名もない香りに包まれて。

羽月☆

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6 名もないボトルのまま、私だけの香りになった。

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4番の蓋をあけて、鼻の周りでくるくる回して香りを吸い込んできちっと閉めた。
声が聞こえた、最初の日に試してと言われて、注意までされた声。
『きちんと閉めてね。』
分かってます。

無くなったらまた同じものを作ってくれるんだよね。


人の体温で立ち上る香りもある。
ほうかさんは自分でも気に入った試作品は自分でも使ってると言っていた。
体には使わないと言ったけど、きっとクローゼットの中やボディケア商品や洗濯したものに使ってるのかもしれない。

私がつけてきた4番の香りがかすむくらい。
ここにいて又違う香りをまとった。
それはたぶんほうかさんの自分のための香りだと思う。
確かに男性的な底辺の強い香りだった。
フルーツや花よりも葉にある香り、残る軽い香りは樹木ほど太くはない。
それでもジンとくる底辺の重たさは樹木だろう。

今私の鼻先にあるその香りを吸い込む。

「ほうかさん・・・・。」

「何?」

その声が頭から直接脳に響く。
音も香りもすごく心地いい。
そして触れられてる部分の体温も、もちろん。

ゆっくり距離が出来たのに、もっと小さい部分がくっついた。

ゆっくりキスをされながら体が緩んでいく。

あの日、あの香りにどうしても文句を言いたかったほうかさん。
今ならわかる、全然違う。

だって玲に言われた。

『前の香りの鬱陶しさがなくなっていいじゃない。あんな媚びてる香りよりはずっといいよ。』

そんなに酷かったの?

そこは私が鈍感だったらしい。

もっとちゃんとプレゼントされて名前を付けた香りを身に纏いたいだろうか?
でも今は嗅覚だけじゃ物足りない。

次第に体温が上がって自分の香りも変化してるかもしれない。
そしてほうかさんの香りも。
でも2人がくっつくとその香りも交じり合うし、嗅覚だけを刺激するわけじゃない時間の今、それはどうでもよくなって判断する気も起きない。

背の高い猫背のほうかさんと重なる。
見降ろされて目が合うと、顎が上がる。

その後は目を閉じたから分からない。

繊細な仕事をする人だから、勢い付いた落ち着かなさとは無縁のようで。
自分の体を撫でるように動く手を感じてる。
自分が美術品にでもなったかのように、鑑賞されるようにゆっくり動く手を感じる。

ゆっくり目を開けた。

想像したよりぐっと男っぽい強い視線と目が合った。

「ほうかさん・・・。」

「涼さん、甘い濃い匂いがする。前の香りよりずっと魅力的な香りだから、あんなの必要なかったんだし。」

すぐそこにある唇がそう動く。

「つけてない。もう捨てた。」

「うん。似合わないし、やっぱり合わない。涼さんの香りとは合わない。」


目が合ったまま、そう言われる。

手は腰から胸をゆっくり動いてる。
体の線を確かめるように、軽く撫でるように、さっきからずっと同じ動きだった。


初めて誘われてほうかさんの部屋に来た。

思った通りのシンプルな部屋だった。
仕事部屋も見せてもらったけどそこはたくさんの瓶がきちんと並べられて静かに休んでいた。

すごく整然とした部屋。
ほうかさんのイメージとも合う。

あんなに香りの仕事を楽しんで語るのに、『熱』を感じられない。


リビングのソファの後ろに少しだけ貼られた写真があった。
二人でデートした時に撮った写真だった。
笑顔の自分とほうかさん、そこはぽっと明るい感じだった。

シャワーを借りた後、ソファで話をした。
会話が途切れて、視線を合わせながら、キスを繰り返して。
その時も静かだった。
そんなタイプだと思う。

でも、そろそろ私は我慢できなくて。

体の線をなぞるその大きな手を止めた。


「ほうかさん。」

体の隙間をなくすように両手でほうかさんを引き寄せた。
ピタリとくっついた体にほうかさんの熱を感じる。

自分から足を絡めた。
ほうかさんの腰に手をまわして引き寄せたら思った以上の熱を感じて、一人で声をあげてしまった。

耳元でかすかに笑ったような息遣いを感じた。
余裕があるその態度にちょっとだけイラつく。

目を開けてお返しに耳元にキスをする。
腰から手を離して頭に手を置いて耳元に繰り返しキスをした。
冷たい耳たぶに噛みついて、名前を呼んで。

少しだけ揺れ始めた体に自分の息遣いが荒くなる。

「ゆっくり味わいたいのに。もしかしてせっかちなの?」

そう言われて顔を見られて目が合った。

距離がとられた上半身。
でも腰から下はさっきからずっとくっついてる。

にこりと笑って腰を突き動かされた。

「ああっ・・・・。」

甘く声をあげて背中が反る。

その隙に手を入れられて唇がやっと首から胸に降りてきた。

音を立てるようにキスをされながら時々軽く痛みを感じる。

さっきよりずっと落ち着きなく動く頭に手を添えて目を閉じる。


胸の頂を攻められながら大きな手がゆっくり足に降りてくるのを感じる。

「あつい・・・・。」

体はすっかり熱を持っている。
少しだけ落ち着きがないほうかさんの体にも汗を感じる。

二人の体にかかっていた邪魔な布をはいだ。

キスの音がやんで、代わりに違う音がする。
腰を動かされるたびにかすかにする音は明らかに自分からする。

「んんんぅん。」

声にならない声を鼻から出してほうかさんの腰をもっと引き寄せた。


体を伸ばされていきなりぐるりと回転されて、ほうかさんに抱えられて上になった。
自分の手は離れたけど、代わりにほうかさんの手でしっかり体はくっついた。

足を絡め合い、もっと密着するようにして揺れ動く。

「ああっ。」

声をだしながら自分でも揺れて、それに音が重なる。


「涼さん、好きだよ。初めて見た時から、ずっと。」


あの飲み会の時の空っぽな表情の自分を気に入ってくれたほうかさん。
それは何度も言われた。

「ほうかさん、大好き。」

ちゃんと言葉で答えた、伝えた。

二人の息が荒く競い合うように上がる。
声を出して伝えてる、お互いに。

「ほうかさん・・・・。」

我慢できなくて声をあげた。
今動いてたのはほうかさんで、縋りつくように抱きついてた私。
動きを止められてゆっくり隣に降ろされた。
静かにほうかさんの方を向いて目を閉じていた。

それでも全く動く気配がなくて、息が少し落ち着いた頃に目を開けたら視線が合った。

何?何で?

ゆっくりキスをされた。

その時は目を閉じたけど、また開けた。

お互い暗い中で見つめ合ってる。
何度目を閉じてもその暗さにはすっかり慣れて、お互いの表情は分かる。
目の光も分かる。


「まだ、もっとゆっくりでいいよね。」

勝手にそう決めて止められたらしい。

じっと見上げる私の視線をうけて頬を撫でられた。


「そんな目で見られたら。」


腰を引き寄せられて足を絡め合った。
そのまま太ももを抱えられて見つめ合う。


「少しは我慢してるんだから。」

そう言ってゆっくり腰を撫でられた。
その手はすっかり落ち着いてる。

それでもそんな些細な刺激にも体が反応してしまう。


「ほうかさん。」


何度も名前を呼んでる。

顔が近づいて唇がくっつく。

「涼。」

小さく名前を呼ばれた。

前の人には甘ったるく呼ばれて、それを愛情と勘違いして喜んでいた。
本当にあの香りのように甘くて誰にでも向けていた顔や声で。

今日、丁寧に優しく呼ばれた自分の名前は全く違う響きだった。
何度も呼ばれたけど、小さい声でもそれが最高にうれしい響きだった。

「ほうかさん、お願い。」

大きな声でお願いした。

「大好き。」

自分からキスをして顔を離して、見つめた。

「お願い。」


「もちろん。」

そう言って笑ったほうかさん。

ゆっくり腰の手が動いて、今更だけど私の敏感な部分に沿うように来た。

大きくのけぞるくらい感じてしまう。
すでに敏感になってるから、少し刺激にも反応してしまう。

動く腰をしっかり足でつなぎ留められた。
お互いの汗で滑りそう。

あとはひたすら声をあげて、すぐに達した。


仰向けでゆっくり目を閉じたまま脱力してた。

隣でごそごそとする気配は感じてた。


「最近新しく作ってシャワーの後付けたんだけど、あの四番と合うように考えたんだ。どう?」

ゆっくりほうかさんを見た。

隣で少しだけ上半身を起こしてのぞき込んでくる。
暗い中でも返事を楽しみにしてるのが分かるけど、今聞きたいことなの?

「そんな余裕ない。もっと普通の時に考えます。」


「考えなくてもいいよ。感じて。絶対合うから。」

「そんなカップル用の作品の依頼が来たんですか?」

「ううん、オリジナルで作ってみた。」

仕事への熱意が今は厄介な感じ。
それでもどうしても聞きたいなら答えるしかない。

「ほうかさんがつけてたら自然と私に馴染みます。力強い香りがしてるって思ってました。すごく合うって思いました。」

「でしょう?」

さっきの返事で満足してくれたらしい。

「自信はあったんだ。絶対合うんだから。」

満足そうな声が強い響きになった。
力強く抱き寄せられてキスをされた。
それはビックリするほどさっきまでのゆったりとしたものじゃなくて。

私が言った感想そのもの。
力強く引き付けられて、あっという間につながった。

お互い体が湿って体温を奪い合うんだか、分け合うんだか。
どんどん熱くなる体に、また競い合うように音と声がかぶさる。

ほうかさんの声も聞こえる。

さっきまでとは違う激しさに追いやられるように高みに押し上げられる。

「ほうかさん。」

叫ぶように名前を呼んだ。
掴まれた足が滑らないように一層力を込められた気がした。

少しだけ先に脱力した私に覆いかぶさるように落ちてきたほうかさんが重い。
息苦しい。




気が付いたらタオルケットに包まれて寝ていた。
隣には同じように静かな息遣いで寝てるほうかさん。

こっそりと鼻を寄せて香りを探した。

残念、もう感じない。
薄れてしまったのかもしれない。
それとも交じり合って全く違う香りが二人を包んでるのかもしれない。

夜の始まりに感じた力強い香りは探せなかった。

そう思って少しだけ離れた時にふと鼻先を横切った気がした。


かすかだったけど、私は覚えてる。
オリジナルで作ったというその香り、ほうかさんらしい・・・・と言えばそうだったと言える香り。


「別に夜だけじゃなくてもいいのに。」

つい声に出た。
だってデートの時だってつければいい。
今ほどじゃなくてもくっついているんだから、二つの香りが交じり合って新しい香りになってるかもしれない。

食事の香りには負けちゃうかもしれないけど、お互いがお互いを感じて、そのうちに二つのブレンドされた香りも覚えると思う。

「そうよね。」

一人で納得して満足した。
明日つけてって言おう。



「何?何か不満があった?」

急に声がした。
香りに集中してたから、起きてたのは知らなかった。


顔をあげたら少しだけ心配そうにのぞき込まれた。
何も言わず見つめ合ってみたけど、なに?とまた聞かれた。

「普通の昼の時間も香りを身につけてください。覚えます。二つの香りが混ざり合った香りも覚えます。」

そう言ったら表情が緩んだかもしれない。
暗がりにそんな変化を見た、軽く息もついてた。

だから明日言うつもりだったんだから、別に今言うことでもなかったんだし。

「何かと思ったら、そんなこと?」

そんな事と言うなら、昨日あの途中に聞かされた私こそそう言いたい!
別に蒸し返しませんが。

「でもすごく合ってると思う。自分で言うとなんだけどね。」

そう言って勝手に判定を下したみたいだ。
それはプロだし、自分が作った二つの香りだし。


「すごく男らしい・・・そんな感じです。」


「それは、何の感想?」


「ほうかさんのつけていた香りの感想です。」

確か昨日もそう言った気がするけど。


お互いにくっつくような距離感で、暗がりの見つめ合ったままの会話。


「香りじゃない方は?どんな感想?」

「香りじゃない方?」

そう聞き返してから気が付いた。

何を言わせたいんだか。毎回彼女に聞いてたの?
変に努力しそうで怖いし、毎回そう聞かれるのも嫌です。

視線を外して俯いた。

目を閉じたときに引き寄せられたのか、まさか自分から寄って行った?
もっと体が近くなった。

「印象だけじゃわからないってことあるよね。勝手にあれが似合うって思ってプレゼントしたけど、そうだね、少し違う印象ももったりして。」

もういいんじゃない。それがとても嫌だったら悲しい結末に、そうじゃなかったら様子を見るということで。
そんなのはお互い様だと思う。
彼氏彼女だけじゃなくて友達付き合いでもそんな事はあるから。

そんなに人は単純じゃない。
恋愛なんて見たい部分を相手に投影して見てるだけ。
それがうまく出来たらご縁が続くこともあるし、そうじゃない場合もある。

ぴったりとくっつくくらいに抱き寄せられて、背中の真ん中を指が滑る。

それだけで体が正直に反応してしまう。

上を向いて漏らした息遣いは隠せない何か。


ゆっくり手が脇の下から腰のラインをなぞるように動く。
上から顔が近づいてきて甘くもれそうな息を飲み込まれる。

音を立てるキスをされ、静かな部屋に消えていく。
それでも次々に音が続くともっと深く息を吸い鼻から声が出る。

体がジッとしてなくて自分が動く音もあるし、ほうかさんが動く音も加わる。


「もっとしたい。まだまだ足りない。」

体を押さえつけられるように上からかぶさってきたほうかさん。


目を開けると上からのぞき込まれた顔が見える。
一層暗がりの影の中だけど目だけは光が見える。

ねえ、ほうかさんだよね?
抑えられる力と拒否できないような光の入った目。


「ほうかさん・・・・・したい。」

「知ってる。そんな顔してる。」

「じゃあ、早く。」

そう言って頬に手を当てて、引き寄せた。


最初から遠慮なしの激しいキスが始まりで、その後も唇も手も忙しく動く。
合間に痛みを感じるけど、それでも自分だって同じことをし返す。

大人しくはない二人。
また違う印象が、私だってそう言いたい。

さっさとつながり抱えられて起こされた。

ベッドの端に座り、ひたすら私の腰を揺らす。

少しだけ腰を浮かしてかぶさるように自分でも動く。

全く声も抑えることなく、本当に感じたままに声を出した。


「涼。」


「ほうかさん・・・・・ほうかさん・・・・。」


自分が立てる音に自分で煽られてる。

「だめだ、そろそろ・・・。」

そう言われて腰をグッと掴まれたまま横に倒された。
ベッドの端に立ったほうかさんに腿を持たれて勢いよく突かれて、我慢できなくて先にいったのは私の方だった。

その後ほうかさんも声をあげて震えて、終わったまま、また倒れこんできた。



「ちょっと・・・・・・休憩。」

息をつきながらそう言われた。

もう、寝たい、疲れた、シャワーも無理。



そのまま目を閉じた。



次の時に目が覚めた時にベッドを斜めに使い二人で抱き合っていた。


そっと顔をあげたら気が付かれた。


「おはよう。よく寝てたね。」

「おはようございます。」

目が合って挨拶はしたけど、また俯いた。

もしかして寝顔を見てたの?
さすがに朝だとわかる。

ずいぶん明るい外の光がカーテンの裾から入ってくる。

頭を撫でられて、熱い息を上の方で感じる。

目を閉じてそれを感じてた。


「声が聞きたい。」

そう言われて、顔をあげたのにまた胸に引き寄せられた。
声も出しづらいけど。

「寝坊しましたか?」

「大丈夫。時間はあるよね?」

今日の予定は決めてない。
昨日の夜泊まりに来る予定だけを二人とも何度も確認し合い、それだけだった。

「ねえ、声が聞きたい。」

また顔をあげたら、思いっきりほうかさんの体がズレて、目の前にほうかさんの顔が来て見つめ合った。

口を開く前に塞がれた。

ますます喋りにくいし、ほうかさんの手が腰のあたりからゆっくり胸に来ると言いたいことは分かった。
分かりにくかったけど分かった。

声じゃないけど口や鼻から漏れる音はある。

二人の香りは完全に混ざり合ってるけど、思ってたのと違うんじゃ無いだろうか?
汗をかいて湿った二人の体、いろんな音に香りに包まれてる。

横になってる私の上からほうかさんがのぞき込んでくる。


「涼、気持ちいい。」

聞かれたのか、ほうかさんの感想なのか分からない。

そんな事あえて聞かなくても分かると思うし。


ほうかさんの腰に巻き付いた自分の足に力を籠める。



「涼、だから・・・。」

漏れてくるほうかさんの声に一層足を絡ませてくっついた。


最後は自分でもちゃんと伝えた。

「大好き・・・ほうかさん・・・気持ちいい。」


シャワーを借りて起きだした。

朝ご飯を無言で食べる二人。お腹空いた。


コーヒーを飲んで一息。

近くにいる二人の間に二つの香りが立ち上る。
ほうかさんもまた付けたみたいだ。
私もまたつけ直した。


「昼は、これでいい。また夜は違う組み合わせでもいいかもしれない。」

耳の後ろに鼻を寄せてそう言う。

今も名前を付けてない四番のボトル。
商品化としても選ばれなかったらしい。
だから私だけの香り。
誰にも教えることはないから。
名前は『私だけの香り、四番。』でもいいかも。


ほうかさんの隣にいる限りそれはなくならない。
私の香りを一番に気に入ってる人、ほうかさんが横にいる限り。




誰ともかぶらない、自分だけのオンリーワンの香りを纏った私をずっと抱きしめててほしい。


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