あいつのイヌになりまして

シアン

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始マリ

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真梧しんごが目を覚ますと眼前によく似た顔が二つあった。

どちらも3歳ほどの幼児で、一人の頭にはケモノ耳がついている。

猫なのか犬なのか解らないが、クリクリとした瞳をもつ顔によく似合っていた。

けれど、知らない顔だ。
どちら様だ。

自分の知り合いでこんなに小さいのは従兄弟の子供だけのはず。

そもそも、ここは何処だ? と真梧がまわりを見回そうとすると、ハッとしたようにケモノ耳ではないほうが叫んだ。

「ちびっこいのおきたー!」  

ちびっこいのはそっちだろ! と真梧がツッコむ暇もなく部屋を駆け出ていき、ケモノ耳の方も置いていかれまいと慌てて「おきたー!」と叫びながら出て行く。

見送った小さな背中のすぐ下にはフサフサのくりんと巻いた尻尾がついていた。

犬のコスプレだったのか。
結構クオリティの高い、耳と尻尾だった。

そっちの趣味には興味がなくて知らなかったけれど、最近の仮装グッズはとても進化しているようだ。

......で、 ここは何処だ? と真梧は改めて見回してみる。

自分がいるところは和室である。
しかも、 ただの和室ではない。

テレビでよく紹介されているような由緒正しき旅館の風体で、ちびっこ達が出ていった障子の向こうには手入れの行き届いた中庭と別棟がみえた。敷地はかなり広そうだ。

もしかして、ここは離れというやつなのでは......。

旅館だったら別料金取られるやつである。
自然と血の気が引いていく。

こちとらバイトもしていない、しがない高校生だ。

ここが本当に旅館で、滞在費を取られたら、半月前にもらったお年玉が全て飛ぶどころじゃない。 

おそらく親に立て替えてもらわないと払えないレベルだ。

なぜ、自分はここにいるのだろう。
全く思い出せない。

でも、自分の意志で来たわけでないはずだから、免除してもらえないだろうか。

それとも、親に連絡をとったほうがいいんだろうか。などと、ぐるぐる思案していると、先程出ていった足音が戻ってきた。

 「ねー! ちびっこいのおきてるから、はやくー!」

「おそいよー! さゆ兄ー!」 

去っていったときと同様に騒がしく舞い戻ったちびっこ達は、サユニイとやらを連れてき たらしい。

障子にそれなりの大きさの影が映る。

ちびっこ達よりかは、話が通じる年齢だろう。願わくば、この邸の主人あるじで太っ腹な人をお願いします。  

けれども願いむなしく部屋に入ってきたのは到底主人とは思えない、自分と同い年ほどの男だった。

「どこまで覚えている」

いささか不遜な態度のその男は、こちらを見下ろして尋ねた。

どこまでもなにも全く覚えていないと答えようとしたが、口から出た言葉はこれだった。



「わぅぅうん」

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