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9 ついつい分かっていても未熟者を前に指導すべき事。

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今日も平林案件から始まる。

名刺を見ながら柊さんの会社のサイトを開く。

会社の経営者として載っている、名刺の通りだ。
もう一人共同経営者がいるらしい。

事業内容を一つづつ見ていく。
聞いていた通り大きなイベントはやっていない。
それでも他の会社と合同なら同じ規模でもやっている。

女性向けのイベントが多い。

一般的なマナー講習や、趣味の世界でお花やワインやチーズやコーヒーや、美容や、運動。それは多種で、その中のパフォーマーや参加者とつながれば、いろんなイベントも可能だと思える。
写真や話を聞く限りにおいては貪欲に人とつながるようなタイプの様だ。

ある程度のノウハウもあり、コネクションもあり。

やはり今までよりどのくらい関わるかの線引きは決めておいた方がいいようだ。

全くそのあたりは当てにならなかった平林君。
今までも他の課のメンバーを同行して打ち合わせをしてた現場にいたのに。
まったくだった。

一度最後まで同行して、どういうかかわりが必要か分かればもっとちゃんと詰めるべきところが分かって、内容のある企画書になるんじゃないかと、そう思った。
が、何でそれを私が考えないといけないのだ。
それは企画課で研修するべきなのに。
本当に教育担当になってしまう。
足枷を自分ではめてどうする。



サイトを閉じた。
この間一生懸命メモっていたのである程度は今後の打ち合わせ内容に反映されるだろう。
そう信じたい。


打ち合わせは金曜日だから。
それまでに情報をとっておくように!!
教育係だったら絶対言うのに。

名刺のメールアドレスに連絡する。
金曜日、よろしくお願いしますと。

すぐに返事が来た。暇なのか?主義なのか?

挨拶の返事に加えて。

『知り合いの店の場所を借りるつもりです。後で平林に連絡いたします。楽しくて実りのある時間になることを願います。  柊 秀介』

店・・・・・・。何だろう?

まあいいや。

平林君に連絡を入れる。
挨拶をしたこと、場所の連絡がそちらに行くと言うこと。





そう、確かに『店』と言っていた。
だけど・・・・何でレストラン?

二人でお店を見上げる。
確かにここで合ってる。

平林君の携帯に来たメールに張り付けられていた場所もお店の名前も合ってる、ここ。

「平林君、ここでいいと思う?」

「はい・・・。楽しく打ち合わせはしたいって。きれいな女性が一緒なら絶対そうするべきだってって・・・・、あ、す、すみません。」

何かを謝られたけどどうでもいい。
女性につけられる冠は適当にスルー出来る自分ですから。



クローズドの看板を見ながら、平林君が中をのぞく。

「人はいるみたいです、あ、柊さんです。」

二歩後ろに下がった平林君を押しのけるようにドアが開いた。

「どうぞ、平林君、篠井さんもどうぞ。お待ちしてました。」

「こんにちは、柊さん。」

「初めまして。篠井です。こちらでよろしかったんですね。」

「ああ、すみません。知り合いのレストランで、二階の個室を借りました。」

笑顔で促されて入る。

一階はキッチンのみ点灯していて入り口も暗い。
二人が入って閉められたドアには鍵がかけられた。

二階に案内してくれたのは柊さんで、大人しく後をついていく。

『お昼は軽めにお願いしますって事です。』

平林君からのメールにもあった。
参加者の人のサンプルのお菓子でも食べるのかと思ってた。
違った。

完全にレストランでの打ち合わせ。
通されたテーブルにはお酒数種類と、細長い皿に数種類のきれいな一口サイズの料理が・・・・。

どこで書類とパソコンを開くの?

聞きたい、打ち合わせですよね。
せめて打ち合わせの後の食事会とかじゃなく、いきなりこんな感じ?

「隣の椅子に荷物は置いてください。料理は試食も兼ねてます。新商品らしいので感想を聞かせて欲しいと言うことです。よろしくお願いします。」

ああ、仕事には関係あったか。

「ディナーの準備があるので一切入っては来ません。イケメンシェフなんですが、ここに二人もいるから十分ですよね。」

笑顔で聞かれた。

「・・・・はい、十分です。」

ちょっと反応は遅れたけど、棒読みにならなかったと思いたい。

丸めこまれそうな調子の良さ。


「いや~、平林君に是非うちの担当さんに会って欲しいと言われまして。噂通りの綺麗な人で、はい、嬉しいです。次のイベントにも参加して欲しいくらいです。」

ひらばやし~。

睨むことは今はしない。でもきっちりと後でしよう、忘れないように!

「ああ、すみません、それは他の営業の者です。今回は私が担当させていただくことになって。残念でしたが、是非またの機会に平林君推薦の営業担当をご指名ください。」

笑顔で言い切るくらいなんてことない。

「でも・・・篠井さんですよね。」

「あ、失礼いたしました。」

名刺を出す。

「篠井です。今回のイベントを担当させていただきます。企画だけを聞いてもとても楽しそうだと思います。御社のサイトを拝見いたしました。いろんなイベントを主催されてるようなので是非ご指導ください。」

「そんな。こちらこそよろしくお願いします。基本は地元の経営者を集める予定です、っと、仕事の話は食事をしながらでも。」

そう言ってグラスにスパークリングワインをついでくれる。
まだ4時過ぎ。
いいんだろうか、嬉しい気持ちが泡と一緒にのぼる心地。

「これはこの間仕事をしたところから頂いたものを持ち込んでます。残ってもしょうがないので飲み切っても大丈夫です。他にも赤と白を持ってきました。」

一体何時間打ち合わせをするつもり?

「篠井さんもお酒は飲める方だと平林君に聞いてたので。」

今度こそ視線を送る。

ひっ。引きつる平林君の表情が見えた。
小さく息をのんだでしょう、今。

「平林君とは一緒に飲んだことはなかったので人違いでしょう。でも私も人並みには大丈夫です。」

ついこの間までは本当になかったし。

「す、すみません。あ、あの、古矢さんに聞きました。同期だからきっと知ってるだろうと思って。」

そんなにビビらないで欲しいんだけど。
何で今日は普通に話してくれないのよ。

今までは大丈夫だったのに。
二人の時はビビるけど、他の人がいればそれほどでもなかったのに。

ちょっとムカッと怒りがわく。
いろいろと。

「食べてください。感想は遠慮なく言ってください。お店に出したいので改善点があれば是非に、だそうです。」

そう言われたら食べるしかない。
とりあえず皿をある程度空にしないと仕事にならない。

数種類の前菜、あとの料理も一口サイズにしてくれているけど。

「これは前菜で・・・忘れましたが、何かです。メインも食べやすいようにしてくれてますが、もっと大きな塊で出てきますよ。気に入ってもらえたら、篠井さん、是非プライベートでデートにご利用ください。」

「はい、いただきます。」

後半の話は無視。

お酒も美味しい、料理も美味しい。

「美味しいです。」

詳しくは語れないが出来るだけ感じたままの感想を告げる。
お酒の感想も添えて。

「いつもこんな打ち合わせですか?」

「いいえ、たまにです。今回は特別です。」

「そうですか。素敵なお店ですね。駅からも近いのに静かそうで。」

静かと言えば、隣を見る。
グラスを持ちぼんやりとしている。

グラスを取り上げてお皿の上に料理を乗せる。
グラスは目の前から少し離す。
酔っぱらわれたら困る。仕事して欲しい。

何で、いつもはあんなにしゃべるのに・・・・・。

「柊さん、今回の主催者側の参加者については全面的にお任せしてもよろしいんですか?」

「はい。これまで参加していただいた方に声をかけてます。大分反応はいいと思います。ライブイベントも同時にやります。他にもその人たちの知り合いにも声をかけてもらってます。1人でやられてる方はパワーあります。任せても大丈夫です。」

「はい、分かりました。」

「じゃあ、お客様側の集客は?どのような方法、媒体ですか?」

「基本は社のサイトからウェブニュースを発信してますし、参加店舗からも集客の案内をしてもらってます。早めに情報を固定して発表したいです。あとは地元紙に掲載したりですかね。来てくれる人も誘いあって来てくれれば充分な集客があると思うんです。」

「はい、そうですね。私も妹に声をかけてみようと思います。」

「妹さんですか?それは是非ご挨拶したいです。似てますか。」

「はい、まあまあ、タイプは正反対ですが顔立ちはそっくりです。誘ってみます。」

「平林君も彼女を誘えばいいよ。」

「ひ、柊さん、い、いません。彼女はいません。」

「残念。一人減ったか。」


ちゃんと聞いてるなら、何か喋って欲しい。
私ももっと食べたいし、飲みたい。
本当に美味しい。
優花に教えよう。



本当に大人しくて困る。
いつもの自由すぎる無責任な意見は今のところなし。

皿を見つめてぼんやりしてる。
さすがに心配になった。

「平林君、体調悪いの?」

「い、いいえ。大丈夫です。すみません。」

じゃあ、何?

柊さんと視線が合う。

柊さんも思ってるかも。


結局それからずいぶんして空になったお皿を寄せて打ち合わせをした。

一緒にやる意味は単に人員確保?
そう思えるくらいにノウハウはあるし、柊さんの会社の人を先頭に立てて進めることになった。
楽と言えば楽。つまらないと言えばつまらないかも。
それでもこの機会にいろんな手順を盗もう、そう思った。



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