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27 仕事の合間、空っぽな時間に考えるべき事。

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地蔵部長に呼ばれた。

書類を渡されて担当して欲しいと言われる。

あたらしい企画書だ。
企画者の名前を見ると平林君じゃなかった。

「分かりました。」

小さく息を吐いて回れ右。

何度か一緒に仕事をしたことがある。
企画書を読みながらその人の顔を思い浮かべる。

数枚の企画書。
最後まで目も手も止まることなく、赤く色が入ることも勿論なかった。

片手はずっとクルクルと赤鉛筆が回っていた。
出番もなくそのまま引き出しにしまわれる。


メールを送り担当させてもらうことを告げる。
ミーティングの予定を立ててもらおうと都合のいい日を書いておいた。

この段階で二時間くらいは時間が節約できた気がする。

そういえば平林案件を引いたという話は出ない。
何の企画書も出してない?
・・・・まあ、いいけど。


しばらく他の仕事をしていたら返信が来た。
今日の午後約束をした。


すんなりと進む。これが普通。

ようやく懐かしいペースで仕事ができる。




約束の時間になり押さえておいたカンファレンスルームに入る。

「お疲れ様です。今回は私が担当します。よろしくお願いします。」

前に仕事をしたときに一つ下だと聞いた気がする。

「お疲れ様です。今まで平林を担当して頂いてましたよね。」

「はい。割と多かったです。」

まさか最近はずっと・・・・とは言いたくない。

「ありがとうございました。すっかりお任せしてしまって。今度は一人で頑張ってみるとか言って、何やら唸ってます。」

「そうですか。」

まあ頑張ってくれればいいのでは?

「今回のものもほとんど毎年の焼き直しです。同行など必要ですか?」

「最初は・・・・・・。」

そういえば最初から同行しないパターンもあった。
特にお馴染み恒例の企画書は。

「どうでしょうか?」

聞きなおした。

「大丈夫だと思います。もし途中でも必要がありましたら、自分より去年担当した人のほうが詳しいと思いますけど。」

確かに。しかも去年も私が担当してる。
問題ないのでは?

「分かりました。何かありましたら連絡差し上げます。」

「はい、よろしくお願いします。」

終了。
10分くらい。

部屋を取る必要もなかったくらい。
こういうパターンもある。

そして自分が先方の担当者と打ち合わせをして、去年のデータを引き出して
同じように対応すればおしまい。

早速連絡を取り、担当者につないでもらって打ち合わせの日取りを決めた。
その後去年のデータを探してタブレットに落とす。

さっき電話で話をした担当者さんも去年と同じ。
私は去年から、向こうはここ数年担当してる人。

それじゃあ企画書だけをあげた人の出番もないだろう。


なんだか物足りないくらいの気持ちで。
財布を持って休憩室に行く。
ぼんやりと外を見ながら休憩。

大きな会社じゃない、次々にイベントが舞い込んできて忙しくて、毎日残業!!なんて事もない。
ゆっくり出来るときはゆっくりしたらいい。

財布の中に紙切れが入っていた。
それをぼんやりと午後の陽の中で見つめる。


駅の向こう口にある珈琲店のレシートだった。
よくあるテイクアウトできるチェーン店ではなく、喫茶店に近いお店。
だってコーヒーだって一杯1000円位するのだ。

水曜日、偶然再会して、何故か誘われて、何故かお茶に付き合った。
どうしてだろう。
仕事でもなかな誘われないのに。
打ち合わせでもなければ行くこともないのに。


代休を取った日、陣野さんのところにお礼を言いに行った。
イベント参加という主催者寄りのお礼じゃなくて、優花がとても楽しかったと言ってた事を伝えたくて、あとは内緒にしてくれてた事のお礼もふくめて。
だからわざわざ仕事外の時間を選んだ。

そこで顔を合わせて、うっすら思い出して。
先に帰ったら、後ろから階段を下りてきて、呼び止められた。


駅に帰るのかと聞かれて、背中を押されるように促されて。
陣野さんの道場の人、この間のイベントで手伝いを申し出てくれた人。
邪険には出来ず。
自分は明らかに休日モード。


ご馳走しますと誘われて、せめて会社とは違う出口のほうへお願いした。
高い価格帯の珈琲店を選ばれて、味わうようにコーヒーを飲んで、それなりに話は続いて。
先に会計をしてくれたレシートの裏に名前と電話番号を書いて渡された。

『菅野 雄大』

それを手にしてしばらく見つめた。

「もしよろしかったら、またお会いできませんか?この間、初めて見かけてから声をかけたくて。まさか本当にまた会えるとは思ってませんでした。」

陣野さんに道場を任されているらしい。
ここに来るまでに自己紹介も終って、ここに来てからもさりげなくいろんな情報を引き出されて、教えられて。

きちんと礼節を知る人。
とても丁寧な言葉を聞き取りやすい声で話してくれる。
最初から、おずおずと言う感じなんて微塵もなく、信頼できそうな人だった。

立場が作った人柄かもしれないし、陣野さんが選んだ人だ。
それなりの人だろう。

こんなに堂々と誘われることもない。

こちらの反応をうかがうように、あの・・・と切り出して、何?と聞くと思わず口ごもってしまうような平林君とは違う人種だろう。

別に比較するべきじゃないが、ちょっと思い出したサンプルだった。


答えられずに固まる私に、「急ぎません。」そう付け加えてくれた。

厄介なのは電話番号を登録しただけで相手に連絡が行くこと。
だから携帯にいれることもなく紙切れのまま持っている。
相手もわかってるはずだ、登録してもらえてないということは。
そして私の番号は聞かれたから教えた。
名刺はなかったのでメモに携帯番号を書いて渡した。

でも連絡はない。



「なんか、背中がロス感出してないか?」

後ろから声をかけられて、振り向かなくても誰だかわかってる。
井口だ。
急いで紙切れを財布に戻して手を乗せる。

「何か?」

「いや、クルクルと赤鉛筆回しながら企画書を読んでたけど、全然活躍してなかったから寂しいかなって。」

「別に。それが普通でしょう?」

自分だけだろう、あれを引き出しに持っているのは。


「なあ、先週お前が代休の日にわざわざ平林が袋を届けに来て・・・・。」


受け取った。優花からの焼き菓子、平林君が持って帰ってしまったものの中身。
せっかくだから井口と絢にも一つあげた。

後は持って帰って家で食べている。

「何でだろうな。休みだって知ってたんだろう?あの日じゃなくても良かったのに。」

「何が言いたいの?」

そういえば籠は平林君の部屋にある。
果たしていつ受け取ればいいんだろうか?

「ただ、何でだろうと思ってる。」

「勝手に考えてれば。」

相手をするのも面倒で、コーヒーを飲みきり休憩室を出た。
私の日常に謎なんてそんなにない。
謎をわざわざ作るほど暇なら、勝手にどうぞ。





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