内緒にしていた視線の先にいる人。

羽月☆

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4 春休みの思い出作りにだって、まだ間に合うと思いたい。

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『なんで?』


『それでそのまま帰ってきたの?』


『電話番号も知らないくて、家も分からなくて、約束も出来なくて。どうするの?』



『俺が最後まで付き添いで行けばよかった?』



『もう、すごく楽しみにしてたのに。何でだよ・・・・。』


責められてる、もしくはかなり同情されてる。
正確に会話を再現できたと思う。
本当に短い間のやり取りだったし。

友達二人の付き添いをしてその恋愛を応援したらしい彼女は、僕の分も応援してくれると言った。最後のセリフはそういうことだと思う。


一緒にいれたことが最大級のいい思い出になるって伝えたかったのに。
多分伝わらなかった。
むしろ余計な誤解をされたかもしれない。

あそこに二度もいたのは偶然じゃなくて、汐さんを待っていたとちゃんと正直に言うべきだった。とりあえず今日は。


最後の最後のチャンスだから、彼女が友達と喋ってから帰るとナオに聞き出してもらって。
だからゆっくりあそこの駅に行って、ずっと待ってた。

お尻が冷えて痛くなるくらい待ってた。

きっと僕に気がついた人はいたと思う。
何してるんだろう?
ずいぶん待ち人が遅れてるんだろうなあ?
そう思われたかもしれない。
うっかり本や携帯に目を落としてて、彼女を見逃したら悲しいから。
ずっと駅の改札を見ていた。

退屈だったので、行きかう人を細かく観察していた。

誰もが無表情で降りてくる。
知り合いと話ながらの人はそうでもないけど、大人は無表情。子供だって無表情。

でもその中に彼女を見つけたときに、表情はうっすらだけどやっぱり綺麗だとも思った。

無表情とかじゃなくて綺麗な人だなあって。
一年前の横顔に最初にそう思ったけど、正面でも目の動かし方がきれいだった。
横には動くけど、あんまり縦に動かない気がする。
すっと横に動いてる感じだった。

賢そうな猫を思わせる目。
丸い目じゃないのに、すっと何かを見る目つきの猫を思わせる。
家猫より野生の猫のような。

でも優しいのを知ってる。

数学も教えてもらった。
友達の告白にも二度、付き合ったらしい。
他人のことなのにうれしくて自分もいい思い出になったと言うくらい優しい。

クールな感じは最初だけ。

すごく自分を惹きつけたのに、他にはライバルがいなかったのが幸いだった。
誰かが彼女のことをそう言ってるのは聞いたことがない。

逆に何でだろうって思ったくらい。

そういえば最初の頃、友達に年上の彼氏がいそうだと言われていた。
確かにそんな感じだった。
第一印象は自分達より大人びてる感じだと思った。

何でだろう?

とにかく今日は最後のチャンスだから、絶対春休み中にも会いたいと言おうと思った。
二人で、デートをしたいと思った。
だからその前にきちんと言いたいと思ってた。

彼氏がいないのは知ってる。

だからといって好きな人がいないとは限らないけど。


僕は好きな子がいると言った。
あの時つい言ってしまった。

すぐそこにいると言いたかったくらいだったのに。


全然駄目なんだろうか?
仲良く話をしたほうかなって思ってた。
男女一緒にいるグループが時々交わって仲良く話をしてるときに、近くにいたと思う。
自分がさりげなくそう動いていたし。



図書室でも時々、一人でいる時を見つけたら近くに行った。
数学の宿題を教えてもらいたいと、わざと手にプリントを持って。


『なあ、結局ちゃんと言えてないんだよな。一度くらいは言ったほうがいいよ。後悔するよ。』

まだ電話はつながってたらしい。

「自信はないんだ。完全にそんな感じだった。」

「むしろ最後にナオと一緒に喋ってたときのほうが楽しそうだったよ。」

本当は最初誤解していた。
彼女がナオを見てると思ったことがあった。
その視線を自分に引き寄せたくて声をかけた。
それが数学を教えてもらうきっかけになった。


『そんなの適当な世間話だし。俺が気がついた感じではやっぱりお前だよ、そう思ったんだけど。」

ナオはそう言ってくれる。

『じゃあ、一緒に行こう。途中まで一緒に行ってやる。彼女が二度もそんな付き添いをしたんだったら俺がそこに居ても変だとは思わないよ。すぐに彼女が来たら俺は帰るから。告白は聞いてやらないから。自由に思いを伝えればいいし。」

そうは言われても・・・・・。

「連絡先、聞いてない。」

『そんなの簡単だ。俺の手元にある。実家の番号ならある。』

「何でだよ。」

ちょっとムッとした。

『同窓会の集合をかけたいって、先生に貰った。実家だからいいだろう。俺が相談したいことがあるから会いたいって伝える。明日一日大丈夫だろう?』

「大丈夫。」

『じゃあ、今から連絡してみるから。待ってろ。』


そういって電話は切れた。
任せておけばいいようにやってくれるだろう。
昔から器用だった。
同じ幼稚園に通っていた、そんな昔から仲が良かった。

「新しい家をお父さんが買ったんだ。」

そう言って途中いなくなり、小学校も別々だった。
そして高校で再会した。
あんなに頭がいいなんて知らなかった、そもそも家は近くに買ったらしい。
幼稚園児には遠いけど、中学生だったら全然行動範囲じゃないか。

そして面倒見がいいとも知った。

すっかりお願いして、また連絡待ちの状態になった。

これでモジモジして言い出せなくて、何も変わらなかったら、呆れられるかもしれない。
さすがにそれは・・・・・悲しい。


最初、どうしても気になって、正直にナオに言ったことがある。

「ねえナオ、汐さん、どう?」

「汐さん?よく知らないけど。」

「なんとなくだけど、汐さん、ナオの事が気になるんじゃないかな?」

まさかそのセリフを言った時に自分が真っ赤になってるなんて、思わなかった。
気を利かせて教えてあげたって、そんな風に切り出したのに。

「ふ~ん、美人だしね。気になるなあ~、どんな人かな?今度話してみるよ。何か聞いてみたいことある?」

「ないよ。」

すぐに後悔した。ナオが興味持ったら、ダメじゃないか。 
言い出すんじゃなかった・・・・すぐにそう思った。

「なんてね、さすがに親友の片思いに割り込むつもりはないし。」

そう言われて顔をあげた。

「真っ赤だし。バレバレ。」

そう言って笑ったナオ。

「今度ちょっと気にしてみる。今まで視線感じたことないし、気のせいじゃん。」

そう言ったナオ。
親友思いだったことに感謝だ。



「なあ、この間のことだけど、彼女は俺よりお前を見てると思うよ。」

「何?」

「汐さん、俺じゃないのは確かだし、他の奴よりはお前じゃないかな?」

「そんなことないよ。たまたま近くにいて話をすることがあるだけだよ。」

「正しくはさりげなくお前が近くに行ったら、彼女と来生さんが近くにいるって感じだな。」


来生さんとは確かによく話をしてた、よく話しかけられた。
そして隣に彼女がいることも多かった。

分からない。

ナオは来生さんのことはよく見えてたらしい。
じゃあ、彼女のことも・・・。

分からない、やっぱり自信は全くない。

今日のやり取りをもう何度も思い返してるのに、やっぱりそうとしか言えない。


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