5 / 41
5 ますます言い出せないうれしいニュース。
しおりを挟む
二人が帰り、なんとも空気の抜けたような私と、一仕事終えたような教授。
大きくため息をついてソファにもたれて10秒間目を閉じた。
しゃっきり起きるのと同時に目を開けて、お茶セットを片付ける。
「ありがとう。芽衣ちゃん。お疲れ様、良かったね。」
「ありがとうございます。強力なコネを使っていただいて、感謝してます。頑張ります。」
「ああ、まあ、普通にね。」
お茶のセットをきちんと洗い、拭いて、しまう。
「紅茶もとてもおいしく感じました。いいお茶会になって良かったです。まさか今日返事をもらえるとは思ってなくて。」
「ああ、そうした方が僕も芽衣ちゃんも楽しいクリスマスとお正月になるからって。」
教授がそう言う。
「片づけが終わったら座ってくれるかな。」
ソファのところに行って、向かいに座る。
「会社に欠員がない事は聞いたかな?」
「はい。最初に伺いました。」
「あの会社は、社長の春日君と朝陽君の方針だと思うけど、とても人を大切にしてるんだよ。業績は本人達の言葉なら、何とか毎年利益を更新できている、らしいよ。それで新人をとることもなく、ほとんどが社員の紹介で即戦力採用が多いって。欠員が出ないってことは辞める人がいないってことだからね。その所は安心していいから。働き方も相談にのってくれるらしいよ。例えば出産とか、育児とか、介護とかいろいろ。気に入ったら長く働けると思うよ。何か疑問に思うことは言われた通りに遠慮せずに朝陽君に聞いていいから。新人採用もあまりないなら、自分で言った方がいいからね。朝陽君だけじゃなくて、本当に春日君も優しいんだよ。ただ、あんまり笑顔を見せることはないし、表情が豊かじゃないし、ちょっとぶっきらぼうで、冷たく見えるかもしれないけどね。」
「はい。何から何までありがとうございます。」
深々とお礼をした。
「教授は先生と呼ばれてたので、おふたりは卒業生ですか?」
「ああ、学生の頃からの知り合いだからね。」
「二人ともお若く見えましたが、いくつなんでしょうか?」
「30歳になるくらいだね。」
「若くで起業されたんですね。優秀なんですね。」
「二人の力を合わせて、あと人の縁も大切にするから、そんなつながりで仕事は増やしていったみたいだよ。それだけでも信頼できるでしょう?」
「はい。教授の事も信頼してますので、教授に信頼される人の事も信じられます。」
「じゃあ逆に僕に紹介された学生もきっと信頼してくれるだろうなあ。そういえば安田君が待ってるんじゃなかったの?」
「ああ、そうでした。忘れるところでした。5時には終わると言ってたんです。」
バッグから携帯を出す。特に連絡はない。
「じゃあ、今日は早く帰って両親に報告したいので。これで失礼します。あの、これ本当に頂いていいんですか?」
すっかり手に持っていた手土産だが、今更聞いてみる。
「缶も何かに使うって言ってたのに?」
「そうですが・・・・。ありがとうございます。」
「お疲れ、今日はいい夢が見れるね。またね。」
「はい。ありがとうございました、本当に。」
「いいよ。良かった良かった。」
教授の部屋をでて、アンに連絡をしてみた。
あれから2時間も経ってない。
学内にいた。
本当に図書館にいるらしい。
待ち合わせをして外に出た。
「寒いな。温かいもの食べに行こう。鍋にしよう。」
「ごめん、今日は早くうちに帰らなくちゃいけなくて。食事はできないんだ。」
「え~、そうなの?せっかく待ってたのに~って、まあいいや。じゃあちょっとだけな。」
二人で少しいい喫茶店に入った。
何となく内定の事を言い出せない私。
きっと喜んでくれると思うのに。それは分かってるのに。
結局静かに黙ったまま。変だったかもしれない、でも就職のことで元気がないのは知ってるから、まあいいか。
「なあ、前から言いたかったんだけど・・・・・。」
「何?」
顔をあげる。
手に持ったコーヒーカップは一点一点大切に作られたものだと分かる。
手にしっくりきて、あたたかみがあり、コーヒーも美味しそうにも思える。
「なあ、ずっとなんだけど、まったく気が付いてないよな。」
「え?何?なにか変?」
服を見て、髪を触り・・・・。面接だったのに、変だった?
焦って手を動かす。
久しぶりに気合を入れたんだけど、教授も何も言わなかったし・・・・・。
「変とかじゃないよ。ずっと・・・・好きだったんだけど。春にはもう会えなくなるから、ちゃんと言いたくて。芽衣、俺と付き合ってくれないか?」
へっ?
思わず間抜けな顔になったかもしれない。
言ったアンは赤くなって照れてるけど、私はどう?
まったく、何とも思ってない。仲のいい友達。
だって今そう言われても、意識もできない。
「ごめん・・・・・今はそんな気にはなれなくて・・・・・。」
じゃあいつならいいんだろう?
きっとそう思うだろう。
内定を取れたらって思われる?
ますます言えなくなった。
「ごめん、分かってる。もう少し、落ち着いたら、考えてくれないか?」
返事は・・・・・考えても何も感じない私に、期待はしない方がいいのに。
どう言っていいか分からない。
だって初めてのことで。
「ごめん、また改めて言うから。悪かった。今日会えたら、どうしても言いたくなって。帰ろう。」
そう言って伝票を取り上げられた。
「今日は誘ったから、俺が奢るよ。」
そう言って見せられた笑顔はいつもと同じ感じで。
仲のいい友達の一人にしか思えなくて。
好きだけど、違う。多分全然違う。
一緒にいてもドキドキしない。
手をつないでも、肩を組んでも、友達。
それとももっと一緒にいて違うところを見たりしたら、好きになる?
分からない。
財布に手を出すこともなくお礼を言って、二人で駅まで歩いた。
いつもの友達のまま、手を振って別れた。
電車の中でも考えるけど、分からない。
誰に相談していいかも分からない。
みんな友達だから、逆に仲間には相談できない・・・・。
うれしい報告をするはずなのに、こんな顔で帰ったら気を遣われる。
先にお母さんとお父さんに報告しておく。
「内定もらいました。今から帰ります。」それだけ。
二人から返信が来た。
全力のおめでとうが。
教授のおめでとうの顔と、郡司さんの笑顔を思い出して私も笑顔になる。
手には焼き菓子が。
確かに四人で食べてもたくさん余った。
お母さんも喜ぶと思う。
家に帰る頃にはアンの事は小さく胸の奥にしまうことが出来た。
夜はモリモリご飯を食べて、ビールの進んだお父さんと美味しくお菓子を食べるお母さんと、新しく会った二人の事を話して、会話の内容も教えた。
本当にいい夢を見た・・・と思う。すごく、ぐっすり寝た。
大きくため息をついてソファにもたれて10秒間目を閉じた。
しゃっきり起きるのと同時に目を開けて、お茶セットを片付ける。
「ありがとう。芽衣ちゃん。お疲れ様、良かったね。」
「ありがとうございます。強力なコネを使っていただいて、感謝してます。頑張ります。」
「ああ、まあ、普通にね。」
お茶のセットをきちんと洗い、拭いて、しまう。
「紅茶もとてもおいしく感じました。いいお茶会になって良かったです。まさか今日返事をもらえるとは思ってなくて。」
「ああ、そうした方が僕も芽衣ちゃんも楽しいクリスマスとお正月になるからって。」
教授がそう言う。
「片づけが終わったら座ってくれるかな。」
ソファのところに行って、向かいに座る。
「会社に欠員がない事は聞いたかな?」
「はい。最初に伺いました。」
「あの会社は、社長の春日君と朝陽君の方針だと思うけど、とても人を大切にしてるんだよ。業績は本人達の言葉なら、何とか毎年利益を更新できている、らしいよ。それで新人をとることもなく、ほとんどが社員の紹介で即戦力採用が多いって。欠員が出ないってことは辞める人がいないってことだからね。その所は安心していいから。働き方も相談にのってくれるらしいよ。例えば出産とか、育児とか、介護とかいろいろ。気に入ったら長く働けると思うよ。何か疑問に思うことは言われた通りに遠慮せずに朝陽君に聞いていいから。新人採用もあまりないなら、自分で言った方がいいからね。朝陽君だけじゃなくて、本当に春日君も優しいんだよ。ただ、あんまり笑顔を見せることはないし、表情が豊かじゃないし、ちょっとぶっきらぼうで、冷たく見えるかもしれないけどね。」
「はい。何から何までありがとうございます。」
深々とお礼をした。
「教授は先生と呼ばれてたので、おふたりは卒業生ですか?」
「ああ、学生の頃からの知り合いだからね。」
「二人ともお若く見えましたが、いくつなんでしょうか?」
「30歳になるくらいだね。」
「若くで起業されたんですね。優秀なんですね。」
「二人の力を合わせて、あと人の縁も大切にするから、そんなつながりで仕事は増やしていったみたいだよ。それだけでも信頼できるでしょう?」
「はい。教授の事も信頼してますので、教授に信頼される人の事も信じられます。」
「じゃあ逆に僕に紹介された学生もきっと信頼してくれるだろうなあ。そういえば安田君が待ってるんじゃなかったの?」
「ああ、そうでした。忘れるところでした。5時には終わると言ってたんです。」
バッグから携帯を出す。特に連絡はない。
「じゃあ、今日は早く帰って両親に報告したいので。これで失礼します。あの、これ本当に頂いていいんですか?」
すっかり手に持っていた手土産だが、今更聞いてみる。
「缶も何かに使うって言ってたのに?」
「そうですが・・・・。ありがとうございます。」
「お疲れ、今日はいい夢が見れるね。またね。」
「はい。ありがとうございました、本当に。」
「いいよ。良かった良かった。」
教授の部屋をでて、アンに連絡をしてみた。
あれから2時間も経ってない。
学内にいた。
本当に図書館にいるらしい。
待ち合わせをして外に出た。
「寒いな。温かいもの食べに行こう。鍋にしよう。」
「ごめん、今日は早くうちに帰らなくちゃいけなくて。食事はできないんだ。」
「え~、そうなの?せっかく待ってたのに~って、まあいいや。じゃあちょっとだけな。」
二人で少しいい喫茶店に入った。
何となく内定の事を言い出せない私。
きっと喜んでくれると思うのに。それは分かってるのに。
結局静かに黙ったまま。変だったかもしれない、でも就職のことで元気がないのは知ってるから、まあいいか。
「なあ、前から言いたかったんだけど・・・・・。」
「何?」
顔をあげる。
手に持ったコーヒーカップは一点一点大切に作られたものだと分かる。
手にしっくりきて、あたたかみがあり、コーヒーも美味しそうにも思える。
「なあ、ずっとなんだけど、まったく気が付いてないよな。」
「え?何?なにか変?」
服を見て、髪を触り・・・・。面接だったのに、変だった?
焦って手を動かす。
久しぶりに気合を入れたんだけど、教授も何も言わなかったし・・・・・。
「変とかじゃないよ。ずっと・・・・好きだったんだけど。春にはもう会えなくなるから、ちゃんと言いたくて。芽衣、俺と付き合ってくれないか?」
へっ?
思わず間抜けな顔になったかもしれない。
言ったアンは赤くなって照れてるけど、私はどう?
まったく、何とも思ってない。仲のいい友達。
だって今そう言われても、意識もできない。
「ごめん・・・・・今はそんな気にはなれなくて・・・・・。」
じゃあいつならいいんだろう?
きっとそう思うだろう。
内定を取れたらって思われる?
ますます言えなくなった。
「ごめん、分かってる。もう少し、落ち着いたら、考えてくれないか?」
返事は・・・・・考えても何も感じない私に、期待はしない方がいいのに。
どう言っていいか分からない。
だって初めてのことで。
「ごめん、また改めて言うから。悪かった。今日会えたら、どうしても言いたくなって。帰ろう。」
そう言って伝票を取り上げられた。
「今日は誘ったから、俺が奢るよ。」
そう言って見せられた笑顔はいつもと同じ感じで。
仲のいい友達の一人にしか思えなくて。
好きだけど、違う。多分全然違う。
一緒にいてもドキドキしない。
手をつないでも、肩を組んでも、友達。
それとももっと一緒にいて違うところを見たりしたら、好きになる?
分からない。
財布に手を出すこともなくお礼を言って、二人で駅まで歩いた。
いつもの友達のまま、手を振って別れた。
電車の中でも考えるけど、分からない。
誰に相談していいかも分からない。
みんな友達だから、逆に仲間には相談できない・・・・。
うれしい報告をするはずなのに、こんな顔で帰ったら気を遣われる。
先にお母さんとお父さんに報告しておく。
「内定もらいました。今から帰ります。」それだけ。
二人から返信が来た。
全力のおめでとうが。
教授のおめでとうの顔と、郡司さんの笑顔を思い出して私も笑顔になる。
手には焼き菓子が。
確かに四人で食べてもたくさん余った。
お母さんも喜ぶと思う。
家に帰る頃にはアンの事は小さく胸の奥にしまうことが出来た。
夜はモリモリご飯を食べて、ビールの進んだお父さんと美味しくお菓子を食べるお母さんと、新しく会った二人の事を話して、会話の内容も教えた。
本当にいい夢を見た・・・と思う。すごく、ぐっすり寝た。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる