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6 友達で先輩後輩で、そんなふたりで。
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結局月曜日の朝まで携帯は電源を落としたまま。
すっかり忘れてもいた。
仕事していても、いつものように変わりなく。
遠くの席から様子をうかがう視線がある気がする。
仕事には集中する方だから。
そっちは見ない。
仕事は広告関係。
そう言うとかっこいいが、地元密着のシルクスクリーン他、印刷を請け負う会社だった。
研修で見たことしかないが大きな印刷機がある。
そのついでにいろんな広告媒体の印刷も請け負うし、ネット上のサイト作成から管理、社内報や各種挨拶状、名刺などいろいろ印刷物関係も請け負っている。
太陽君もコウシも営業の男の子だ。
人当たりがいいとか腰が低いとか、軽妙とか。
それぞれのやり方で頑張っているのだろう。
私もひよりも総務にいる。
営業と経理をつなぐし、備品の準備もするし、営業の手伝いもするし、来客の案内もするし。
いろいろだ。
おかげで一応スーツ出勤となっている。
社内だからとブーツは脱いでもサンダルにはなれない。
ジャケットもボタンは外しても一応着たまま仕事をしている。
夏でも冷房がきついから特に困らない社内。
そうなのだ夏が嫌いなのだ。
理由は明らかだ、薄着の季節だからだ。
絶対過剰に意識してると思わないでもないが、自分でも通勤電車でさりげなく周囲を見ると。
やっぱり圧倒的に平均以下は少ない気がする。
夏なんか嫌いだ。
海なんて行かない。
外でキャミソール姿をさらすなんてとんでもない。
屋内冷房ガンガンのところで羽織ものをきちんと羽織ってこその安心感。
梅雨が終われば今年も夏がやってくる。
あと少しでやってくる。
しばらく社食に通うことは止めた。
何も聞いて来ないひより、うっすらとしていただろう期待は諦めたらしい。
きっとコウシには報告がいっただろうから、ひよりも聞いたんだろう。
さほど落ち込んではいない。
ただ社食で顔を合わせるのを避けたいだけ。
申し訳ない気持ちがいっぱいだし。
朝、コンビニで何か買ってきてお昼は休憩室でササっと食べて。
あとは自分の席で雑誌を見たりしてのんびりしたりする。
来客も昼にはないからいいのだ。
電話当番は数日に一度まわってくる。
その時は本当にデスクで大人しくして滅多に鳴らない電話を待つ。
それ以外はたいてい社食か外に行く人がほとんどでガランとして静かなのだ。
当然ひよりが電話当番の日もあって。
さすがにその日は話を聞かれた。
「ねえ、本当にダメなの?」
本当とか嘘とかありません。無理なんです。
「だって凄くいい感じだったのに。太陽君からバンバン出てたのに、悠里が気が付いてないとは思ってたけど。」
「知らない。だってひよりとコウシの為にって、これでもいろいろ我慢して付き合ってたのに。」
「我慢って・・・・・。悠里は嫌いなタイプかもしれないけど。」
おっぱい至上主義は死滅しろと思ってる。
「コウシもがっかりしてた。絶対大丈夫だって随分言ったらしいし。」
「そんなの勝手に言われても。」
「絶対無理してるよね、だって絶対つまらなそうじゃない。会う予定もなくなって寂しいでしょう?」
「別に、前に戻っただけ。これが普通だったから。」
「そんな毎日寂しそうって顔をしてるのに?」
「だからそれがもとの顔。私がつまんなそうにしてたらひよりもコウシも楽しくないでしょう。だから頑張ったんだってば。」
「・・・・もう。意地っぱり。」
「違うって。」
そう言ってもひよりは少しも信じてない顔をしてる。
休憩時間は終わった。解放された。
いつも通りです。
そう思いながらいつものように仕事をする。
梅雨はあけて、夏。
小さいながらも自社ビル。
その屋上からは花火がよく見えた・・・。
残念ながら過去形。
周りに大きなビルが建ち、毎年どんどん見える花火が部分的になり。
去年は大きな打ち上げ花火なら見れたけど時計の八時~三時四時くらい。
完全な円ではなかった。
それでも屋上でバーべキューをやりながら、ビールを飲みながら、煙に巻かれながら、花火を時々見ながら。
社員のフリー参加の行事の一つだった。
当然いろいろと準備は必要で。
社内掲示板に張り出す案内、社長役員などのお偉方にはご案内を封書にして。
あとは道具の点検と、炭などの燃料や食料アルコールの調達。
それには当然当日の下ごしらえも含まれる。
そして一応近隣にその日煙が出ることを伝える。
女子社員は仕込みがあるので前半の準備に駆り出され、後半の終わった後の片づけは男性社員。
ざっくりそう分けても、酔っぱらった社員はそのままでお開きにしてしまい、翌週片付けるのは自分たち女子社員なのだ。
お偉方のポケットマネーとお酒の寄付(見込み)と経理から予算をもらい。
その日のために数日の数時間を過ごす。
それでもなかなか参加率はいい。
なんだかんだ宴会が好きな人が多いのだ。
ほとんどの食料とアルコールがきれいになくなる。
約三時間のリラックスタイム。
今回は途中で帰りたい。
どうせ月曜日に片付けるならいいよね。
そして当日。
季節はすっかり夏。
天気も夜まで全く問題ないらしい。
お肉や野菜が届くように手配して、届いたら仕事を切り上げて下ごしらえして冷蔵庫に入れておく。
この日のために冷蔵庫を開けておくように通知する紙を冷蔵庫に張り出しておいた。
当然始まる少し前に屋上に運び、火をおこし、焼き始めておく。
匂いにつられたのか、食べごろになると人が来る。
大きなテーブルに食材とお酒を置いて取りやすいようにしておく。
焼き網は全部で5つ。
人が集まったばかりの花火前にはどんどんなくなる肉野菜。
ガンガンと自分の担当の網に乗せて焼き、焼けたものを網の端っこに。
何回転かして、後はご自由に各自でと役目を終える。
終了。
ひよりとお疲れと言い合う。
コウシがいるのは分かってた。ひよりは行きたいだろう。
残念ながら私は仕事が残っている。
終わらなかったのだ。
別に途中で帰るつもりだったからいいのだが。
ひよりには言ってある。
席に戻って仕事の続きをしようと思った。
手をかけて引いたドア。
下にいる人の声が聞こえてきた。
「ねえ、太陽君、終わったら一緒に飲みに行かない?」
明るく誘う声。
構えるでもない、サラッと誘う声。
断られるなんて思ってもない声。
「ああ、大丈夫かな?」
そう答える声も聞こえた。
「じゃあ、あとでね。バイバイ。」
そう言って階段を上がってくるヒールの音。
1人分。
非常ドアが閉まる音もしたので太陽君は廊下に行ったみたいだ。
ゆっくりドアを全開にして、知らない振りで階段を降りる。
暗い階段の明かりの中でもうれしそうな表情が見れた。
きれいな子だった。
そう、週末だから。
そんな事は社内でも社外でも、ここでもどこでも起こる。
ひとり自分の席に行き仕事の残りを猛烈な勢いでやり終えた。
「終わり~。」
背伸びをして帰り支度をする。
バッグを持ってエレベーターを待つ。
廊下の端にある非常ドアを見つめる。
週末の夜、いろんな人が交わす約束。
その一つをたまたま聞いただけ。
だってひよりもきっと一緒に帰るだろうし。
あれから一度も四人では会ってない。当たり前だ。
もう四人である必要はない。
もしかしなくても私のせいかも・・・とも思うけど。
それとも違う人を入れた四人なら集まってるとか?
会社を出てまっすぐ帰る気にもならずに、大好きなところに寄ろうと思った。
気分転換をしたい時に立ち寄ってぼんやりするお気に入りスポットがいくつかある。
一番落ち着くのは自分の部屋だけど、それでも一人で部屋にいたくない時に行く場所。
会社からはちょっと遠いけど。
あえて何も考えずに電車に乗り揺られる。
目的の駅で降りて、エレベーターで二階に行く。
円形にデザインされた通路。
有名な場所だけど知ってる人は少ないかも。
眼下には多くの人が行きかうのが見える。
見上げて写真を撮る人もいるのに、ほとんど気づかれない。
今は閉まってるお店の待合テーブルがあり、そこに荷物を置いて座る。
ぼんやりして天井を眺めたり、眼下の人の流れを見たり。
奥にはレストランがあるから待ち合わせと思ってくれるかも。
時々人が横を通り過ぎる。
なぜか立ち止まった人。
「悠里先輩、1人なんですか?」
ビックリして顔をあげた。
何でここにいるの?
今頃は飲みに行ってる頃なのに。
それに偶然・・・・?
「仕事をしてたんです。終わって屋上に行こうとしたらエレベーター前にいるのが見えたから。」
だからついてきたと?
今頃あの子は探してるんじゃない?
そのポケットの携帯に連絡あるかもよ。
「お邪魔します。」
荷物を置いて向かいの席に座った。
自分のバッグをずらしてテーブルのスペースを空ける。
「いつも一緒に遊びに行っても一人で途中下車してましたよね。そんな時、誰かに会ってるのかなって思ってました。もしかして一人でこんなところに来てたんですか?」
・・・・そうです。
ぎゅっと濃縮されて楽しんだ時間のまま部屋に帰るのは嫌で、勝手に途中で別れていた。
心では答えてもさっきから何も声には出てない。
「久しぶりですね。元気でしたか?」
さすがに顔をあげた。
懐かしいとすら思える笑顔があった。
「久しぶりだね。元気だよ。」
「あれから・・・やっぱり無理なままですか?少しは考えてくれたりしましたか?それとも全然ですか?」
「やっぱり、それは無理なの。」
「変わらないんですね。ひよりさんにもコウシにも謝られました。自分も読み間違ってたから別にいいのに。」
それにどう返事しろというのか。
「人の気持ちは・・・・しょうがないです。だから、諦めましたっ。」
スッキリした顔で言われた。
本当に明るい顔で。
「・・・・ごめんなさい。ありがとう。」
また傷つけただろうか?胸の奥がぎゅっとなる。
痛みは自分でも感じてる。
ごめんなさい。
でも今日誘ってくれた人もいるから、大丈夫でしょう?
「じゃあ、いいです。後輩の友達でいいですから。こんなところでぼうっとするくらいなら飲みに行きましょう。愚痴でも何でも聞きますよ。」
何でそうなるの?
立ち上がって二人分の荷物を持って歩き出す太陽君。
「待って、なんで・・・・。」
「だって今まで通りです。後輩の友達の一人です。とりあえず今日は・・・花火大会の準備の打ち上げです。お疲れさまでした。」
さっきと同じ笑顔でこっちを向いて誘う。
バッグの中にすべてが入ってる。
それを持たれたら行くしかないじゃない。
「ちょっとだけしか付き合えない。」
「分かってます。行きますよ。」
そう言って歩き出した太陽君の後をついて行く。
すっかり忘れてもいた。
仕事していても、いつものように変わりなく。
遠くの席から様子をうかがう視線がある気がする。
仕事には集中する方だから。
そっちは見ない。
仕事は広告関係。
そう言うとかっこいいが、地元密着のシルクスクリーン他、印刷を請け負う会社だった。
研修で見たことしかないが大きな印刷機がある。
そのついでにいろんな広告媒体の印刷も請け負うし、ネット上のサイト作成から管理、社内報や各種挨拶状、名刺などいろいろ印刷物関係も請け負っている。
太陽君もコウシも営業の男の子だ。
人当たりがいいとか腰が低いとか、軽妙とか。
それぞれのやり方で頑張っているのだろう。
私もひよりも総務にいる。
営業と経理をつなぐし、備品の準備もするし、営業の手伝いもするし、来客の案内もするし。
いろいろだ。
おかげで一応スーツ出勤となっている。
社内だからとブーツは脱いでもサンダルにはなれない。
ジャケットもボタンは外しても一応着たまま仕事をしている。
夏でも冷房がきついから特に困らない社内。
そうなのだ夏が嫌いなのだ。
理由は明らかだ、薄着の季節だからだ。
絶対過剰に意識してると思わないでもないが、自分でも通勤電車でさりげなく周囲を見ると。
やっぱり圧倒的に平均以下は少ない気がする。
夏なんか嫌いだ。
海なんて行かない。
外でキャミソール姿をさらすなんてとんでもない。
屋内冷房ガンガンのところで羽織ものをきちんと羽織ってこその安心感。
梅雨が終われば今年も夏がやってくる。
あと少しでやってくる。
しばらく社食に通うことは止めた。
何も聞いて来ないひより、うっすらとしていただろう期待は諦めたらしい。
きっとコウシには報告がいっただろうから、ひよりも聞いたんだろう。
さほど落ち込んではいない。
ただ社食で顔を合わせるのを避けたいだけ。
申し訳ない気持ちがいっぱいだし。
朝、コンビニで何か買ってきてお昼は休憩室でササっと食べて。
あとは自分の席で雑誌を見たりしてのんびりしたりする。
来客も昼にはないからいいのだ。
電話当番は数日に一度まわってくる。
その時は本当にデスクで大人しくして滅多に鳴らない電話を待つ。
それ以外はたいてい社食か外に行く人がほとんどでガランとして静かなのだ。
当然ひよりが電話当番の日もあって。
さすがにその日は話を聞かれた。
「ねえ、本当にダメなの?」
本当とか嘘とかありません。無理なんです。
「だって凄くいい感じだったのに。太陽君からバンバン出てたのに、悠里が気が付いてないとは思ってたけど。」
「知らない。だってひよりとコウシの為にって、これでもいろいろ我慢して付き合ってたのに。」
「我慢って・・・・・。悠里は嫌いなタイプかもしれないけど。」
おっぱい至上主義は死滅しろと思ってる。
「コウシもがっかりしてた。絶対大丈夫だって随分言ったらしいし。」
「そんなの勝手に言われても。」
「絶対無理してるよね、だって絶対つまらなそうじゃない。会う予定もなくなって寂しいでしょう?」
「別に、前に戻っただけ。これが普通だったから。」
「そんな毎日寂しそうって顔をしてるのに?」
「だからそれがもとの顔。私がつまんなそうにしてたらひよりもコウシも楽しくないでしょう。だから頑張ったんだってば。」
「・・・・もう。意地っぱり。」
「違うって。」
そう言ってもひよりは少しも信じてない顔をしてる。
休憩時間は終わった。解放された。
いつも通りです。
そう思いながらいつものように仕事をする。
梅雨はあけて、夏。
小さいながらも自社ビル。
その屋上からは花火がよく見えた・・・。
残念ながら過去形。
周りに大きなビルが建ち、毎年どんどん見える花火が部分的になり。
去年は大きな打ち上げ花火なら見れたけど時計の八時~三時四時くらい。
完全な円ではなかった。
それでも屋上でバーべキューをやりながら、ビールを飲みながら、煙に巻かれながら、花火を時々見ながら。
社員のフリー参加の行事の一つだった。
当然いろいろと準備は必要で。
社内掲示板に張り出す案内、社長役員などのお偉方にはご案内を封書にして。
あとは道具の点検と、炭などの燃料や食料アルコールの調達。
それには当然当日の下ごしらえも含まれる。
そして一応近隣にその日煙が出ることを伝える。
女子社員は仕込みがあるので前半の準備に駆り出され、後半の終わった後の片づけは男性社員。
ざっくりそう分けても、酔っぱらった社員はそのままでお開きにしてしまい、翌週片付けるのは自分たち女子社員なのだ。
お偉方のポケットマネーとお酒の寄付(見込み)と経理から予算をもらい。
その日のために数日の数時間を過ごす。
それでもなかなか参加率はいい。
なんだかんだ宴会が好きな人が多いのだ。
ほとんどの食料とアルコールがきれいになくなる。
約三時間のリラックスタイム。
今回は途中で帰りたい。
どうせ月曜日に片付けるならいいよね。
そして当日。
季節はすっかり夏。
天気も夜まで全く問題ないらしい。
お肉や野菜が届くように手配して、届いたら仕事を切り上げて下ごしらえして冷蔵庫に入れておく。
この日のために冷蔵庫を開けておくように通知する紙を冷蔵庫に張り出しておいた。
当然始まる少し前に屋上に運び、火をおこし、焼き始めておく。
匂いにつられたのか、食べごろになると人が来る。
大きなテーブルに食材とお酒を置いて取りやすいようにしておく。
焼き網は全部で5つ。
人が集まったばかりの花火前にはどんどんなくなる肉野菜。
ガンガンと自分の担当の網に乗せて焼き、焼けたものを網の端っこに。
何回転かして、後はご自由に各自でと役目を終える。
終了。
ひよりとお疲れと言い合う。
コウシがいるのは分かってた。ひよりは行きたいだろう。
残念ながら私は仕事が残っている。
終わらなかったのだ。
別に途中で帰るつもりだったからいいのだが。
ひよりには言ってある。
席に戻って仕事の続きをしようと思った。
手をかけて引いたドア。
下にいる人の声が聞こえてきた。
「ねえ、太陽君、終わったら一緒に飲みに行かない?」
明るく誘う声。
構えるでもない、サラッと誘う声。
断られるなんて思ってもない声。
「ああ、大丈夫かな?」
そう答える声も聞こえた。
「じゃあ、あとでね。バイバイ。」
そう言って階段を上がってくるヒールの音。
1人分。
非常ドアが閉まる音もしたので太陽君は廊下に行ったみたいだ。
ゆっくりドアを全開にして、知らない振りで階段を降りる。
暗い階段の明かりの中でもうれしそうな表情が見れた。
きれいな子だった。
そう、週末だから。
そんな事は社内でも社外でも、ここでもどこでも起こる。
ひとり自分の席に行き仕事の残りを猛烈な勢いでやり終えた。
「終わり~。」
背伸びをして帰り支度をする。
バッグを持ってエレベーターを待つ。
廊下の端にある非常ドアを見つめる。
週末の夜、いろんな人が交わす約束。
その一つをたまたま聞いただけ。
だってひよりもきっと一緒に帰るだろうし。
あれから一度も四人では会ってない。当たり前だ。
もう四人である必要はない。
もしかしなくても私のせいかも・・・とも思うけど。
それとも違う人を入れた四人なら集まってるとか?
会社を出てまっすぐ帰る気にもならずに、大好きなところに寄ろうと思った。
気分転換をしたい時に立ち寄ってぼんやりするお気に入りスポットがいくつかある。
一番落ち着くのは自分の部屋だけど、それでも一人で部屋にいたくない時に行く場所。
会社からはちょっと遠いけど。
あえて何も考えずに電車に乗り揺られる。
目的の駅で降りて、エレベーターで二階に行く。
円形にデザインされた通路。
有名な場所だけど知ってる人は少ないかも。
眼下には多くの人が行きかうのが見える。
見上げて写真を撮る人もいるのに、ほとんど気づかれない。
今は閉まってるお店の待合テーブルがあり、そこに荷物を置いて座る。
ぼんやりして天井を眺めたり、眼下の人の流れを見たり。
奥にはレストランがあるから待ち合わせと思ってくれるかも。
時々人が横を通り過ぎる。
なぜか立ち止まった人。
「悠里先輩、1人なんですか?」
ビックリして顔をあげた。
何でここにいるの?
今頃は飲みに行ってる頃なのに。
それに偶然・・・・?
「仕事をしてたんです。終わって屋上に行こうとしたらエレベーター前にいるのが見えたから。」
だからついてきたと?
今頃あの子は探してるんじゃない?
そのポケットの携帯に連絡あるかもよ。
「お邪魔します。」
荷物を置いて向かいの席に座った。
自分のバッグをずらしてテーブルのスペースを空ける。
「いつも一緒に遊びに行っても一人で途中下車してましたよね。そんな時、誰かに会ってるのかなって思ってました。もしかして一人でこんなところに来てたんですか?」
・・・・そうです。
ぎゅっと濃縮されて楽しんだ時間のまま部屋に帰るのは嫌で、勝手に途中で別れていた。
心では答えてもさっきから何も声には出てない。
「久しぶりですね。元気でしたか?」
さすがに顔をあげた。
懐かしいとすら思える笑顔があった。
「久しぶりだね。元気だよ。」
「あれから・・・やっぱり無理なままですか?少しは考えてくれたりしましたか?それとも全然ですか?」
「やっぱり、それは無理なの。」
「変わらないんですね。ひよりさんにもコウシにも謝られました。自分も読み間違ってたから別にいいのに。」
それにどう返事しろというのか。
「人の気持ちは・・・・しょうがないです。だから、諦めましたっ。」
スッキリした顔で言われた。
本当に明るい顔で。
「・・・・ごめんなさい。ありがとう。」
また傷つけただろうか?胸の奥がぎゅっとなる。
痛みは自分でも感じてる。
ごめんなさい。
でも今日誘ってくれた人もいるから、大丈夫でしょう?
「じゃあ、いいです。後輩の友達でいいですから。こんなところでぼうっとするくらいなら飲みに行きましょう。愚痴でも何でも聞きますよ。」
何でそうなるの?
立ち上がって二人分の荷物を持って歩き出す太陽君。
「待って、なんで・・・・。」
「だって今まで通りです。後輩の友達の一人です。とりあえず今日は・・・花火大会の準備の打ち上げです。お疲れさまでした。」
さっきと同じ笑顔でこっちを向いて誘う。
バッグの中にすべてが入ってる。
それを持たれたら行くしかないじゃない。
「ちょっとだけしか付き合えない。」
「分かってます。行きますよ。」
そう言って歩き出した太陽君の後をついて行く。
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