今年も綺麗に咲いたねって、一緒に桜を見上げてくれる人と。

羽月☆

文字の大きさ
上 下
20 / 20

20 あの頃の桜の季節。~裕司、他にも感謝したい人を見つけた~

しおりを挟む
ふと思い出した。
ご両親と会った時に彼女がDVDをもらっていた。
なんだろうとは思ったけど、その話は出なくて。
帰ってから彼女は見ただろう、内緒なんだろうか?



「由利乃さん、そう言えばあれなんだったの?」

気になって軽く聞いてみた。

「小さい頃からの映像でした。二人で遊んでる小さい頃の映像や私の学校行事などの映像が入ってて、それを持ってきてくれました。」

「僕も見てみたい気がするけど、駄目なの?」

しんみりと語ってた彼女は懐かしさ以外の何かを思い出しただろうか?
子供のころの事や姉妹間のことはやっぱり聞きづらい。


「大丈夫です。でも勝手に見せたと知ったら妹が怒るかもしれないので、そこは内緒でお願いします。」

笑顔でそう言われて安心した。きっと冗談だろう。

立ち上がった彼女がパソコンと一緒に持ってきた。
正面に置いて、二人で見る。


一人の女の子が白いベビー服に包まれているところから、次第に大きくなっていく。
若いお母さんの大きなおなかに耳を当ててるシーン。
妹の誕生。
いつも小さな赤ちゃんに寄りそうお姉ちゃんの彼女。
その小さな二人の手は寝てる時もつながれていた。



「ゆりの、ふぅーして。」

小さい女の子が思いっきり息を吹いた。
誕生日ケーキのロウソクが消された。

若い頃のお父さんとお母さんがいて、小さい女の子が二人いて。小さいほうの女の子が大きな女の子を見上げてる。
手には動物がついたフォークが握られてる。

口の周りにご飯の残りのような色があったり、服に食べこぼしが乗っかってたり。
フォークを握りしめる小さな手と丸い目が可愛い。しっかり面影もある二人。

切り分けられた彼女のケーキにチョコプレートとメレンゲの動物が乗せられた。
隣から覗き込まれて、笑顔で妹に分けてあげるお姉ちゃんの彼女。
満足そうな二人の笑顔。

似てる、すごく。
口の周りを白いクリームが縁取って笑ってる笑顔までそっくりだった。


場面が切り替わり公園での休日。

小さな子が走り出すのを止めるお母さん。

「ゆりの、手を離していいよ、一緒に転ぶから。」

そう言って離された妹は走り出し、転んだ。

お母さんより先に駆け寄る彼女。立たせて、汚れを叩くように払ってあげて。

しっかりと手は繋がれた。

お父さんの声がする。

「いつも走って転ぶのに、本当に懲りないなぁ。」

毎回の事らしい。

たしか体が弱いと聞いていたけど。
元気そうだ。
遊具で遊ぶ二人の女の子、やっぱり妹の方が元気に見えるけど・・・。

それからも部屋で姉が妹に絵本を読んでるシーンやお風呂のあとふざけて遊んでるシーン、白いパンツ一枚で走り回ってる二人。

流石にその時は「あっ、あっ・・・・」と隣の大人になった彼女が慌てた。

どこにもわだかまりはないように思える。

姉は妹を気遣い、妹は姉を頼りにして、時々振り回して。

喧嘩のシーンもあったけど、二人でお母さんに怒られてしょんぼりしてた。
そんな顔もお揃いだった。


最後に知らない地名のタイトルの映像があった。

小さな女の子、『ゆりの』と呼ばれてるから小さな頃の彼女だ。
呼んだのはお母さんじゃなくてお祖母ちゃんらしい。

隣に座り込みじっと庭を見てる。


「お散歩に行く?」
「太郎に会いに行く?」
「お菓子買いに行こうか?」

どの誘いにも黙ったまま首をふる女の子。


預けられてた時のものだろう。

きっとお祖父さんが撮ってくれて両親に送ったんだろう。ただ、淋しそうな女の子の映像だった。時々笑顔になって犬と遊んでる映像も入ってる。電話にしがみつくように泣きながら話をしてる映像もあった。

見てるこっちが切なくなるような。

桜の咲いた春、迎えに来てもらう日だろうか、大きなリュックを背負った女の子。
まだ来ないから下ろしておきなさい。
そう言われてもしっかり肩の部分を握ってる。

車の音がするたびに外をのぞきに行く女の子。
とうとう車がついて、ドアの音もした。
走り出す前から泣き出してる。

お母さんの足にくっついてわんわんと泣く女の子。
鼻をすするお祖母ちゃんの鼻声も聞こえてくる。

「とりあえず上がって。」

そこで映像が切れて、車から手を振る女の子、笑顔満点だ。妹は映ってなかったけどいなかったのかもしれない。遠かったと言ってたから連れてこなかったのかもしれない。それでも両親ともに迎えに来てくれて笑顔で手を振ってる。最後は小さくなる車とお祖母ちゃんのため息だろう。



ただ静かに二人でそれを見ていた。

「まだ、元気なの?」

「はい。もうずいぶん会ってないです。」

「じゃあ、会いに行く?」

そう言ったら泣きそうな顔でこっちを見た。

「はい、次に桜の咲く前に。」

「じゃあ週末を使っていこう。連れてって。」




「まりちゃんが食べたいから、はんぶんにして。」

「まりのは食べたからゆりのの分よ。」

「半分こでいい。」

半分になったゼリーをつつき合いながら小さな二人は仲良く笑ってた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー たとえ好きになっても 気持ちを打ち明けるわけにはいかない それは相手を想うからこそ… 純粋な二人の恋物語 永遠に続く六日間が、今、はじまる…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鬱金桜の君

遠野まさみ
恋愛
子爵家の娘だった八重は、幼い頃に訪れた家で、不思議な桜を見つける。その桜に見とれていると、桜の名を貰った、という少年が話し掛けてきた。 少年は記念だといって、その桜の花を一輪手折って八重にくれた。 八重はその桜を栞にして大事にすると、少年と約束する。 八重は少女時代、両親の愛情に包まれて過ごすが、両親が亡くなったあと、男爵である叔父の家に引き取られると、華族としての扱いは受けられず、下働きを命じられてしまう。 ある日言いつけられたお遣いに出た帰りに、八重は軍服を着た青年と出会うがーーーー?

すべての事件は裏の家でおきていました。

羽月☆
恋愛
中学二年生の小坂しおりは年の離れた姉かおりの暴君ぶりには慣れてます。 今日も創立記念日でお休みなのに、言いつけられた部屋の掃除に真面目に従います。 世の中のお姉さんはこんなに皆女王キャラでしょうか? そんなはずはありません。 妹を猫可愛がるお姉さんだっているはずなのに、ただ小坂家にはいませんでした。 掃除が終わって途中見つけたワンピースなどを借りて、散歩に出かけて見つけたのは捨て猫でした。 先に見つけた人がいましたが・・・・・・。 委員長・・・・。 まさか裏の家が委員長のおじいさんの家だなんて知らなかった。 簡単に敷居をまたげない家。 それでもすべてが許されていて、とても大切な場所になりました。 クラスメートの名木一総(なぎかずさ)君。 委員長としか呼んだことのない委員長。 ちょっとづつ仲良くなりながら、中学生の狭い世界で繰り広げられる可愛いやり取り。 しおりと一総、おじいちゃんと姉かおりと猫たち。 時々、のんびりした話です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...