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4 力強い・・・偉そうな態度の味方を得た日~蘇芳

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月曜日の昼休み終わり。
週末の間、ずっと視界の中に携帯をいれていたのに、待っていた連絡は全くなかった。
浮かれて結城には報告したのに。

『やったな。続報を待つ。手にいれたら店に来て、披露してくれ。ちなみに友達はしばらく来てない。』

そんなメッセージも余裕で読んで、一緒に行くイメージも鮮明にできてたのに。


なんてこった、無反応。
最後にもう一度お願いしたのに。

携帯にも登録してもらえてないらしい。
あの名刺は取り出されることさえなかったのだろうか?

そう思いながら過ごして、月曜日も相変わらず視界の中にある携帯。
さすがに仕事中は手にしないが、昼休みの今、自分の手に握られたまま。
一切の機能を停止したように静まり返ってる携帯。
電源は入ってる、二回くらい確かめた。
週末ももっと頻回に確かめた。

ダメなんだろうか、そもそも自分は全然なんだろうか?

そんなところに彼女の先輩、山中さんが来た。

「中馬、金曜日ありがとう。すみれちゃんがすっかり元気になって、お礼を言われたから、教えてあげる。役にたったらしいよ。」

「そうでしょう?やっぱり一家に一台って言うくらいの貴重な僕だからね。」

「そんな量販品の価値で満足ならいいね、身の程を知るって大切。」

「そんな事言って、改めて僕のありがたさが分かったでしょう?存在価値っていうやつだよ。」

山中さんがわざわざお礼を言いに来てくれたらしい。
元気になったらしい。
やっぱり中馬の人徳だろうか?
楽しそうなふたりの会話をぼんやりと聞いていた。
彼女が元気になったという情報は喜ぶべきなのに。

「まあね、一年に一回くらいは出番があるかも。私はハッピーだからいらない。すみれちゃんもしばらくはいらないと思うよ。」

その言葉に中馬がこっちを見た。
すごい勢いで、ぼんやりしてた自分も気がついたくらい。
当然山中さんもつられてこっちを見ただろう。
二人の視線を浴びたらしいと気がついた自分も、はっきりと二人を見た。

何だ?

「蘇芳さん、少しも楽しそうじゃないですが。」

「別に普通だ。」

「彼女から連絡来ないんですか?」


「・・・・誰のことだよ。」

自分の彼女のことなんて話をした事もないが・・・・誰のことを言ってる?

「あの日の彼女です。元気になった棚旗さん。」

三人で見つめ合い、沈黙。

「何でそうなる?」

「さっきから携帯を回してますよね。連絡待ってますよね。棚旗さんからじゃないんですか?」

なんでバレてる・・・・?あの時、見てたのか?聞いてたのか?
動揺したのがバレたらしい。

「対策会議が必要ですか?」

彼女の先輩が言う。
何でだ?
そう言う前に中馬が立って、会議室に行きましょうと歩き出した。

二人が歩き出すのを見ていたら、中馬に声をかけられた。

「何してるんですか、主役がいなくてどうするんですか。」

偉そうに言われた、覚えてろ・・・・・・。

やせ我慢をしてもしょうがない。
結城にも力を借りた、彼女に近い存在の味方は欲しい、正直なりふり構っていられない心境ではある。だから対策会議に参加してもいい、そんな気持ちだったが、二人の表情からは後輩色がうかがえない。

一応立場というものがあると思うのだが・・・・。

「蘇芳さん、誘ったんですよね、飲みに行こうとは誘われましたと、すみれちゃんも言ってましたが。」

「名刺渡してましたよね。もらってましたよね。」

やっぱり中馬は見ていたらしい。
じゃあ、もっとゆっくり帰って来てくれれば良かったのに。
そう言いたいが、二人の視線は『どうなんですか?』と責めるような視線だ。

「挨拶して、名刺を渡した。彼女が行きつけのバーを無くしたことを知ってたから、違うところを教えると誘ってみた。」

「なんでそんなこと知ってるんですか?あの時そんな話したんですか?」

中馬の質問に答える前に、彼女の先輩・・・・山中さんが質問をかぶせてきた。

「それで、連絡は取り合ったんですか?」

「いや。彼女からは無反応だ。登録さえしてもらえてないレベルに。」

「ああ・・・・・。」

一同沈黙。

彼女は中馬のお陰で元気になり、おまけの自分のことには思い至らず。

「蘇芳さんはどういうつもりで誘ったんですか?」

真向正面ストレートに山中さんに聞かれた。

「二人で飲みに行きたいと思ったから誘ったんだけど。」

彼女に告白する前にここで暴露してどうするんだ、恥ずかしい。

「もともとすみれちゃんが大切な人と喧嘩して仲直りできないと落ちこんでたんです。女友達なのか彼氏なのかはあえて聞きませんでしたが、私は彼氏だと思ってます。」

そうだろう、それは知ってる。

「驚かないんですか?」

「ああ、なんとなく元気がないとは思ってたから、何かあったとは思ってた・・・。」

ああ、また自爆。ずっと見てたと暴露したようなものだ。
そんなにずっとということはない。
偶然だ、そして、気がついただけだ。
あとちょっとだけ情報を持っていただけだ。

「じゃあ、あの日より前からすみれちゃんのことを知ってたんですか?」

「そうなんですか?もしかして、それで元気なかったとか言いませんよね?」

中馬が叩かれた、黙れと言うことらしい。

「知ってた。ずっと前から。」

「じゃあ、協力します。名刺に書いたんですよね、もっと詳しい個人情報。」 

「ええ~っ。」

・・・・・・・。

ブツブツと中馬が言い出した。
偶然誘った先輩にまさか大きなチャンスを与えてたとは、と。
何となくそんな事をつぶやいてる。

「私が協力します。」
「ぼ、僕も、もちろん。」

二人を見る。
真剣な顔をしてる。ここはお礼を言うところだろう。

「助かる。ありがとう。」

「中馬、いい人よね?」

今更に山中さんが自分を指して中馬に最終確認。
ちょっと失礼だ、指をさす指とはいえ、そこは普通手の平だろう。

「もちろん。人畜無害。」

今褒めたのか?褒め言葉で使ったのか?
それで合ってるのか?それとも中馬の言葉の選択ミスか?
それは山中さんにはスルーされたらしい。

「話をしてみます。飲み友達から会って欲しいと思ってると。それとも自分で言いますか?」

「連絡をもらえたら自分で言いたい。」

「そうですか。じゃあ、任せてください。でも、本当に忘れるまではどうしようもないです。」

「分かってる。」

不思議な緊張感と連帯感と・・・・・・。

「じゃあ、仕事に戻ります。中馬、最高に役に立つ時だよ。」

「う、うん。凄いね、自分。」

「まあ、そうなるね。認める。また連絡するから。」

「うん。じゃあね。」

対策会議終了。ほぼ自爆の会だった。
それでも心強い味方を得たのだ。

「蘇芳先輩、分かりにくい。最初から僕の隣に来てくれてればよかったのに。」

そうしたかったんだがな。
携帯は手の中にある。ついクルクルと回してるまま。

「仕事に戻ろう。」

「そうですね。きっと連絡ありますよ。山中さんの実力を信じましょう。」


「ああ。」そうだな。


携帯はジャケットのポケットに入れた。
これで仕事中に誰かから連絡来たら、違う人のメッセージにも一喜一憂してしまいそうだから。


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