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22 コーヒーの冷めない距離と時間
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何でだろう?
すごく頑張ってるのに、終わらない。
あと一時間。
う~ん、確実に1時間くらい余分にかかる。
トイレに行くふりをして、・・・・実際に行ったけど、個室でメッセージを送る。
何故かいつもこっそりと。
誰にバレたくないのか、こっそりと。
『一時間くらい残業予定。頑張りますが、どうしようか?』
レストランを予約しようと思ったのに、それはいいと言われて。
数件のレストランを探して聞いてみたのに、どこも予約してない。
快気祝い。
むしろ残業があるなら時間が間に合わなかっただろう、結局良かった。
社食で見かけたから社内にいるとは思ってた。
しばらくしたら返事が来て、出先から直帰すると言われた。
最寄り駅のコーヒー屋で待ち合わせする予定に変更。
ちょっとの距離だけど、一緒に帰れる約束は守れた感じ。
ガッカリしたけど、とりあえず急いで仕事を終わらせよう。
席に戻って集中した。
まあまあ予定通りに会社を出た。
駅のコーヒー屋で探すと真面目な顔をして書類を見てる太陽君がいた。
しばらく注文した商品を待ちながら見る。
なかなか見れない感じを楽しんだ。
思わず笑顔になって、それでもあんまり見てたからか、ふいに視線をあげられて、気が付かれた。
手をあげられて書類をしまう手。
もう、別にいいのに。どうぞどうぞ。
笑顔で待ってる。
さっきとはまた違うじゃない。
「お疲れ様、悠里さん。」
「お疲れ様。仕事大丈夫だったの?」
「うん、最初から外回りの予定だったし、結構早めに終わって、ゆっくり時間をつぶしてから帰って来たよ。」
「ふ~ん、たまにはいいね、そういうの。」
「急ぎじゃなきゃ直帰します。営業もそんな感じの日があっていいんです。」
「そう、すごく真剣な顔して書類見てたから、ビックリしたけど。」
「一応仕事のことを考えてたから。」
「手はどう?」
「すっかり、元通り・・・・色だけの名残があるけど、別に記念に残しておいていいくらい。」
「病院の人に怒られた記念?」
「またとぼけてる?そんなこんなでこうなった記念です。」
・・・・そうですか。
「家で飲もう。」
まるでお酒でも飲もうと誘うように、そう言って、荷物を持たれて歩き出された。
大分待っていたのかもしれない。
大きなサイズなのにコーヒーは空だったらしく、カップを片付けて、先に店を出る太陽君。
自分のコーヒーだけを持って後について行く。
「やっぱり待たせたよね。すっかり飲み干してたんでしょう?」
「30分くらい。歩き回ってたからちょっと休憩にもなったよ。」
「先に帰ってても良かったのに。一人で行けるよ。」
「もう、だから、それじゃあ、一緒に帰った感じがないじゃない。」
そこまで約束にこだわるの?
「もしかと思うけど、大好きな人を待つドキドキなんて、少しも知らない・・・とか言わないよね。」
「・・・・知ってます。」
「良かった。だから待つのもいいじゃない?」
はい。
スーパーに寄って端から見ていき、いろんなものをかごに詰めて膨らんだ袋をひとつづつ持って部屋に戻った。本当に手は大丈夫みたい。
それでもコーヒーを飲みきったら自分のバッグも持てるから、そう言ってベンチに座ろうとしたら怒られて。
本気で怒られた気がしてムッとした。
せっかく良かれと思って言ってみたのに。
手の中でまだタプタプと揺れるコーヒー。
小さいサイズにはしたけど、いい加減には持てない。
せめてミルクを入れて温度を下げれば急いで飲めたかもしれない。
手にはコーヒー、もう片手にはパンパンのスーパーの袋。
やけ食いを超えた量だけど、どんだけお腹空いてるんだろう?
部屋に着いて食料品をそれぞれ冷蔵庫にしまう。
私が持っていたのは冷蔵などの必要のない物、常温保存のもの。
「その辺に置いてて。」
そう言われて、その辺に置いた。
ひとりソファに座りコーヒーを飲む。
残念、ちょっと冷めた。
しまい終わり、満足そうに手をはたく太陽君を見る。
顔をあげると目が合って。
こっちに来られた。
「お疲れ様。手は本当に大丈夫みたいね。」
「気合が違うから。」
「殴る前には想像力が欲しかったね。」
チクリと嫌味を言う。
コーヒーは冷めてしまったし、なんだかたしなめられたり、怒られたりしたから、反撃した。
「そんな事言うの?」
ドスンとソファに腰を下ろしてコーヒーを取り上げられた。
ジッと視線を合わせられた目が真剣で。
「すみませんでした。」
負けてしまった。謝った。正解だっただろうか?
「もう、早くここに帰って来たかったのに、のんびりコーヒー飲もうとするし。」
そんなに時間かけて飲まないから。ゴクゴクッと飲んで、ポイッと捨てて、行こうってなるのに。
「悠里さん、今週どこか行こうって言ったけど、あれ無しにしていい?今週まで自宅安静で。」
「どうかした?」
「した。」
さっきまで見事な回復ぶりを見せていた手を見る。
痣は残ってるけど、動きは問題ないらしいし。
他に何か?
「コウシがうるさい。負けたくない。」
そう言って抱きしめられた。
「何?」
「今週はずっとこうしてたい。」
だから、お出かけ無し?
絶対わざとだから。コウシのアホに乗せられてどうするの?
分かってるだろうに。
大人しく過ごした、安静とは違ったけど。
ただの外出禁止、足止めのような状態で。
それでも利き手が使えて、満足したらしい。
・・・でも、私の反応を見て満足したと繰り返すのは止めて欲しい。
スーパーの袋二つ分を消費するのにも参加した。
休めたんだか、休めてないんだかわからない週末を過ごした。
すごく頑張ってるのに、終わらない。
あと一時間。
う~ん、確実に1時間くらい余分にかかる。
トイレに行くふりをして、・・・・実際に行ったけど、個室でメッセージを送る。
何故かいつもこっそりと。
誰にバレたくないのか、こっそりと。
『一時間くらい残業予定。頑張りますが、どうしようか?』
レストランを予約しようと思ったのに、それはいいと言われて。
数件のレストランを探して聞いてみたのに、どこも予約してない。
快気祝い。
むしろ残業があるなら時間が間に合わなかっただろう、結局良かった。
社食で見かけたから社内にいるとは思ってた。
しばらくしたら返事が来て、出先から直帰すると言われた。
最寄り駅のコーヒー屋で待ち合わせする予定に変更。
ちょっとの距離だけど、一緒に帰れる約束は守れた感じ。
ガッカリしたけど、とりあえず急いで仕事を終わらせよう。
席に戻って集中した。
まあまあ予定通りに会社を出た。
駅のコーヒー屋で探すと真面目な顔をして書類を見てる太陽君がいた。
しばらく注文した商品を待ちながら見る。
なかなか見れない感じを楽しんだ。
思わず笑顔になって、それでもあんまり見てたからか、ふいに視線をあげられて、気が付かれた。
手をあげられて書類をしまう手。
もう、別にいいのに。どうぞどうぞ。
笑顔で待ってる。
さっきとはまた違うじゃない。
「お疲れ様、悠里さん。」
「お疲れ様。仕事大丈夫だったの?」
「うん、最初から外回りの予定だったし、結構早めに終わって、ゆっくり時間をつぶしてから帰って来たよ。」
「ふ~ん、たまにはいいね、そういうの。」
「急ぎじゃなきゃ直帰します。営業もそんな感じの日があっていいんです。」
「そう、すごく真剣な顔して書類見てたから、ビックリしたけど。」
「一応仕事のことを考えてたから。」
「手はどう?」
「すっかり、元通り・・・・色だけの名残があるけど、別に記念に残しておいていいくらい。」
「病院の人に怒られた記念?」
「またとぼけてる?そんなこんなでこうなった記念です。」
・・・・そうですか。
「家で飲もう。」
まるでお酒でも飲もうと誘うように、そう言って、荷物を持たれて歩き出された。
大分待っていたのかもしれない。
大きなサイズなのにコーヒーは空だったらしく、カップを片付けて、先に店を出る太陽君。
自分のコーヒーだけを持って後について行く。
「やっぱり待たせたよね。すっかり飲み干してたんでしょう?」
「30分くらい。歩き回ってたからちょっと休憩にもなったよ。」
「先に帰ってても良かったのに。一人で行けるよ。」
「もう、だから、それじゃあ、一緒に帰った感じがないじゃない。」
そこまで約束にこだわるの?
「もしかと思うけど、大好きな人を待つドキドキなんて、少しも知らない・・・とか言わないよね。」
「・・・・知ってます。」
「良かった。だから待つのもいいじゃない?」
はい。
スーパーに寄って端から見ていき、いろんなものをかごに詰めて膨らんだ袋をひとつづつ持って部屋に戻った。本当に手は大丈夫みたい。
それでもコーヒーを飲みきったら自分のバッグも持てるから、そう言ってベンチに座ろうとしたら怒られて。
本気で怒られた気がしてムッとした。
せっかく良かれと思って言ってみたのに。
手の中でまだタプタプと揺れるコーヒー。
小さいサイズにはしたけど、いい加減には持てない。
せめてミルクを入れて温度を下げれば急いで飲めたかもしれない。
手にはコーヒー、もう片手にはパンパンのスーパーの袋。
やけ食いを超えた量だけど、どんだけお腹空いてるんだろう?
部屋に着いて食料品をそれぞれ冷蔵庫にしまう。
私が持っていたのは冷蔵などの必要のない物、常温保存のもの。
「その辺に置いてて。」
そう言われて、その辺に置いた。
ひとりソファに座りコーヒーを飲む。
残念、ちょっと冷めた。
しまい終わり、満足そうに手をはたく太陽君を見る。
顔をあげると目が合って。
こっちに来られた。
「お疲れ様。手は本当に大丈夫みたいね。」
「気合が違うから。」
「殴る前には想像力が欲しかったね。」
チクリと嫌味を言う。
コーヒーは冷めてしまったし、なんだかたしなめられたり、怒られたりしたから、反撃した。
「そんな事言うの?」
ドスンとソファに腰を下ろしてコーヒーを取り上げられた。
ジッと視線を合わせられた目が真剣で。
「すみませんでした。」
負けてしまった。謝った。正解だっただろうか?
「もう、早くここに帰って来たかったのに、のんびりコーヒー飲もうとするし。」
そんなに時間かけて飲まないから。ゴクゴクッと飲んで、ポイッと捨てて、行こうってなるのに。
「悠里さん、今週どこか行こうって言ったけど、あれ無しにしていい?今週まで自宅安静で。」
「どうかした?」
「した。」
さっきまで見事な回復ぶりを見せていた手を見る。
痣は残ってるけど、動きは問題ないらしいし。
他に何か?
「コウシがうるさい。負けたくない。」
そう言って抱きしめられた。
「何?」
「今週はずっとこうしてたい。」
だから、お出かけ無し?
絶対わざとだから。コウシのアホに乗せられてどうするの?
分かってるだろうに。
大人しく過ごした、安静とは違ったけど。
ただの外出禁止、足止めのような状態で。
それでも利き手が使えて、満足したらしい。
・・・でも、私の反応を見て満足したと繰り返すのは止めて欲しい。
スーパーの袋二つ分を消費するのにも参加した。
休めたんだか、休めてないんだかわからない週末を過ごした。
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