「い、言いません。その綺麗な顔面で言われても言いません!」
「...ほう...それは残念じゃの」
そう言って雪は私を立たせ湯船に浸かってしまう。
「あれ、不貞腐れた?」
「そんな訳が無かろう」
「ねぇねぇねぇ、不貞腐れたよね?」
「戯けが、我が不貞腐れるなど...」
「雪って私の事好きだよね」
雪の前まで来た私は雪の足に手を置き顔を近付けた。
私は、他人の好意には酷く敏感だ。好意を持たれているのか持っていないのかすぐに分かる。
「ほう、我がお主を慕っていると?」
「うん」
「...気の所為だろう、我とお主は契約で共にいるだけだ。我を愚弄しておるのか」
「えー」
「もう良いだろう。我は先に出る、はよ出んとのぼせるぞ」
「はーい」
そっか、好きじゃないのか...。
「だから雪の傍に居られるんだよ」
「何をしておるのだ」
風呂から出ると美優の部屋に入り色々と漁る尚吾を見つけた。
「え?主の調査をしておるんや」
「何故そんなことを...」
「主、何か裏があるとちゃうんか?」
「...お主が言うのであれば間違いでは無かろうな」
ふと、何かを見つけたのか一冊の書物をペラペラとめくり始める。
「こりゃ驚きやな」
「何を見つけ...」
「おっと、雪實さんは主に興味が無いんよな?知る必要は無いと思うんやけどな」
「生意気になりおって」
「雪實さん、まさか忘れたわけやないよな?今は雪實さんが主では無いんや。私は美優ちゃんの言葉でなきゃ動かへん」
妖は主を乗り換えやすい生物だ。長く生きていると同じ主では飽きてしまう、そのため主を乗り換える...まさか、自分の家臣が裏切るとは思いもしなかったの。
「まぁ、冗談や。これぐらい主の秘密を握る鍵にはならへんよ。まぁ、私的にはいい情報ではあるんやけどな」
そう言うと、龍神は私に一冊の本を投げた。よく分からぬが、女二人が抱き合っている絵が書かれたもの。
「ちと雪實さんには早いもの...」
「あいつ、女に興味があったのか」
「ありゃ、思ってた反応と違うんやけど...まぁええわ。その反応やと雪實さんも主のことを狙ってるようやな」
「我があいつの事を...」
「好きなんやろ」
こいつは何を言っておるのだ。
我があやつを好きだと...?そのようなことがある訳がない。龍神も美優も頭がどうかしておるのだろう。
「...まぁ、好きやないなら好都合やしええわ。私の好きなようにさせてもらうわ。ほら、私って男と言うより女向きやろ?それに、どうやら主は私のような子が好きらしいやんな」
確かに壁に貼られた絵や人形は私よりも龍神のような愛いおなごばかり...。
「...お主の好きなようにはさせん」
「やっと自覚したんか?」
「好きだのなんだの言うのはまだ分からぬ。だが美優を渡すのは...」
「あれ、2人とも私の部屋で何してんの?」
「主、風呂から出たんやな」
「うん。尚吾ちゃんは入らないの?」
「入ってくるわ」
美優は濡れた髪を布で拭きながら龍神に尋ねる。
ふと、龍神の笑みに気が付き我は思わず2人の間を通り廊下へ出た。
「あ、ちょっと雪待ってよ!」
「何用だ?」
「聞きたいことがあるの」
「なんだ」
「その、あのね...」
そう言ったきり何一つ言わずモジモジするばかり...。言い難いことでもあるのだろうか。
「はよ申せ」
「そのさ...読んだの?」
そう言って指さした先には龍神が先程の本を掲げこちらを見ている様子だった。あの本のことを聞いておるのか...。
「見たには見たが...」
「見たの?!そ、その...別に恋愛対象が女の子って訳じゃないんだよ?!ただ、好きってだけで...その」
「結局何が言いたいのだ」
「ほら、さっきあんなこと言っちゃったばかりだから...」
そう言えば湯船で我のことを申していたか...。
深く考えなかったな。
「大丈夫や、主。雪實さんは...お、落ち着きや雪實さん!」
あやつは油断してると面倒な事を...。
我の妖気に当てられたのか身震いする美優に気が付き、美優持っていた布を取り濡れた髪を拭いた。
「なっ、ありがとうと言いたい所だけど力強すぎて頭もげる!」
「それは済まない。龍神、余計な事を申せば命はないと思うが良い」
「...はーい」
相変わらず読めないやつよの。
処刑宣告をされて笑みを浮かべる...我にはよう分からぬ。
「ねぇ、何の話してたの?」
「......うどんの話だ」
「絶対嘘だよね?!」
「ほう、我が嘘をついてると?」
「何その自分は嘘をつきませんみたいな言い方...」
「ほれ、髪を乾かしてやろう」
「ちょっと、話変えようとしてるよね?!」
「主も隅におけへんな。にしても、まさか雪實さんが主に想いを寄せるとは思いもせなかったな。椿さんもそろそろ諦めたらええんやない?」
私の横に現れた椿さんは扇子で口元を隠し微笑む。
相変わらず妖美な方やの...。
「あら、貴方はあの小娘の味方だと言うのかしら」
「そりゃ、私の主やからな。主の命は絶対、椿さんが敵となるのなら全力で潰させて頂くさかい」
「へぇ、生意気言うようになったわね」
「今は無敵な気持ちやさかい。何が来ても主を守れそうな気がするんや」
弱々しい拳を見せると椿さんはクスクスと笑い、一瞬で閉じた扇子を首元に突き付ける。
「私にも勝てると言うのかしら」
「それは勘弁して欲しいわ。でも、椿さんに入る隙はもう無いと思うんやけどな」
「長年王様の横に立ち続けた私があの小娘に勝てないと?」
もう分かっておる癖に、負けず嫌いは前々から変わらへんな。
それが自身の弱味になっているとも知らずに...。
「椿さん、貴方では無理だ。王は貴方を女どころか駒としか思っておらへん、それは私も同じや」
「...ふんっ、小僧が生意気言って...私は王様を取り戻すわ」
「...そう...ほな、頑張りなはれや」
すると、舌打ちをして椿さんは私の前から姿を消した。
「王を愛しているのは椿さんだけやないからな...一波乱起きるのは当たり前やな」
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