いつも前を歩いてる振りをしてました。（仮）

３８ 春の日を思ってついつい笑顔になる二人の見るべき未来。

久しぶりに陣野さんのところに行った。

顔を出したら驚かれて、そして笑顔になられた。

「やっとハッピーなパワーを見せてもらえる。」

そう言われた。
・・・・・平林君、バラしたの？

「それは・・・・どういうことでしょうか？」

「ひらりんから全部聞き出したの。だってほら、うちの道場の跡取りからも奪い取ったから。罰として全部まるまるっと吐き出させました。」

何で菅野さんの事もバレてるの？
まあ、きっかけだから、隠せない？
なんだか、一人巻き添えで被害者になって、申し訳ないじゃない。
陣野さんに謝るのも変よね。

「割るでしょう？はいはい。」

さっさとブースに準備された。

珍しく・・・・イライラしない今。
それでも気合を入れてガツッ。
見事に割れた。
大きく深呼吸して、振り向いたら全部見られてたらしくて、満足そうですが？

「良かった。最初からひらりんの気持ちは透けて見えるくらいわかりやすかったのに。まったく気が付かなかったなんて、意外に自分の事には鈍感なのね。本当に優花ちゃんが言った通りだった。」

ん？

「優花が何か？」

「うん、『風花が鈍感だし意地っ張りだから、フォローをお願いします。』って言われてたの。まさか弟子が飛び入りが参加するなんて思わなくて、余計にこんがらがりそうになったけど、なんだか危機感煽ったみたいで、結局捨て牌みたいな扱いで。こっちは大丈夫だから、二人は二人でどうぞ。それをずっと伝えたかったのに、なかなか来てくれなかったから。気にしてたんでしょう？」

そう言われるとそうです。
あと、バレてる気もしてたので来にくかった。
もう一つ、商店街の彼女の存在も。
もろもろでちょっと近寄れなかった。

「なんだか顔が優しくなってる。ひらりんと一緒にいるとそうなると思う。いい子だからね。その子が選んだ風花さんは飛び切りのオンリーワンだから。」

褒められた？

「本当に平林君はいい子です。素直だし、一生懸命だし。」

「素直に一生懸命アピールしてたのに、ことごとくスルーされて、やっと努力が実ったら浮かれ過ぎてるくらい。ハッピーオーラ全開だったから。」

「いつ来たんですか？」

「告白した次の日じゃない？『昨日、やっと風花さんが受け入れてくれましたっ！』って喜びを隠せない顔してやって来たから。」

言葉では言ってないのよね。
でも最終的には言わされたんだろうなあ。

「時々続報を報告にも来てくれる。」

続報？なにそれ？
ちょっとこめかみがヒクッとした。

「デートの報告を、友達のように聞いてあげてます。」

ああ、なるほど。でも口を少し縫い合わせたい。
喋り過ぎ。

「末永くよろしくお願いしたいけどね。」

それは分からないけど。

「とりあえずは、はい。」

「ひらりんは勿論ですって鼻息荒く返事したけど。」

想像できる。

とりあえずここにいても恥ずかしい思いをするだけだ。
お金を払ってニコニコと見送られて後にした。

しばらくして部屋に帰る途中、メッセージが来た。

『風花さん、進さんのところに一人で行ったんですね。もう、今度は一緒に行きましょうよ。』

何でよ。無理。
蕎麦でも食べましょうなんて連れて行かれそうじゃない。
あの子の前で名前を呼ばれたりしたら、私が気まずい。

『そのうちにね。もう、喋り過ぎじゃない？』

『だって聞き上手なんです。うれしくて隠せなくて、いろいろと白状してます、ごめんなさい。』

仕事は終わったのだろうか？

部屋に帰りついて食事の準備をする。

来月からはまた一緒にイベントを担当することになるだろ。
懐かしい動物園のイベント。

春には一緒に花見もできる。
ちょっとうれしい、内緒だけど。・・・あれ、言ったかな？


一緒にいて、あの頃から、どうしても敵わないって思ってた。

自由で裏のない所、本当に素直で正直なところ、一生懸命指導して教育してるつもりでも、最後にはするりとやってしまってるって思ってた。ちょっとだけイライラして瓦を割りに行くのが恒例となっていた。

あの頃の彼氏にも呆れられたくらいに、どうしようもない感情を持て余してた。

あの頃から変わってないような平林君。
少しは成長したけど、あの頃も楽しそうに仕事をしていた。

全部を上手に見ようとして、無駄に考え過ぎていた自分は本当に小さかったのかもしれない。
そうやって否定すると自分が悲しくなるけど、私は私なりのやり方で対応できてると思う。
そんな自分のことも、もっと信頼してあげていいと思えるようになった。
専属の教育係のつもりだったけど、生徒が先生を成長させてくれるパターンもよくある事で。

本当に今は感謝してる。

そばにいてくれることにも素直にお礼を言いたいくらいにうれしい日々。
時々言ってるつもりだけど、伝わってるのかな。

言葉通りに受け取ってくれてると思いたい。





「最近の平林の企画は個性がなくなったよな。」

隣で井口が言う。
手にしてるのはその企画書だろう。
相変わらず部屋でアドバイスしてる・・・・・赤色がないけどそれ以外はあまり前と変わらない。
その点での成長はまだまだ伸び代しかない。

でも・・・・・・ダメ？

井口の書類を取り上げる。

前回も井口担当だったけど・・・・・視線を地蔵に向けたら、相変わらず陽だまりの中で平和な光に包まれてる感じだった。

目を通すと、私が一緒に考えたことがちゃんと文章になってる。
綺麗にまとめ上げられてると思う。

これ以上を求めるなら井口に頼むしかない。


「ダメなの？井口、最近はずっと担当みたいだし、アドバイスしてあげたらいいじゃない。」

「あきらかにきれいにまとめられてるんだよ。絶対誰かの介入があったと思うんだけど。誰だろう。なんだか同じ奴の匂いがする。ずっと同じ奴に手取り足取り丁寧に教わってる気がする。」

ニヤニヤと笑ってこっちを見てるその顔を殴りたくなる。
ちゃんと出来上がってるならいいじゃない。

書類を机に置いて返し、あとは無視した。


「ちょっと打ち合わせに行ってくる。」

そう言って書類を持っていなくなった。
きっと平林君のところだろう。
ああ、警告文を出したい。相手にするなと。


「毎回毎回仕事熱心な二人ね。残業代も出ないのに。」

絢が言う。

本当に余計な仕事をすることになっただけのような気がする。
真面目に仕事してる間、ひとりで大人しくソファにいることにも慣れた。
余りに慣れ過ぎて音も出さず、声も出さず、時間をつぶしてる。


『たまには最初の頃みたいに邪魔してください。』

この間憮然とした顔で言われた。
大人しくしてたのに、何を言うの？

テーブルの向かいに座り直して表情をうかがう。

『まだまだ時間がかかります。』

『分かってる。終わるまで待つけど。』

『それじゃあ、何だか放っとかれてる気分です。たまにはこっちを気にしてください。』

夜食の差し入れのようなものを求めてるのか、肩をマッサージしろと言われてるのか、それとも本当に最初の頃のように邪魔をされたいのか。

パソコンを閉じて顔が近寄って来た。

本当に邪魔をして欲しいらしい。
逃避したいだけなんだろう。
頭が一杯一杯なんだろう。

ちょっと調子に乗って情熱をこめてしまったら、肩を押されて顔を離された。

『本当に邪魔をしたらダメです。まだ終わってないって言ったのに。』

まさかのクレーム、再び。

『邪魔して欲しいって言ったじゃない、そっちが近寄って来たくせに。』

『やり過ぎです。気分転換しすぎて戻ってこれなくなります。』

そう言ってパソコンを開いて仕事を始めた。
放っとかれてるのはこっちなのに。

時々ムカつくことを言う。

優花に愚痴りたいけど、最近は相手にしてくれなくなった。
春には結婚式が待ってる優花。
いろいろと忙しそうで、『年下と戯れてる』姉にかまってる暇はない、そう言われた。


私の中の優花が欠けた部分はいつの頃からかユウキが埋めてくれている。
全然足りない・・・・ってことはない。
ちゃんと補って余りある・・・・、それも当たり前だろう。

心から笑顔いっぱいで見送るつもりだから。

そう、また春がくる。


花が優しく香り、風がその香りを届けてくれる。
私と優花の生まれた季節。
大好きな春。
今年、その季節を一緒に過ごすのはユウキだと思う。

手をつないで、横にいて、一緒に空を見上げて、思いっきり風の香りを味わう。
薄いピンクに色づいた桜の向こうの青空。

本当にいい季節だよね。


そう思って笑顔になる自分が想像できる。

『そうですね。』
優しくも可愛い笑顔で返された。

もう、そんな春の日が簡単に想像できるから。


そんな春の日が本当に待ち遠しい。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｆｉｎ