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8 夜の遅い時間、明日を気にしない二人の過ごし方。
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自分の部屋を見上げる。
まだ・・・いい?
酔いも醒めて付き合ってもいいって思えるかどうか。
せめて4時くらいまで話をしてもいい。
顔は洗うけど、眼鏡でもかけてすっぴんを隠して。
土曜日だからスーツじゃないし、友成はあと数時間そのままでもいいかも。
しょうがない。送ってくれたんだし。
「じゃあ、コーヒーをご馳走します。二度目だし、どうぞ。」
また借りを作ってしまったじゃない。
とりあえず更なる失言には気をつけよう。
部屋で気まずくて数時間なんて状況はとても耐えられない。
なんなら悩みの概略だけでも聞くし。
カウンセリングでもするよ。
部屋でコーヒーをいれて、座って楽にしてもらった。
「ねえ、とりあえず楽なかっこうになって来ていい?顔も洗いたいの。」
「もちろん、どうぞ。」
そりゃそうだ。断る理由もなかったくらいだけど。
楽な部屋着に着替えて、急いで顔を洗って軽く整えて終わりにした。
眼鏡を持ってくるべきだったけど、そのままパソコンデスクに行って眼鏡をかけて、座った。
「お酒もあるよ。ちょっと甘めだけど。」
「飲みたい・・・かな?」
ええっ?意外に遠慮がない。
飲んでどうする?寝るの?タオルケットくらいなら貸してもいい。
いっそ寝てくれるなら・・・私も寝れるのか。
冷蔵庫に歩いて行って、数本持ってくる。
「好きなのをどうぞ。」
並べて見比べて、選んだ一本を開けた友成。
炭酸飲料のプシュッとする音が響く部屋。
つい自分も開けてしまった。
コーヒータイムじゃなくなった。
「あ~あ、5年って結構長いね。男子は本当に残ってるけど、女子はそろそろ減る頃だし。」
「そう?」
「そうだよ。來未だって何かがあれば、そっち組だよ。」
「そっち組って何?」
「結婚して退社まではしなくても、環境が変われば何かが変わるかもしれないじゃない。」
三木さんは辞めろというタイプじゃないし、來未もそんなタイプじゃない。
でもやっぱりわからないじゃない。
両親が元気だから私は変わりないだろう。しばらくは居残り組だ。
「竜胆さんには彼氏自慢された。かっこいいらしいね。」
「うん。29歳の大人で知的でいい人だし、來未はその気もあると思うよ。」
「瀧野さんは?」
「私が何?」
「今彼と、その気は?」
知らないふりをした。
「來未がいなくなったら寂しいなあ。でも・・・・友成がいるから、それで我慢するか。」
「じゃあ、僕がいなくなったら誰に失恋話聞いてもらうの?」
後輩がいるじゃない。かわいい子もいるし。
慰め上手な子がいるかも。
もしかして年下なら喧嘩にならなくてお姉さんっぽい自分でいられるかも。
しょうがないなあって笑って許せるかも・・・・・?って、何の仮定だか。
だいたい失恋するって決めてる失礼な奴め。
こっちも別れの場面が盛り上がらないことだってあるんだから。
最後に言い出したのが向こうでも、こっちでもそんなに落ち込まないこともあるんだから。
あきらかに金沢さんの事を思ってる。
盛り上がらなかった・・・・のか・・・・・?
落ち込まない・・・かもね。だって短すぎた。
「はぁ~。」
甘いお酒の息を吐く。
話題の転換をしたい。
自分の事より友成の事に集中してあげよう。
「たまには私が相談を受ける、愚痴を聞く。いいよ、最近ちょっと元気ないし、何でも聞くよ。いつものお礼にどうぞ。」
そう言って提案してみた。
無理って思われてることでも、誰かに言ってみたいことはあるかもしれない。
「5年たって、どう?」
「何が?仕事の事?」
余りに漠然としてる。
もしかして辞めたいの?実はアニメ会社や関連会社で働きたかったとか?
「いろいろ。」
だからいろいろが広すぎて、答えにくいってば。
「仕事もまあまあだよ。友成も手伝ってくれるから残業もそれなりくらいだし、皆いい人いい子たちだし。別に今はそんなに不満はないよ。」
「じゃあ、それ以外は。」
「別に、普通。」
私は普通。でもそれが友成の普通じゃない事は分かってるけど。
「あんなにため息ついてるのに?」
「最近も楽しそうな浮かれ具合は早々に見えなくなったし、ため息も多いし、ぼんやりもしてるし。」
お前だってぼんやりとは言われてたじゃないか!!
そう言いたい。
ただ、ため息は多かったらしい。
浮かれて見えた時期はすぐに終わったらしい。
その通りだけどね。
「別に私の事はいいよ。まあ、そんな感じ・・・・ため息はうるさくないように気を付けるから。」
友成の相談に乗りたいのに。
「友成は5年たってどうなの?」
手にしたお酒の缶をカコカコと音を立てるようにつぶしてみる。
静かすぎると真剣になり過ぎるし。ちょっとしたBGM代わりに。
「ずっとずっと楽しい事は変わらなくて、それでいいと思ってた。だけど就職して少しづつ変わった方がいいのかなって思うようになって。」
何が?
何を変えた?体重以外気がついてないんだけど・・・ごめん。
「やっと気がついてもらえるくらい変ってきたって、そう言われて。」
あ、誰かが気がついた?良かったじゃない。うれしいよね、うんうん。
それで?
視線で先を促す。
「だからって、自己満足なんだよね。自分が5年かけてやっと変えてきたことも、あんまり意味がなかった。」
「そんなことないよ。もし努力したんだったらそれ込みですごいと思うし、友成だってもしまた違う努力をしようと思った時にできるような気がするでしょう?うまく言えないけど、無駄じゃないし、いい方に変わってきたんだったらそんな自己満足とか言わない方がいいよ。」
なんとか言葉を尽くす。
いつも慰めてもらってるから、言ってほしい言葉は思いつく。
ほら、経験豊富な私は役に立つから。
そう思ったのに、あんまり響いてない?
そんな口先だけな・・・みたいな視線を向けられた。
だって具体的に言われないと、分からないし。
「誰か好きな人いるの?」
初恋?脱二次元の初三次元デビュー?
「いるよ。」
おおおお~、初めて聞いた。
具体的には私も初めて聞いてみたんだから当然だ。
素直に答えてくれた、教えてくれた。是非力になりたい!!
誰だろう?どんな子だろう?何つながりの子だろう?
でも5年間努力してるって、長い片思いなの?
その続きはなくて。
もっと聞いたら教えてくれるの?
あんまり無理な目標だったら私も徒手空拳ってこともあるし。
「本当に気がついてないんだなあって、何でだろうって思ってる。でもそんな位置にいるんだなあって。」
上を向いた友成。泣きそうなの?
ティッシュをそっと引き寄せてテーブルの上に置いた。
胸が痛いよ・・・・・初めてがそんなに実らない希望のない物なんて。
一人は天井を向き、一人はお酒の注意書きをジッと見てる。
誰だろう?
そんなに自分を変えたいって思わせる人に出会ったらしい。
本当に何ていい奴なんだろう。
きっと少しも言い出せてないんだろう。
探るようなこともしてないんだろう。
そのうちに諦めて静かに自分の思いを心の中に閉じ込めていくのかもしれない。
それは何だか寂しい。
「伝えたの?」
「まさか・・・・。」
そうか。
もし振られても後から思い返すと小さな思い出にしかならないけど。
でも繰り返し会うような人だったら、何も伝えない方が良かったりする?
そこは考え方だし、立場もあるだろうし。
「本当に、たまにイライラする。」
結構強く言われた。
そんなとこあったの?
びっくりです。
女の子たちも慰めにならないくらいなの?
「分かってないんだよ。だから平気で・・・・・・人を・・・・・。」
友成がそんなに言うなんて。
だって浮気とかじゃないよ、片思いに気がついてくれないっていうそんな事でしょう?
そう言いたいけど。
言わないと気が付かないよ。そう言っていいのかどうか。
「気がついてないなら、ちゃんと言ってみるっていう手もあるけど。」
控えめな提案として言ってみた。
「じゃあ、どう思う。好きなんだって言われたら、どう思う?」
泣いてはいなかったらしい。
ちょっと目つきが怖いけど。
あんなに優しそうな顔だったのにやっぱり痩せたんだろう、ちょっとシャープな顔形になってきたから。もっと丸顔だったのに、ユルユルした顔だったのに。
「きっとうれしいよ。友成がいい奴だって分かってるし、すごくうれしいよ。」
「そんな言葉は余計に傷つく。優しいって何?愚痴を聞いて失恋を慰めて残業を手伝ってあげて。便利って言葉で使ってるよね。」
はっきり言われたけど、そうじゃない。
何でそう思うの?
「違うよ。だって急いで帰りたい時にも残業手伝えなくてごめんってコーヒー買って来てくれたり、ため息ばっかりで落ち込んでる時にも・・・・。」
本当に優しいのは知ってるから。便利とかっていう意味じゃないのに・・・・。
何で自分のいい所をそう言うのよ。
「そんな気遣いができるいい奴だからって言ってるんだよ。上面じゃないじゃない。この間だって今日だって、遅くなるのに送ってくれたし。信頼できるいい奴だって。愚痴だって思いっきり言ってもちゃんと聞いてくれてるし、これで言いふらしてたりしたらがっかりだけど、うんざりしてるかもしれないけど、それなりに隠してくれてるじゃない。最後はいつも元気になるようなこと言ってくれるし。」
「そんな信頼って何?友達だからでしょう?男でも部屋に一緒にいても別に気にならないって、そんないい奴になりたいわけないじゃない。それに今日だって善意だけじゃないよ。100%の善意ってそんな男はいないよ、やっぱり分かってないんだから。」
「それでも信じてる。」
そう言い切った。
だって全く疑いもしないし、探りもしない。
もしかして喧嘩したら思いっきり今までの事を並べ立てられるの?
そんなに・・・・実は苦痛だったの?
それは・・・・悲しい。
正面を向いてテーブルの缶を見る。
また缶に手を伸ばして暢気なBGMでも鳴らそうと思ったのに。
缶にたどり着く前に腕をつかまれた。
「分かってない。そんなに信頼してるとか、いい奴って言われるたびに、男友達みたいに体を寄せて来るたびに、相手がどう思うか・・・・。」
つかまれた手首に力がこもる、痛い。
それにすごく近い。辛そうな声は囁くようでもあるけど、近くてよく聞こえる。
お酒の息に甘い香りが感じられるくらい。
だってすぐそこにある。
顔が、唇も・・・。
いきなりで焦点がぼやけるくらい近くて、くっつきそうって思ったけど・・・・。
やっぱりくっつかないのは当たり前。
それなのに抱きしめられた。
首元に唇を感じた。
鼻かもしれない。
手首は離されたけど、体を締め上げられるくらいに抱きしめられた。
何?怒ってたんだよね?????
ちょっと、パニック・・・・・・。
どうしたの?
友成、一体どうしたの?
胸が痛い、そんなに初恋デビューが辛いなんて、本当に胸が痛い。
だから無理に振りほどくこともしないでそのままでいた。
すぐに力を抜いたのは分かったと思う。
自分を締め上げる力も少し緩んだ。
ゆっくり手を動かして頭を撫でる。
どうにもならない事はあるよ、そう言ってあげたい。
それくらいは言える。
どんなにいい奴だって、必ず幸せになれるとは限らない。
でもきっと大丈夫だよ。次にまたそんなチャンスは来るから。
ゆっくり頭の手を動かした。
かつてない距離だから友成の匂いもする。
どこまでも安心感が自分を包んでる。
本当にいい奴だから。
言葉には出来ないけど、そんな気持ちは伝えたい。
ゆっくり体が離れたから私も手を離した。
距離はまだ近いまま。
腕を伸ばされて肩に置かれた。
いつもなら私が作る距離感だ。
私はよくやるけど、さすがに友成からされることはなかった。
やっぱりその目は辛そうだった。
まだ・・・いい?
酔いも醒めて付き合ってもいいって思えるかどうか。
せめて4時くらいまで話をしてもいい。
顔は洗うけど、眼鏡でもかけてすっぴんを隠して。
土曜日だからスーツじゃないし、友成はあと数時間そのままでもいいかも。
しょうがない。送ってくれたんだし。
「じゃあ、コーヒーをご馳走します。二度目だし、どうぞ。」
また借りを作ってしまったじゃない。
とりあえず更なる失言には気をつけよう。
部屋で気まずくて数時間なんて状況はとても耐えられない。
なんなら悩みの概略だけでも聞くし。
カウンセリングでもするよ。
部屋でコーヒーをいれて、座って楽にしてもらった。
「ねえ、とりあえず楽なかっこうになって来ていい?顔も洗いたいの。」
「もちろん、どうぞ。」
そりゃそうだ。断る理由もなかったくらいだけど。
楽な部屋着に着替えて、急いで顔を洗って軽く整えて終わりにした。
眼鏡を持ってくるべきだったけど、そのままパソコンデスクに行って眼鏡をかけて、座った。
「お酒もあるよ。ちょっと甘めだけど。」
「飲みたい・・・かな?」
ええっ?意外に遠慮がない。
飲んでどうする?寝るの?タオルケットくらいなら貸してもいい。
いっそ寝てくれるなら・・・私も寝れるのか。
冷蔵庫に歩いて行って、数本持ってくる。
「好きなのをどうぞ。」
並べて見比べて、選んだ一本を開けた友成。
炭酸飲料のプシュッとする音が響く部屋。
つい自分も開けてしまった。
コーヒータイムじゃなくなった。
「あ~あ、5年って結構長いね。男子は本当に残ってるけど、女子はそろそろ減る頃だし。」
「そう?」
「そうだよ。來未だって何かがあれば、そっち組だよ。」
「そっち組って何?」
「結婚して退社まではしなくても、環境が変われば何かが変わるかもしれないじゃない。」
三木さんは辞めろというタイプじゃないし、來未もそんなタイプじゃない。
でもやっぱりわからないじゃない。
両親が元気だから私は変わりないだろう。しばらくは居残り組だ。
「竜胆さんには彼氏自慢された。かっこいいらしいね。」
「うん。29歳の大人で知的でいい人だし、來未はその気もあると思うよ。」
「瀧野さんは?」
「私が何?」
「今彼と、その気は?」
知らないふりをした。
「來未がいなくなったら寂しいなあ。でも・・・・友成がいるから、それで我慢するか。」
「じゃあ、僕がいなくなったら誰に失恋話聞いてもらうの?」
後輩がいるじゃない。かわいい子もいるし。
慰め上手な子がいるかも。
もしかして年下なら喧嘩にならなくてお姉さんっぽい自分でいられるかも。
しょうがないなあって笑って許せるかも・・・・・?って、何の仮定だか。
だいたい失恋するって決めてる失礼な奴め。
こっちも別れの場面が盛り上がらないことだってあるんだから。
最後に言い出したのが向こうでも、こっちでもそんなに落ち込まないこともあるんだから。
あきらかに金沢さんの事を思ってる。
盛り上がらなかった・・・・のか・・・・・?
落ち込まない・・・かもね。だって短すぎた。
「はぁ~。」
甘いお酒の息を吐く。
話題の転換をしたい。
自分の事より友成の事に集中してあげよう。
「たまには私が相談を受ける、愚痴を聞く。いいよ、最近ちょっと元気ないし、何でも聞くよ。いつものお礼にどうぞ。」
そう言って提案してみた。
無理って思われてることでも、誰かに言ってみたいことはあるかもしれない。
「5年たって、どう?」
「何が?仕事の事?」
余りに漠然としてる。
もしかして辞めたいの?実はアニメ会社や関連会社で働きたかったとか?
「いろいろ。」
だからいろいろが広すぎて、答えにくいってば。
「仕事もまあまあだよ。友成も手伝ってくれるから残業もそれなりくらいだし、皆いい人いい子たちだし。別に今はそんなに不満はないよ。」
「じゃあ、それ以外は。」
「別に、普通。」
私は普通。でもそれが友成の普通じゃない事は分かってるけど。
「あんなにため息ついてるのに?」
「最近も楽しそうな浮かれ具合は早々に見えなくなったし、ため息も多いし、ぼんやりもしてるし。」
お前だってぼんやりとは言われてたじゃないか!!
そう言いたい。
ただ、ため息は多かったらしい。
浮かれて見えた時期はすぐに終わったらしい。
その通りだけどね。
「別に私の事はいいよ。まあ、そんな感じ・・・・ため息はうるさくないように気を付けるから。」
友成の相談に乗りたいのに。
「友成は5年たってどうなの?」
手にしたお酒の缶をカコカコと音を立てるようにつぶしてみる。
静かすぎると真剣になり過ぎるし。ちょっとしたBGM代わりに。
「ずっとずっと楽しい事は変わらなくて、それでいいと思ってた。だけど就職して少しづつ変わった方がいいのかなって思うようになって。」
何が?
何を変えた?体重以外気がついてないんだけど・・・ごめん。
「やっと気がついてもらえるくらい変ってきたって、そう言われて。」
あ、誰かが気がついた?良かったじゃない。うれしいよね、うんうん。
それで?
視線で先を促す。
「だからって、自己満足なんだよね。自分が5年かけてやっと変えてきたことも、あんまり意味がなかった。」
「そんなことないよ。もし努力したんだったらそれ込みですごいと思うし、友成だってもしまた違う努力をしようと思った時にできるような気がするでしょう?うまく言えないけど、無駄じゃないし、いい方に変わってきたんだったらそんな自己満足とか言わない方がいいよ。」
なんとか言葉を尽くす。
いつも慰めてもらってるから、言ってほしい言葉は思いつく。
ほら、経験豊富な私は役に立つから。
そう思ったのに、あんまり響いてない?
そんな口先だけな・・・みたいな視線を向けられた。
だって具体的に言われないと、分からないし。
「誰か好きな人いるの?」
初恋?脱二次元の初三次元デビュー?
「いるよ。」
おおおお~、初めて聞いた。
具体的には私も初めて聞いてみたんだから当然だ。
素直に答えてくれた、教えてくれた。是非力になりたい!!
誰だろう?どんな子だろう?何つながりの子だろう?
でも5年間努力してるって、長い片思いなの?
その続きはなくて。
もっと聞いたら教えてくれるの?
あんまり無理な目標だったら私も徒手空拳ってこともあるし。
「本当に気がついてないんだなあって、何でだろうって思ってる。でもそんな位置にいるんだなあって。」
上を向いた友成。泣きそうなの?
ティッシュをそっと引き寄せてテーブルの上に置いた。
胸が痛いよ・・・・・初めてがそんなに実らない希望のない物なんて。
一人は天井を向き、一人はお酒の注意書きをジッと見てる。
誰だろう?
そんなに自分を変えたいって思わせる人に出会ったらしい。
本当に何ていい奴なんだろう。
きっと少しも言い出せてないんだろう。
探るようなこともしてないんだろう。
そのうちに諦めて静かに自分の思いを心の中に閉じ込めていくのかもしれない。
それは何だか寂しい。
「伝えたの?」
「まさか・・・・。」
そうか。
もし振られても後から思い返すと小さな思い出にしかならないけど。
でも繰り返し会うような人だったら、何も伝えない方が良かったりする?
そこは考え方だし、立場もあるだろうし。
「本当に、たまにイライラする。」
結構強く言われた。
そんなとこあったの?
びっくりです。
女の子たちも慰めにならないくらいなの?
「分かってないんだよ。だから平気で・・・・・・人を・・・・・。」
友成がそんなに言うなんて。
だって浮気とかじゃないよ、片思いに気がついてくれないっていうそんな事でしょう?
そう言いたいけど。
言わないと気が付かないよ。そう言っていいのかどうか。
「気がついてないなら、ちゃんと言ってみるっていう手もあるけど。」
控えめな提案として言ってみた。
「じゃあ、どう思う。好きなんだって言われたら、どう思う?」
泣いてはいなかったらしい。
ちょっと目つきが怖いけど。
あんなに優しそうな顔だったのにやっぱり痩せたんだろう、ちょっとシャープな顔形になってきたから。もっと丸顔だったのに、ユルユルした顔だったのに。
「きっとうれしいよ。友成がいい奴だって分かってるし、すごくうれしいよ。」
「そんな言葉は余計に傷つく。優しいって何?愚痴を聞いて失恋を慰めて残業を手伝ってあげて。便利って言葉で使ってるよね。」
はっきり言われたけど、そうじゃない。
何でそう思うの?
「違うよ。だって急いで帰りたい時にも残業手伝えなくてごめんってコーヒー買って来てくれたり、ため息ばっかりで落ち込んでる時にも・・・・。」
本当に優しいのは知ってるから。便利とかっていう意味じゃないのに・・・・。
何で自分のいい所をそう言うのよ。
「そんな気遣いができるいい奴だからって言ってるんだよ。上面じゃないじゃない。この間だって今日だって、遅くなるのに送ってくれたし。信頼できるいい奴だって。愚痴だって思いっきり言ってもちゃんと聞いてくれてるし、これで言いふらしてたりしたらがっかりだけど、うんざりしてるかもしれないけど、それなりに隠してくれてるじゃない。最後はいつも元気になるようなこと言ってくれるし。」
「そんな信頼って何?友達だからでしょう?男でも部屋に一緒にいても別に気にならないって、そんないい奴になりたいわけないじゃない。それに今日だって善意だけじゃないよ。100%の善意ってそんな男はいないよ、やっぱり分かってないんだから。」
「それでも信じてる。」
そう言い切った。
だって全く疑いもしないし、探りもしない。
もしかして喧嘩したら思いっきり今までの事を並べ立てられるの?
そんなに・・・・実は苦痛だったの?
それは・・・・悲しい。
正面を向いてテーブルの缶を見る。
また缶に手を伸ばして暢気なBGMでも鳴らそうと思ったのに。
缶にたどり着く前に腕をつかまれた。
「分かってない。そんなに信頼してるとか、いい奴って言われるたびに、男友達みたいに体を寄せて来るたびに、相手がどう思うか・・・・。」
つかまれた手首に力がこもる、痛い。
それにすごく近い。辛そうな声は囁くようでもあるけど、近くてよく聞こえる。
お酒の息に甘い香りが感じられるくらい。
だってすぐそこにある。
顔が、唇も・・・。
いきなりで焦点がぼやけるくらい近くて、くっつきそうって思ったけど・・・・。
やっぱりくっつかないのは当たり前。
それなのに抱きしめられた。
首元に唇を感じた。
鼻かもしれない。
手首は離されたけど、体を締め上げられるくらいに抱きしめられた。
何?怒ってたんだよね?????
ちょっと、パニック・・・・・・。
どうしたの?
友成、一体どうしたの?
胸が痛い、そんなに初恋デビューが辛いなんて、本当に胸が痛い。
だから無理に振りほどくこともしないでそのままでいた。
すぐに力を抜いたのは分かったと思う。
自分を締め上げる力も少し緩んだ。
ゆっくり手を動かして頭を撫でる。
どうにもならない事はあるよ、そう言ってあげたい。
それくらいは言える。
どんなにいい奴だって、必ず幸せになれるとは限らない。
でもきっと大丈夫だよ。次にまたそんなチャンスは来るから。
ゆっくり頭の手を動かした。
かつてない距離だから友成の匂いもする。
どこまでも安心感が自分を包んでる。
本当にいい奴だから。
言葉には出来ないけど、そんな気持ちは伝えたい。
ゆっくり体が離れたから私も手を離した。
距離はまだ近いまま。
腕を伸ばされて肩に置かれた。
いつもなら私が作る距離感だ。
私はよくやるけど、さすがに友成からされることはなかった。
やっぱりその目は辛そうだった。
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